【完結】冷たい手の熱

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「アユにい、海はすごいね!広いね!」
満面の笑顔でユキノが言うと、アユルは
「ユキノ、海はきれいだけど、こわいとこだから、油断しちゃダメだよ」
ユキノは今日はつばの広い帽子をかぶらされている。
その奥にある瞳はキラキラ輝いていた。
サティも姿を見せて、一緒に海を見ていた。
「アユにい、人魚姫はどこにいますか?」
ユキノは言葉覚えも早かったが、喋り方は無意識なのか、気を許しているときと家族でも丁寧なときがあった。
「人魚姫かぁ。会わせてあげたかったけど、泡になっちゃったら、もう海と区別できないんだ。ある意味、この海全部が人魚姫だよ」
この海全部、と言われてユキノは呆然とした。さすがに王子様に海と結婚するように説得することはできない。

アユルは落ち込むユキノを眺めた。アユルの妹なだけに、容姿はよく似ている。
けれど、ユキノはどこか儚く、頼りなげだ。人魚姫のことも本気なのだ。
アユルは、かわいい妹に夢中なまま、15歳になった。ユキノとの仲の良さは変わらないが、アユルを取り巻く環境は少しずつ変わっていた。
そろそろ婚約者をと、両親がリストアップしてお見合いを目論んでいることは知っていた。
問題は、誰が相手でも、ユキノより可愛いとはおそらく思えないだろうこと。
アユルは自分が長男でなければよかったと珍しく不満だった。

アユルは恵まれていた。優しい両親。裕福な伯爵家の長男。かわいい弟たち。優れた頭脳。運動も得意。容姿はファンクラブができるほど。
10歳にして、人生甘いと思っていた。
ユキノが生まれたとき、初めての妹がうれしくて、両親の許可を得る前にこっそり見に行った。アユルの乳母がユキノのお世話係にいたために、部屋に入れてくれた。
ユキノを一目見たアユルは、不思議な感覚にとらわれていた。
「やっと会えたね」

婚約しても、アユルの1番はユキノだろう。一歳下の弟にすべてを譲ることも考え始めた。けれど、ユキノだっていつかは結婚するのだ。ユキノの気持ちはアユルとはちがうだろう。
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