【完結】ナンナと子犬

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ナンナは婚約破棄された?

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「どうして?私が嫌いになったの?」
ナンナはまっすぐ聞いた。
「ちがうんだ。伯爵家から、結婚を申し込まれていて断れない。うちにはまだ兄弟がいて、伯爵家に逆らったら、どんな目にあわされるかわからない。本当にすまない」
「うっ」
ナンナは泣いた。号泣した。コルトが背中をさすってくれる。
「ナンナ、ごめんな」

ナンナは泣き疲れて、眠ってしまった。
コルトは優しく抱き上げると、馬車へ連れて行った。
「ナンナを冒険者酒場まで連れて行ってくれ」
ナンナは馬車の中で目覚めると、また1人になってしまったと思った。悲しくて、コルトが恋しかった。

なんとなく途中で馬車を降りた。
少し歩いたら、気分も変わるかもしれない。
森のある方に歩き始めたら、何か叫んでるような声がした。
「わぅ、きゅーう」
犬の声だった。つらそうな声だ。
ナンナは動物が大好きだ。
急いで駆け寄った。
「ひどい」
小さな小さな犬だった。クマかなんかのための罠にかかって、足が仕掛けにはさまっていた。
血がたくさん出ている。
「ワンちゃん、大人しくして。助けてあげるから」

子犬はまるでナンナの言葉がわかったかのように大人しくなった。
ナンナは急いで罠を外した。
少し手間取ったけど、これ以上子犬を傷つけないように優しく罠から助け出した。
「きゅーん」
子犬はナンナの手に顔をこすりつけた。
「可愛い」
ナンナは手当てをしなくては、と動物病院に連れて行った。

動物病院では、止血をして、ちょっと縫ってもらった。
「足は大丈夫ですか?歩けるようになりますか?」
「大丈夫だと思いますよ。災難でしたね」
ナンナが男爵家からもらったほんのちょっぴりの慰謝料は子犬の治療代になった。

ナンナは小さな部屋に住んでいる。そこに子犬を連れ帰った。
子犬はとても賢くて、トイレもご飯もすぐに覚えたし、無駄吠えしたりもしない。
これなら、ナンナの部屋で暮らせそうだ。

ナンナは1人になるとコルトのことを考えてしまうので、子犬の存在に救われた。子犬は愛らしい。撫でたり、傷に支障がない範囲で遊んでやったりすると、ナンナも楽しかったし、子犬も楽しそうだった。

「名前を考えなきゃ」
ナンナは思いつく名前をいくつか検討した結果、アルディと名付けることにした。
「アルディ、いい気がするわ」
子犬に呼びかけてみると、ワンと返事をした。
「いい子ね」
今日も冒険者酒場で働くナンナはアルディに呼びかけた。
「行ってくるわ。いい子にしててね」


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