君と桜を見たあの日から

緒夢 來素

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第一章 彼女との出会い

雪合戦。

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学校に来る転校生、会社に入る新入社員といった彼らは、新しい地で不安という名の壁にぶち当たる。
そして彼らの存在に対し、周囲の人もまた彼に興味を持ち彼の事を知ろうと趣味や異性のタイプ、話の流れによっては色や季節なんかも聞く人が居るかもしれない。

ちなみに僕は特に趣味といったものが無く、色や季節の質問は趣味や異性のタイプの比べると容易に答えられるだろう。

なぜなら僕は桜が好きだからである。桜の咲く春、公園で彼女に出会ったあの日の光景を今でも鮮明に記憶に残っている。

今は冬の一月二日。春まで残り3ヶ月といったところである。俺は元日は家族と過し、翌日クラスメイトと初詣に行く約束をしていた。

僕は、部屋から窓の外を覗くなり、風が強いのか前が見えなくなる程吹雪いていた。身嗜みを整え、マフラー、手袋、ダウンジャケットなどの防寒具を着用し、玄関を出た。

今日は、僕を合わせ六人で遊ぶ約束をしていた。その内の一人に、朝が弱いせいか学校をよく遅刻して来る子が居た。彼女は小学校の頃からそんな調子で、中学に上がり僕はいつしか彼女の"世話役"として任命され、初めは面倒に感じていた事も今では当たり前になり、楽しく思うようになっていった。

そして俺は今まさに、彼女の家に向かっていた。彼女の家は、俺の家から学校の丁度中間地点にある。

家の前に着き、インターホンを押そうとしたその時だった。ガチャっとドアが開く音がして、中から人影のようなものが見えた。

「えいっ!」

声が聞こえた時には遅かった。だ握り拳くらいの大きさの冷たい物体が、勢いよく顔にぶつかってきた。

「冷たっ!」いくら防寒具を装備したとはいえ、顔は無防備である。すかさず顔に付いた雪を手で拭い、飛んで来た方向に目を向ける。

「えへへ~おはよ!水原くん」

したり顔で俺を見ていたのは
"瀬良柚葉"である。
俺は彼女に反撃をしようと雪を掻き集め塊を作り顔を上げ柚葉の顔に狙いを定める。すると視界に映った彼女は無邪気に走って逃げていた。

まるで初めて雪に触れた子どものようで柚葉は雪の上を飛び跳ね、滑ったり寝転んだり、彼女の笑顔を見ると、急に反撃する気が失せ馬鹿らしくなった俺は、自分の足元に"それ"を投げつけた。

「瀬良さん。早く行こ!皆待ってるよ」両手を上にあげ降参の意思表示をする。そして二人で集合場所へと向かう。

しばらく歩いていると、彼女の口が開く。

「あけましておめでとう。今年も宜しくね!水原くん!それと、さっきは何で反撃してこなかったの?」

俺は柚葉と小学一年からの付き合いではあるが、六年もたった今でも未だに柚葉の事を全て知っている訳では無い。俺の前で見せる表情と他の同性や異性と絡む時の表情はどこか違うような、そんな気がする。

俺が持つ柚葉のイメージは容姿端麗、スポーツ万能、成績優秀といったところである。まるでアニメや漫画の世界でみるような彼女は、同性からも異性からも人気があり、柚葉が優しい事を良い事に、利用目的で近付く人も少なくはなかった。

"住む世界が違う"と思っていた人も居たかもしれない。

そして俺もまた彼女に対し、心のどこかで似たような事を感じていた時期もあった。

そんなある日、彼女に対する見方が大きく変わった出来事があった。

それは、柚葉が公園で一人泣いている姿を何度か見たことがあるからである。

学校では常に笑顔で、周りからチヤホヤされていたせいか"苦手"という偏見を持っていたが、クラスメイトの大半は、彼女のその一面を知らない。

俺が彼女と友達になってから、学校が楽しいと感じるようになったのも、紛れもない事実である。

とはいえ、彼女の体に乗り移る事が出来ない限り、彼女の考えは分からないし、彼女の行動や言動や仕草の全ては、考えられ計算された事なのか、あるいはただの天然なのか誰にも分からない事である。

