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2章
2-7
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アキラ視点
今朝早くにニルは会いたい人がいると言って出て行き、ルディもエドも用事があると言って出て行ったので今日は一人でクリストフさんのところに来ていた。
「結論から言おう。私には君の情報が何一つ手に入れられなかった」
図書館の定位置でクリストフさんは酷く苦々しい顔でそう言い放った。
机の上には何かの資料が散らばっている。
「いったい君は何者だ?本当に記憶喪失なのか?」
手を組み座ったまま睨まれる。
ギクリとした。
全ての嘘を見透かすような視線で見つめられて俺は何も答えることができなかった。
何も答えない俺の様子をどう捉えたのか彼はしばらく無言で俺を見つめた後、ため息を吐いた。
「エドウィンは純粋な奴だ、さっさと記憶が戻ったことにでもして安心させてやれ」
そう言われて心苦しくなった。
俺はみんなを騙し続けているんだ。
ただでさえエドには酷いことを言ったのに、今でも心配してくれて俺の情報を集めようとしてくれている。
しかし俺は転生者で神の加護を受けていると言って信じてもらえるだろうか?
いや、信じてもらえるわけがない。
可哀想なものを見るような目で見られるに決まってる。
みんなからそんな目で見られるのも、かと言って騙し続けるのも心苦しい。そして今まで騙していたのかと責められるのも怖い。
みんなから責められるのを想像してじわりと涙が滲む。
それを見てクリストフさんはギョッとした表情になった。
「泣くな!子供を泣かせる趣味はない」
そう言って綺麗なハンカチで俺の涙を拭ってくれた。
これがエドウィンなら…と何やらぶつぶつ言っている。
「貴様が何を心配しているのかは知らないが…さっさと本当のことを話して楽になれ。エドウィンはお前のことなら全て受け入れるだろう」
クリストフさんは、ふんっ、と鼻を鳴らしてそれはそれで癪だがな。と言った。
その日の夜、俺は宿の自室でエドと隣同士に座っていた。話したいことがあるからと言ったら紅茶を淹れてくれた。
淹れてくれた紅茶を飲みながら一息つく。
今日、俺はエドに本当のことを打ち明けるつもりだ。
だけれどいざ話そうとすると緊張と不安で体が小さく震える。
震える俺の背中をエドは優しくさすってくれた。
そんな優しいところにもキュンとする。
正直に言おう、俺はエドのことが好きだ。
エドに告白されてから散々悩んで導き出した答え。それをずっと言えないでいた。
お互い無言のまま10分ほど経った頃、エドが口を開いた。
「話って…何?」
あくまで優しく、諭すように促してくれる。
「…あのさ、クリストフさんから聞いたんだけど俺の情報が何も手に入らなかったって」
「うん」
「それでさ、俺みんなに黙ってたことがあって。……記憶喪失って言ったじゃん?」
本当のことを話すにあたって、口調も元の俺のものにする。偽るのはもう、やめる。
「うん」
「あれさ、…嘘なんだ」
心臓がきゅう、と痛くなる。
責められるのを予測して、俯いてぎゅっと手を握りしめた。
「…そっか。言ってくれてありがとうね」
「え…驚かないのか?」
むしろこちらが驚いて顔を上げてエドを見る。エドは優しく微笑んでいた。
「なんとなくそんな気はしてたよ。何か事情があるんだって思ってた」
いったいいつから見透かされていたんだ?
