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「あぁ。素晴らしすぎて、泣きそうですわ」
刺繍の講師が本当に泣き出してしまった。
アルセンヌは、またやらかした、と反省した。思わず全力で刺繍してしまった。
講師の涙は止まらない。
「あの短時間でこんな複雑な刺繍をなさるなんて」
ようやく泣き止んだ講師が、
「お教えすることは何もありません。弟子になりたいくらいです」
と半ば本気で言った。
アルセンヌは刺繍のために空けていた残り時間に、王太子に会えないか取り次いでもらった。
運の良いことに、王太子も空き時間で、一緒にお茶をすることになった。
薔薇の美しい庭園で。
初めて会う王太子は、黒髪黒目、でも、太ってはいなくて、筋肉が程良くて、誰が見ても美丈夫だ。
彼の目にアルセンヌはどう映るだろう。
不器量と悲しむだろうか。
「アルセンヌ姫。ようこそ、タリル国へ。なかなか会えなくて申し訳ない」
アルセンヌは、メディエル王太子の目に嫌悪が浮かんでなくて、ホッとした。
「お忙しい中、時間をいただいて、感謝しています」
アルセンヌの声は落ち着きと明るさを感じさせ、メディエルは心地よいと思った。
「不便はないですか?講師に問題は?」
「みなさま、よくしてくださいますわ」
先ほど刺繍の講師を泣かせたことは内緒だ。まあ、講師の采配は王太子らしいので、そのうちバレてしまうでしょうけど、とアルセンヌは思う。
「王太子様は、私の髪や目が不愉快ですか?講師の方々は見ているところがちがうから、よくわからなくて」
「そんなことはありませんよ。私は留学していましたから、国によって価値観がちがうことは実感しています」
優しく微笑まれ、アルセンヌはドキッとした。
結婚相手に不器量だと思われて暮らすのはつらい。王太子の言葉は表面的なものではないようで、アルセンヌは安心した。
だが、国王陛下や王妃陛下は?王太子の側近たちは?使用人たちは?
アルセンヌはいつもより、自分の神経が尖っていると感じた。
自国とちがう国にやって来て、いつもの自分にはない心のささくれを感じている。
刺繍の講師が本当に泣き出してしまった。
アルセンヌは、またやらかした、と反省した。思わず全力で刺繍してしまった。
講師の涙は止まらない。
「あの短時間でこんな複雑な刺繍をなさるなんて」
ようやく泣き止んだ講師が、
「お教えすることは何もありません。弟子になりたいくらいです」
と半ば本気で言った。
アルセンヌは刺繍のために空けていた残り時間に、王太子に会えないか取り次いでもらった。
運の良いことに、王太子も空き時間で、一緒にお茶をすることになった。
薔薇の美しい庭園で。
初めて会う王太子は、黒髪黒目、でも、太ってはいなくて、筋肉が程良くて、誰が見ても美丈夫だ。
彼の目にアルセンヌはどう映るだろう。
不器量と悲しむだろうか。
「アルセンヌ姫。ようこそ、タリル国へ。なかなか会えなくて申し訳ない」
アルセンヌは、メディエル王太子の目に嫌悪が浮かんでなくて、ホッとした。
「お忙しい中、時間をいただいて、感謝しています」
アルセンヌの声は落ち着きと明るさを感じさせ、メディエルは心地よいと思った。
「不便はないですか?講師に問題は?」
「みなさま、よくしてくださいますわ」
先ほど刺繍の講師を泣かせたことは内緒だ。まあ、講師の采配は王太子らしいので、そのうちバレてしまうでしょうけど、とアルセンヌは思う。
「王太子様は、私の髪や目が不愉快ですか?講師の方々は見ているところがちがうから、よくわからなくて」
「そんなことはありませんよ。私は留学していましたから、国によって価値観がちがうことは実感しています」
優しく微笑まれ、アルセンヌはドキッとした。
結婚相手に不器量だと思われて暮らすのはつらい。王太子の言葉は表面的なものではないようで、アルセンヌは安心した。
だが、国王陛下や王妃陛下は?王太子の側近たちは?使用人たちは?
アルセンヌはいつもより、自分の神経が尖っていると感じた。
自国とちがう国にやって来て、いつもの自分にはない心のささくれを感じている。
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