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第六話

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ミゲルは、青ざめていた。
「そこまでするつもりじゃなかった」
たしかに馬車に細工するように命じた。
でも、崖から落ちるなんて思わなかった。少しこわい思いをさせてから、こちらに有利なように婚約破棄するつもりだったのだ。
ミゲルはマーシャに夢中だし、平凡なアリサとは縁を切りたかった。でも、家の金銭的問題を解決した上で婚約をとりやめたかったのだ。
ミゲルの足りない頭で考えた方法は大失敗だった。その上、アリサは公爵家にいる。どうしてかわからないが、ミゲルにとっても格上の公爵家まで介入してきたら、ミゲルの身はどうなるのだろう。
マーシャにも内緒にしていたため、相談できる相手もいない。

公爵家では、アリサはケーキを一生懸命食べていた。ほんの一切れだが、今のアリサの感覚だとものすごく大きいらしい。リュエルは甘いものが苦手だから、アリサの隣でコーヒーを飲んでいた。
先ほど、興味を持ってリュエルのカップから一口飲んだアリサには不評だったコーヒー。使用人たちは、ざわめいた。
リュエルの行動も表情もケーキより甘い。

うちの坊ちゃんあんなだっけ?誰もが顔を見合わせる。
今までは、坊ちゃんなんて呼び名を使うなんて思わなかったけど、最近使用人の内緒話では、坊ちゃんが定着している。
「うちの坊ちゃん、最近変わったよね?」
「甘く優しく?私たちにも優しくなってない?前はもっと無表情だったわよね」
「それってアリサ様が来てからよね。アリサさま尊い」
「アリサさま可愛すぎるよね。この間なんて、私の名前がカミカミで、
マーガレットがまーぎゃれっとってなっちゃって、うるうるしながら、謝られた。名前覚えてくれてるだけでもうれしいのに」
「私はお花もらったわよ。リルナに似合いそうだから、だって。隣で坊ちゃんはちょっと不機嫌そうだったわ。アリサさまにあげた花束だから、一本でも許せなかったみたい」
うふふふふ、侍女たちはなんだか楽しかった。

アリサはまだケーキを食べている。リュエルはそっとアリサの口についたクリームを指で掬った。そのまま自分の口に入れる。
一連の行動の自然な流れに、また使用人たちがざわっとした。だが、公爵家の使用人たちはぐっと耐えた。これくらいで態度に出すような使用人は公爵家にはいない。だが、内心はみんな、かなりの衝撃を受けていた。あれ、本当にうちの坊ちゃん?

アリサはリュエルにくっついて、邸の中のいろんな場所に行った。
最近のお気に入りは厨房だ。
厨房に行くと料理長のサムが味見と称してお菓子や一口サイズのキッシュなどをくれる。リュエルは、「食べすぎないように!」と毎回チェックしてから、味見を許可してくれる。
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