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古いケージは、扉を開けるたびにギッーと嫌な音がした。
大きさだけは自慢できるケージの中に今は3人いた。
「No.115」
扉を開けた男の声に、ぴくりと頭の上にある耳を動かしたのは、小さな猫の獣人だった。
「来い」
拒否権はない。
「No.115、任務だ。サリス公爵家に潜り込み、機密情報を盗んで来い」
「はい」
「侍女見習いに化けろ。名前はエディナ。
後はいつものように速やかに任務を成功せよ」
失敗したら、どうなるかは言われなくても知っている。ケージから出されて帰って来なかった獣人は両手では足りない。

No.115はおそらく8歳前後だ。
気がついたら、ケージの中にいたため、正確な年齢はわからない。
ケージには今、獣人だけが捕まっていた。人間がいるときもある。
獣人も人間も、組織の捨て駒だ。
No.115も、諜報業務を強制されている。
ここまで何とか生き残っているのが自分でも、不思議だった。諜報業務には危険が多いのだ。
だが、組織から逃げることはできない。
何人、逃亡を企て、残忍に始末されたか。
No.115には他に生きる道は最初からなかった。

この世界には人間と獣人がいる。
両者は折り合いをつけて、仲良くやっている。
結婚したり性交渉することはできないが、ほどほどに平等に暮らしている。
No.115がどうしてケージの中にいるのか、理由はわからない。けれど、どんなに平和な世界にも暗部はある。今彼女がいるのは光の当たらない真っ暗闇のような世界だった。

命令を受けたのだから、すぐに取りかからねばならない。
サリス公爵家の資料を念のためにもう一度見直す。
だいたいの貴族の血縁、家族構成は頭に入っているが、間違いは許されないのだから、慎重にもなる。
「まずい」
No.115は、ひとりごとを普段は言わない。
だが、資料の中に見落とし、いや、最新の追加情報があった。
サリス公爵の一人娘が亡くなっていた。
つい最近、不幸な事故で8歳で。

No.115と年齢が近い。そして、
髪色と目の色はまったく同じだった。
侍女見習いとして、No.115が選ばれたのはきっとこのためだ。
人間ではないが、亡くした娘に似た少女が近くに現れれば、特別待遇をしてしまうこともあるだろう。
そのために油断もするだろう。
そこをNo.115は利用する。
まずくはなく、むしろ、ラッキーだ。
「そうやってつけ込む真似はしたくないが、仕方ない」
独り言は続いた。
明日から、エディナとしての仕事が始まる。



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