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ここモンタナ王国には冬がある。雪が降るほど寒い日もあった。
ファリナは雪景色が好きだ。
白い息を吐きながら、自室の窓を開けて雪景色を堪能していた。
「お嬢様、寒くありませんか?」
振り向くとファリナの唯一の侍女である
メリーが微笑んだ。
本当なら、メリーはもうとっくに引退している年齢だ。
けれど後任が決まらないまま、痛む足に鞭打って、メリーはファリナのために働いた。

ファリナの世話をするのはメリーだけだ。他の使用人は近づいてこない。
理由は、この邸の主人レンデル伯爵が
ファリナを嫌っているからだ。
ファリナはレンデル伯爵が遊びで手を出した平民の娘が産んだ子だ。
その娘がファリナを産んですぐに死に、ファリナがレンデル伯爵の血統にしか現れない紫色の髪をしていたことから、伯爵家に引き取られた。

引き取ったはいいが、レンデル伯爵は妻とその子どもたちとの間でどのように接したらいいものか悩んでいるうちに、
ファリナはいないものとして扱われるようになった。
虐待されたり悪口を言われたりはしない。きちんとした部屋、衣服、教育、食事。
だが、決定的に不足しているものがあった。
それは愛情だ。
誰もファリナに関わってこない。
ただ1人メリーを除いて。

ファリナがどれだけメリーを大切にして頼りにしているかわかるものなどいない。誰からも無視されているファリナにただ1人笑いかけてくれるメリー。
けれど運命とは残酷なものだ。
その日、メリーは休暇だった。
息子に会いに行くと聞いていた。
特に遅くなるとは言わなかった。
なのに、メリーは夜になっても帰って来なかった。

翌朝、メリーは死体で見つかった。
体の半分は雪に埋まっていたという。
足の悪いメリーは、道を歩いていて馬車に跳ねられたようだった。
ファリナはメリーのお葬式に出たいと願ったが、メリーの息子に断られた。
「母さんが死んだのはファリナ様のせいだ。もう引退する年齢なのに、ファリナ様のせいでこんな死に方をしたんだ」

ファリナはただでさえ弱っていた心をズタズタにされ、自分の部屋で泣いていた。泣いて泣いて頭が痛くなっても、
「大丈夫ですよ、お嬢様。何もこわくありません。メリーがお側にいるのですから」
ただ1人慰めてくれるメリーはもういないのだ。


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