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フリージアはずっとここにいる。
何も覚えていない。赤ちゃんのときから、今まで、お母さん、と呼んでる人に面倒を見てもらってきた。だが、彼女が実の母というわけではない。
娼館で働くことはあまりいいことではないのはわかる。けれど、フリージアは他に生き方を知らない。
ナティは自分とはちがう生き方ができるように思えて、いろいろ教えていこうと思っていた。

「まずは見た目ね」
フリージアは、ナティを自分の前に座らせてその容姿をじっくり観察した。
「ちょっと立って」
次は立ってる姿をしっかり目に収めた。
ナティは穴が開くほど見つめられて、恥ずかしかった。
フリージアは見れば見るほど美しい人だ。
あまりに差があって、比べる対象にすらならない。

「そうねぇ。お肌のお手入れからしましょう。食べ物や飲み物も気をつけて、
髪も良くお手入れしましょう」
そう言われてから1週間。特に変化はないように思ったが、その間もフリージアの特訓は続いていた。
歩き方、立ち方、振り向き方、ともかくすべての動きをフリージアは矯正していく。ナティは泣きながら、必死にフリージアについていった。

「そうよ。生まれ持った顔は変えられない。でも、所作はちがう。美しい動きは本物の美しさにつながるわ」
ナティはフリージアにすべてを預け、信じ、言われる通りになんとか体を動かし続けた。
2週間目、ナティは鏡に映る醜い自分の顔をじっと見つめた。
フリージアに笑顔と泣き顔を練習してみなさいと言われている。
笑顔は醜さをカバーできるか、
泣き顔は醜さを増やさないようにできるか、特訓だ。

どちらも惨敗だった。
フリージアはいきなりはできないのよ、と優しく頭を撫でてくれた。
ナティは挫けなかった。
美しい所作を必死に心がけた。
「あら、いい感じね。ちゃんとしたお嬢様みたいよ」
ナティは最初はお嬢様だったが、このような教育は受けていなかった。
だいぶ綺麗に動けるようになると、
フリージアは次はねぇ、と優しい口調で言い始めた。
「何語から勉強しようかしら。やっぱり大陸語かなぁ。最低5カ国語。あとは帳簿とか事務的なこともね」
ナティは驚いてしばし固まった。
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