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ナティアンヌは8歳で、娼館というのがどういう所なのか何も知らなかった。
連れて行かれた娼館で、ナティアンヌを買い付けた男はお母様より年上の女性に向かって、
「格安でお貴族様の娘を連れてきた」
「どこがお貴族様だ。こんな醜女に客の相手をさせられるか。年も幼すぎるし」
ナティアンヌは泣き出してしまった。
ずっと我慢していたのだ。まさか親に売られるとは思ってなかった。そして、
娼館でも、ナティアンヌは役に立たないらしいのだ。

「どこへ行けばいいの?」
涙が止まらなくなった。
「おやめ、お前が泣くと余計に醜いだけだ」
その言葉でだれが泣き止むだろう。
ナティアンヌは、泣き続けた。
「お母さん、新しい娘が来たの?」
「いや、手違いだ。フリージア、お前さんのような売れっ子には無関係さ。仕事の時間までのんびりしておいで」
プラチナブロンドにピンク色の瞳をした娘が、通りがかりに声をかけた。
「泣いたらダメよ」
ナティアンヌの頭を撫でてくれる。
真っ直ぐ顔を見ながら。
誰もが醜いと背ける顔を。
「お姉さん、誰?」
「私?フリージアよ。ずっとここにいるの」

「泣いたら解決すること以外で泣いたらダメよ。明るい顔をしてるの。醜いと言われても。そうやって乗り越えるのよ」
フリージアの言葉を聞いて、ナティアンヌは泣きやめた。
「まずはそうね。お母さん、この娘は、私預かりでいいかしら?」
「はぁ、まあ、構わないが、フリージアの邪魔にならないかい?」
「大丈夫よ。こういうことには慣れているから。見目も任せて。お行儀と見目を整えるわ。でも、あの娘、ここには向かないと思う」

「ナティアンヌ、そんな長い名前、ここでは誰も呼んでくれない。ナティと名乗りなさい。仕事は私の助手ね」
ナティアンヌはナティになった。
貴族ではなくなったのだから、当然だが、フリージアに言われると、納得してしまう。
説得力があるのだ。
ナティアンヌはナティとしてフリージアのもとで、初めて頭を撫でてくれた人のもとで、しばらく生きることになる。
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