そんな中、中学一年の一月現在。学校中の男子から何人から告白されていたのか、そして告白を受ける度に断り、俺にその話を笑いながらよく聞かされていた。

そして一部の間では"結婚したい相手ランキング"等が開催されていた事が、つい最近耳にし驚いたものだった。柚葉がモテるのも男当然と言うべきか、周りの男は放っておける訳もなく、隣にいる僕を"彼氏"だと謎の噂が流れ疎む者が現れ、男子という男子から嫌というくらい確認され、うんざりしたもとだ。

思春期であるこの時期、異性同士が仲良くするだけで周りの視線は敏感に感じたし、刺さった。

学年が上がるに連れ次第に確信に変わり安心したのか、聞いてくる人がいなくなっていった。

そして一人になると、ふと"柚葉"の顔が頭を過ぎる。

数多くの男子からモテる秘訣はなんだろうか。なぜ付き合わないのか。柚葉の好きな人は誰なのか。

本人にしか分からないことを、俺は好奇心からか不思議に思い考えてしまう。

友達の少なかった俺にとって柚葉とは数少ない"友人"の一人であり、彼女と居るといつも楽しい。柚葉が男子であれば、きっと親友になれたと思う。  

柚葉はどう思っているのか、彼女にとって俺はどういうふうに見えどういう存在なのか。

そんな事を考えながら、俺は柚葉の無邪気に雪の上を駆ける姿を、ただ見惚れていた。

しばらくして、集合場所に着いた俺達は、他の四人を待っていた。約束の時間を少し過ぎ、携帯電話を持っていなく、友人との連絡の取りようがなかった俺達は、しばらくの間待ってみたが、来る気配は無く、何か理由があったに違いないと思い、行く予定だった神社を変更し、俺と柚葉は地元の神社で初詣を済ませる事にした。

このまま帰るのも勿体なく感じ、俺達は、しばらくの間近所の公園で遊ぶ事にした。彼女は公園に来る時は、よく花を見ては楽しそうにして眺めていた。

お年玉を貯めたお金で、カメラを買ったとかで今は取扱説明書を必死になって読んでいるらしい。

「水原くん!今度、うちが買ったカメラ持ってきてあげるからね!いっぱい写真撮ろうね!」俺は昔から集合写真以外は、カメラを向けられると逃げていた。なぜなら、撮られるのは苦手だからだ。

俺は、彼女の真っ直ぐな瞳にいつも負けてしまう。俺はいつしか柚葉の喜ぶ顔を見るのが自分の事のように嬉しく感じるようになっていた。

「おう!楽しみにしてるよ!」

公園の斜面に咲くスイセンの花を眺めながら、楽しそうに笑う彼女を見て、次第に俺も楽しくなっていた。

「瀬良さん。雪合戦、しようよ!今朝の続きをしよう!」しゃがんでいた体を起こし、大きな欠伸を一つして両手を上に上げて体を伸ばした。彼女は顔を縦に振り、
「うん!いいよ!今度はちゃんと投げてきてよね?手加減なしなんだから」

両手で膝に付いた雪を払って、立ち上がるなりそういった。

膝下くらいまで積もっていた雪は、歩く度に鳴る音が心地良かった。ザクッザクッ。

「いくよー!えいっ!」

彼女の雪は俺の所まで届いてはなかった。いつも大きな塊を作って投げてくるからだ。小さい雪の塊を複数掴み、俺は容赦なく彼女にぶつけにかかった。

「雪合戦とは、こういうものなんだよっ!」

とはいえ、数打てば当たる。

という戦法の俺はコントロールが悪く、彼女になかなか当たらなかった。新しい玉を作っている最中、彼女による近距離攻撃に、俺は撃沈した。
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