恥ずかしくなってまた俯いてしまう。
そんな俺の頭を優しく撫でてくれる。
「気にしなくていいんだよ、あの状況で言えない何かがあったんだよね。大丈夫だよ」
俺のより大きな手が撫でてくれるのにいつのまにか安心して緊張がほぐれていた。
意を決して次の言葉を発する。
「俺…この世界の住人じゃないんだ。…神様に他の世界から連れて来られた。だからこの世界に俺の情報がないのは当たり前なんだ」
ドキドキしながら言葉を紡ぐ。
頭を撫でる手がぴたりと止まったかと思うと、一拍置いてまた撫で始めた。
エドが神の御使、か…とぼそりと呟く。
「神…?」
「ん、あぁ。この前クリストフが君のことを神の御使だって言ってたんだ。あながち間違ってなかったかなって思って」
御使ではないけど確か俺は神に惚れられてこの世界に連れて来られたんだ。本当にあながち間違いじゃないのかもしれない。
「…信じてくれるのか?」
「俺が君の言うことを信じないと思うかい?」
ジッと目を見つめられる。
好きな人に見つめられて顔が赤くなるのを感じて咄嗟に目をそらした。
今朝早くにニルは会いたい人がいると言って出て行き、ルディもエドも用事があると言って出て行ったので今日は一人でクリストフさんのところに来ていた。
「結論から言おう。私には君の情報が何一つ手に入れられなかった」
図書館の定位置でクリストフさんは酷く苦々しい顔でそう言い放った。
机の上には何かの資料が散らばっている。
「いったい君は何者だ?本当に記憶喪失なのか?」
手を組み座ったまま睨まれる。
ギクリとした。
全ての嘘を見透かすような視線で見つめられて俺は何も答えることができなかった。
何も答えない俺の様子をどう捉えたのか彼はしばらく無言で俺を見つめた後、ため息を吐いた。
「エドウィンは純粋な奴だ、さっさと記憶が戻ったことにでもして安心させてやれ」
そう言われて心苦しくなった。
俺はみんなを騙し続けているんだ。
ただでさえエドには酷いことを言ったのに、今でも心配してくれて俺の情報を集めようとしてくれている。
しかし俺は転生者で神の加護を受けていると言って信じてもらえるだろうか?
いや、信じてもらえるわけがない。
可哀想なものを見るような目で見られるに決まってる。
みんなからそんな目で見られるのも、かと言って騙し続けるのも心苦しい。そして今まで騙していたのかと責められるのも怖い。
みんなから責められるのを想像してじわりと涙が滲む。
それを見てクリストフさんはギョッとした表情になった。
「泣くな!子供を泣かせる趣味はない」
そう言って綺麗なハンカチで俺の涙を拭ってくれた。
これがエドウィンなら…と何やらぶつぶつ言っている。
「貴様が何を心配しているのかは知らないが…さっさと本当のことを話して楽になれ。エドウィンはお前のことなら全て受け入れるだろう」
クリストフさんは、ふんっ、と鼻を鳴らしてそれはそれで癪だがな。と言った。
その日の夜、俺は宿の自室でエドと隣同士に座っていた。話したいことがあるからと言ったら紅茶を淹れてくれた。
淹れてくれた紅茶を飲みながら一息つく。
今日、俺はエドに本当のことを打ち明けるつもりだ。
だけれどいざ話そうとすると緊張と不安で体が小さく震える。
震える俺の背中をエドは優しくさすってくれた。
そんな優しいところにもキュンとする。
正直に言おう、俺はエドのことが好きだ。
エドに告白されてから散々悩んで導き出した答え。それをずっと言えないでいた。
お互い無言のまま10分ほど経った頃、エドが口を開いた。
「話って…何?」
あくまで優しく、諭すように促してくれる。
「…あのさ、クリストフさんから聞いたんだけど俺の情報が何も手に入らなかったって」
「うん」
「それでさ、俺みんなに黙ってたことがあって。……記憶喪失って言ったじゃん?」
本当のことを話すにあたって、口調も元の俺のものにする。偽るのはもう、やめる。
「うん」
「あれさ、…嘘なんだ」
心臓がきゅう、と痛くなる。
責められるのを予測して、俯いてぎゅっと手を握りしめた。
「…そっか。言ってくれてありがとうね」
「え…驚かないのか?」
むしろこちらが驚いて顔を上げてエドを見る。エドは優しく微笑んでいた。
「なんとなくそんな気はしてたよ。何か事情があるんだって思ってた」
いったいいつから見透かされていたんだ?
恥ずかしくなってまた俯いてしまう。
そんな俺の頭を優しく撫でてくれる。
「気にしなくていいんだよ、あの状況で言えない何かがあったんだよね。大丈夫だよ」
俺のより大きな手が撫でてくれるのにいつのまにか安心して緊張がほぐれていた。
意を決して次の言葉を発する。
「俺…この世界の住人じゃないんだ。…神様に他の世界から連れて来られた。だからこの世界に俺の情報がないのは当たり前なんだ」
ドキドキしながら言葉を紡ぐ。
頭を撫でる手がぴたりと止まったかと思うと、一拍置いてまた撫で始めた。
エドが神の御使、か…とぼそりと呟く。
「神…?」
「ん、あぁ。この前クリストフが君のことを神の御使だって言ってたんだ。あながち間違ってなかったかなって思って」
御使ではないけど確か俺は神に惚れられてこの世界に連れて来られたんだ。本当にあながち間違いじゃないのかもしれない。
「…信じてくれるのか?」
「俺が君の言うことを信じないと思うかい?」
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