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第六話

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 そうして始まったモニカとの新婚生活。新居は、僕とモニカの為にブランカ男爵家の前当主が暮らしていた古家を、義理の両親となった夫妻が改修して用意してくれてね。まぁ、この家の事なんだけど、王都の中心部からは外れているけれど、小さくとも趣のあるいい家だろう。正直なところ、家令もおらず下級メイドも義理の両親が雇っている通いの子一人しかいないし、王族だった頃と比べれば暮らしは貧しいから、不便な事も多い。愛するモニカとの結婚生活は苦労の連続で、王族であった頃の暮らしとの違いがこんなに大きいとは想像もしていなかった。不満はないとは言わないよ。それでも僕は…モニカが居てくれればそれで良かったんだけど…。



 この家に引っ越ししてからモニカが働きによく出かけるようになって、一緒にいる時間が減ったんだ。僕の資産は結婚式と新婚用の家具を揃えるのに使い切ってしまったし、義理の両親が生活費を毎月送ってくれるけれど、それだけでは足りないのが現状で。だからモニカは率先して働きに出掛けてくれていたんだ。モニカが見つけた仕事は夜の時間帯が務め時間だったようで、夜に出掛けるのは危ないし不用心だと言ったんだけど、お金は大事だからって言ってね。ここで生活をするようになってから、僕にもお金の大事さは良く分かるようになったよ。義理の両親から節約術なる物を教わって実践しているけれど、貴族としての最低限の見栄もあるからそれにも限度がある。幸せにすると誓ったモニカに、こんな苦労をかけてしまう事に情けなさと不甲斐なさを感じたな…。



 言っておくけれどもちろん、僕自身も何もしなかった訳じゃない。荷運びなどの日雇いの仕事と言うモノを経験したけれど、体力の足りない僕には向いていなかったようですぐに辞めさせられてね。王子だった頃に利用していた商家に行って、仕事はないかと訪ねてみたりもしてみたのだけれど、どこも門前払いにされて話さえまともに取り合ってくれなかった。他に手紙や書類の代筆とか文官系の仕事はないか探したのだけれど、それは義父に止められてしまった。安易に他の貴族に関わったり、何に利用されるか知れない僕の筆跡が残るような仕事は認められないってさ。文官系の仕事は貴族が関わる事が多いから少なくとも、王女のどちらかが王太子として決まるまでは用心に越したことはないって言われてしまえば、僕は何も言えない。妹達が王太子になった場合、我が国の歴史上で初の女王誕生となる。それを邪魔に思う貴族が必ず現れるだろうことは僕でも予測できるからね。そんな貴族に手紙の代筆仕事と称して僕に接触したり、僕の筆跡を悪用しようとする者が居たら最悪だ。今は、時々義理の父から頼まれる過去の書類整理とか古い書物の翻訳とかを手伝っているかな。モニカの実家の手伝いになるから基本は無給だけど、送ってくれる生活費をたまに少しばかり増額してくれているしから文句はないよ。



 そんな事情もあって、モニカは僕達の生活の為に毎晩熱心に働きに出掛けていた。どこで働いているのか尋ねても、パーティーの手伝いとか言って詳しくは教えてくれなかったけれど、お金や貴金属を持ち帰って来ることがあったからモニカも頑張っていたんだと思う。そんな頑張り屋のモニカだったけれど、次第にこの家に帰って来ないことが増えて来たんだ。最初の頃は、深夜または朝方には必ず家に帰って来ていたのに、どこかで一泊どころか三泊、四泊ぐらいしてくるようになってしまって。さすがに注意したけれど、お金の為だからって言って聞いてもくれなくなった。モニカが帰って来ない家は酷く冷たい気がして、寂しく感じたよ。結婚してから三年経って、どんなに注意しても時には喧嘩になってしまっても、どうしても仕事を辞めてくれなかったモニカだったけれど、僕はようやくその理由が分かったんだ。…実はモニカがね、妊娠したんだよ。新たに家族が増えるんだ。つまり、今後お金が更に必要になる事を、モニカは僕より理解していたんだ。ふふふ、きっと彼女に似て可愛い子が産まれる。子供が生まれたらモニカも戻ってきて、僕達の愛が暮らしをより豊かにしてくれるだろうし、この家は幸福に満ち溢れるだろうね。


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