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前編
しおりを挟む本日、専属の庭師によってしっかりと手入れされた中庭を見渡せる一室にて、友人達を招いたお茶会を開きました。いつもでしたら本宅でお茶会を開いていたのですが、今回は景色がいいからと母が何年も前に購入した別荘で開くことになりました。
勿論、そうなった理由はちゃんとあります。とある国のそこそこ裕福な伯爵家の令嬢として生まれた私は、先月に執り行われた私の婚約者である伯爵令息の誕生日パーティーで、その婚約者ご本人から婚約破棄を宣言されてしまいましたの。彼の隣には何故か私の義理の妹がおり、不安そうにしかし彼の手を放すまいとぎゅっと握っておりましたわ。その後、パーティーは彼のご両親が何とか手回し、予定の半分ほどの時間で終了。私は婚約破棄の宣言をされた後、彼の家の執事によってすぐに移動を促されたので、パーティーの間中案内された部屋で私の両親と共にゆっくりお茶を頂いておりました。恐らく彼と義妹も別室に案内されていたのでしょうね。
我が家以外の招待客が帰った後一つの部屋に集まり、両家の親と共に問題を起こした二人の話を聞いたところ、『お互いに真実の愛で結ばれているので結婚したいと常々思っていた。けれど彼は養女である義妹ではなく、正当な伯爵家令嬢である私と婚約している。貴族の立場的に愛し合っているからという理由だけでの婚約破棄は難しいと考えて、親族や友人たちが集まった誕生日パーティーで堂々と宣言する事で無理にでも両家に認めてもらおうと実行した』という事のようでした。それまでも彼が私の義理の妹と共に居る事が多いな、とは感じてはいましたが、まさかこんな形でその理由が露見するとは思っても居ませんでした。義妹には何度も謝られたが、相談してくれれば良かったのにと思うだけで、怒りはありませんでしたわ。
私は婚約者であった彼を嫌っていた訳ではありません。ただ十年間婚約者であった彼の事は、彼の方が年下であることも踏まえて弟のような感覚であったからでしょう。義妹についても彼女を養女として引き取るまで一人っ子であった私にとって、ものすごく可愛いく愛しい存在ですし。そんな二人が結ばれて幸せになってくれるなら、私としてもそれで良かったのです。
結局、婚約問題に関しては『破棄』だと体裁が悪いので、『円満解消』という形で成されることになりました。代わりにそれだけ想い合っているのであればと、彼と義妹が婚約期間を飛ばして元々私との結婚式の予定であった再来月に結婚する事が決まりました。次男であった彼が我が家へ婿入りの予定でしたが、あちらの伯爵家当主から男爵の爵位を譲与されることになり、義妹が男爵家に嫁入りする形になりました。ただ男爵家の領地はありませんので、仕事があるだろう王都に夫婦揃って移り住む事になるそうです。彼は将来騎士となる夢がありましたから、王都で暮らすならその夢も叶うかもしれませんね。ただ可愛い義妹とすぐに会える距離では無い事だけが残念ですが、致し方ありません。
それから我が家では義妹の結婚がこんなに早いとは思っていなかった為、ちっとも準備していなかった義妹の花嫁衣裳作りや嫁入り道具の準備等で、てんやわんやの大忙しです。本来なら結婚する予定であった私の為に準備していた物をそのまま流用する訳には参りませんもの。一から全部用意しなければならず、お金は足りても商家や工房への手配、式の参加者リストの見直し等々とても我が家だけでは手が足りないので、親族にも集合を掛けて一丸となって準備を進めております。
当然私も一緒に手伝っていたのですが、どことなく気まずそうな義妹の様子を見てか、お母様とお婆様から『貴方は少し息抜きしてなさい』と言われて追い出されてしまいました。まぁ、私はとろいとよく元婚約者に叱られていましたから、戦力外と見なされたのかも知れませんが。
しかしながら、本宅は準備で人の出入りがいつになく激しいので、どの部屋に居ても落ち着きません。ですので、我が家が持つ本宅と同じ領内にある別荘の利用許可を得ることにしたのです。そこならば景色もいいですし、息抜きに持ってこいの憩いの場所。せっかくですので親しい友人達とお茶会でも開けば気も紛れますわね。…あぁ、招くのは仲の良い子爵家の令嬢と侯爵家の令嬢のお二人がいいですわね。彼女達と話していればあっという間に時間が過ぎるでしょう。
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