2 / 10
2.
しおりを挟む
ナティアンヌは8歳で、娼館というのがどういう所なのか何も知らなかった。
連れて行かれた娼館で、ナティアンヌを買い付けた男はお母様より年上の女性に向かって、
「格安でお貴族様の娘を連れてきた」
「どこがお貴族様だ。こんな醜女に客の相手をさせられるか。年も幼すぎるし」
ナティアンヌは泣き出してしまった。
ずっと我慢していたのだ。まさか親に売られるとは思ってなかった。そして、
娼館でも、ナティアンヌは役に立たないらしいのだ。
「どこへ行けばいいの?」
涙が止まらなくなった。
「おやめ、お前が泣くと余計に醜いだけだ」
その言葉でだれが泣き止むだろう。
ナティアンヌは、泣き続けた。
「お母さん、新しい娘が来たの?」
「いや、手違いだ。フリージア、お前さんのような売れっ子には無関係さ。仕事の時間までのんびりしておいで」
プラチナブロンドにピンク色の瞳をした娘が、通りがかりに声をかけた。
「泣いたらダメよ」
ナティアンヌの頭を撫でてくれる。
真っ直ぐ顔を見ながら。
誰もが醜いと背ける顔を。
「お姉さん、誰?」
「私?フリージアよ。ずっとここにいるの」
「泣いたら解決すること以外で泣いたらダメよ。明るい顔をしてるの。醜いと言われても。そうやって乗り越えるのよ」
フリージアの言葉を聞いて、ナティアンヌは泣きやめた。
「まずはそうね。お母さん、この娘は、私預かりでいいかしら?」
「はぁ、まあ、構わないが、フリージアの邪魔にならないかい?」
「大丈夫よ。こういうことには慣れているから。見目も任せて。お行儀と見目を整えるわ。でも、あの娘、ここには向かないと思う」
「ナティアンヌ、そんな長い名前、ここでは誰も呼んでくれない。ナティと名乗りなさい。仕事は私の助手ね」
ナティアンヌはナティになった。
貴族ではなくなったのだから、当然だが、フリージアに言われると、納得してしまう。
説得力があるのだ。
ナティアンヌはナティとしてフリージアのもとで、初めて頭を撫でてくれた人のもとで、しばらく生きることになる。
連れて行かれた娼館で、ナティアンヌを買い付けた男はお母様より年上の女性に向かって、
「格安でお貴族様の娘を連れてきた」
「どこがお貴族様だ。こんな醜女に客の相手をさせられるか。年も幼すぎるし」
ナティアンヌは泣き出してしまった。
ずっと我慢していたのだ。まさか親に売られるとは思ってなかった。そして、
娼館でも、ナティアンヌは役に立たないらしいのだ。
「どこへ行けばいいの?」
涙が止まらなくなった。
「おやめ、お前が泣くと余計に醜いだけだ」
その言葉でだれが泣き止むだろう。
ナティアンヌは、泣き続けた。
「お母さん、新しい娘が来たの?」
「いや、手違いだ。フリージア、お前さんのような売れっ子には無関係さ。仕事の時間までのんびりしておいで」
プラチナブロンドにピンク色の瞳をした娘が、通りがかりに声をかけた。
「泣いたらダメよ」
ナティアンヌの頭を撫でてくれる。
真っ直ぐ顔を見ながら。
誰もが醜いと背ける顔を。
「お姉さん、誰?」
「私?フリージアよ。ずっとここにいるの」
「泣いたら解決すること以外で泣いたらダメよ。明るい顔をしてるの。醜いと言われても。そうやって乗り越えるのよ」
フリージアの言葉を聞いて、ナティアンヌは泣きやめた。
「まずはそうね。お母さん、この娘は、私預かりでいいかしら?」
「はぁ、まあ、構わないが、フリージアの邪魔にならないかい?」
「大丈夫よ。こういうことには慣れているから。見目も任せて。お行儀と見目を整えるわ。でも、あの娘、ここには向かないと思う」
「ナティアンヌ、そんな長い名前、ここでは誰も呼んでくれない。ナティと名乗りなさい。仕事は私の助手ね」
ナティアンヌはナティになった。
貴族ではなくなったのだから、当然だが、フリージアに言われると、納得してしまう。
説得力があるのだ。
ナティアンヌはナティとしてフリージアのもとで、初めて頭を撫でてくれた人のもとで、しばらく生きることになる。
10
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
【完結】彼女の名前は誰も知らない
ここ
ファンタジー
諜報活動をしている猫の獣人、No.115。推定年齢は8歳。任務についた公爵邸で、侍女見習いに化ける。公爵邸は失った娘によく似た侍女見習いに驚く。No.115はそれも利用して、命がけの任務遂行を目指す。
だが、失くした娘に似たNo.115に、公爵一家は優しくて…
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
悪役令嬢のわたしが婚約破棄されるのはしかたないことだと思うので、べつに復讐したりしませんが、どうも向こうがかってに破滅してしまったようです。
草部昴流
ファンタジー
公爵令嬢モニカは、たくさんの人々が集まった広間で、婚約者である王子から婚約破棄を宣言された。王子はその場で次々と捏造された彼女の「罪状」を読み上げていく。どうやら、その背後には異世界からやって来た少女の策謀があるらしい。モニカはここで彼らに復讐してやることもできたのだが――あえてそうはしなかった。なぜなら、彼女は誇り高い悪役令嬢なのだから。しかし、王子たちは自分たちでかってに破滅していったようで? 悪役令嬢の美しいあり方を問い直す、ざまぁネタの新境地!!!
〈完結〉髪を切りたいと言ったらキレられた〜裏切りの婚約破棄は滅亡の合図です〜
詩海猫
ファンタジー
タイトル通り、思いつき短編。
*最近プロットを立てて書き始めても続かないことが多くテンションが保てないためリハビリ作品、設定も思いつきのままです*
他者視点や国のその後等需要があるようだったら書きます。
やはり婚約破棄ですか…あら?ヒロインはどこかしら?
桜梅花 空木
ファンタジー
「アリソン嬢、婚約破棄をしていただけませんか?」
やはり避けられなかった。頑張ったのですがね…。
婚姻発表をする予定だった社交会での婚約破棄。所詮私は悪役令嬢。目の前にいるであろう第2王子にせめて笑顔で挨拶しようと顔を上げる。
あら?王子様に騎士様など攻略メンバーは勢揃い…。けどヒロインが見当たらないわ……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる