44 / 57
2章
2-1
しおりを挟む
アキラ視点
ルディがクリストフさんの所へ行って帰ってきたのは翌日だった。
酷くげんなりしていたので何があったのか聞こうとしたところ、エドに止められた。
エドには何があったのか予想がつくらしい。
気になるが知らぬが仏という言葉もある、ここは触れないでおこう。
尻を押さえて寝込んでいるルディはそっとしておいてニルと一緒に初めての王都を散策しにかかった。
王都は煌びやかな町並みで整った雰囲気で、大型の結界のおかげか清浄な空気に満ちていた。
値段交渉をされたり声をかけられることも意外と少なく、治安も良いのだと思った。
散策一日目は大したトラブルもなく王都の南側を散策しただけで一日が終わった。
その夜、俺は同室のエドと話をしていた。
「王都に来て何か思い出したことはあるかい?」
「特に何も…」
「そっか…」
俺の言葉を聞いて自分のことのように落ち込むエドを見て心が痛くなる。
今更記憶喪失は嘘でしたーなんて言えないし、どこかのタイミングで記憶が戻ったことにしてしまった方がいいかもしれない。
そのためには何かきっかけとなる出来事が必要なのだが…何か頭をぶつけるとかいうイベントが起きないものか。
しかし下手に事故に巻き込まれたり頭をぶつけたりすると本当に記憶が飛びかねないから頭が痛い。
「たくさん迷惑かけてるのに記憶、戻らなくってごめん…」
「迷惑だなんてそんなことない…!俺はアキラ君のことが好きだからこうしてお節介しちゃうんだよ」
どきりとする発言にエドの顔を見る。
エドは俺の視線に気付きにこっと笑って見せた。
こんな美形に笑いかけられながら好きだなんて言われたら誰だって胸が高鳴ってしまう。
俺も例外ではなく、頰を赤らめて目をそらした。
「またそんなこと言って、誰にでも同じこと言ってるんでしょ」
拗ねたように唇を尖らせて咎めると、エドは真剣な表情になって俺を見つめてきた。
「アキラ君が嫌ならもうアキラ君以外にそんなこと言わない。約束する」
真面目な雰囲気を纏うエド。
嫌か嫌じゃないかと問われれば嫌だ。エドが俺以外の人に好きだとか言うだなんて。
しかし俺がエドのことを好きなのかと問われれば迷ってしまう。
俺は元々女の子が好きで、男を好きになるかもしれない時がくるなんて思いもしなかった。
嫌悪感は無い。むしろエドといるとドキドキさせられることが多い。これが好きという感情なのか俺は答えが出せずにいた。
そもそもエドは俺の顔だけが好きなのだろうか?だとしたら俺はエドのことを拒絶するだろう。
この顔は性の神から授かった「作り物」であり、本当の俺じゃない。
誰からも好意を持たれる顔、ということは誰も俺の中身を見てくれないということだ。
そもそも俺は本当の俺を表に出していない。
口調や仕草すらも俺の顔を武器に構築した偽物。
この世界に来てから俺は俺で在れた時間がどれだけあっただろうか?
「……アキラ君?」
エドは暗い顔をして俯いてしまった俺を心配するように覗き込んでくる。
そして手を握りしめ、優しくさすってくれた。
「ごめん、困らせちゃったね。そんなつもりはなかったんだ、ただ想いを伝えたくて…」
エドの真摯な想いが重なった手から伝わってくる。
最初はただの変態だと思っていたけど、本当に俺が嫌がることはしなかったしいつだって俺のことを想って行動してくれていた。
自分を好いてくれているそんな優しい人を、俺は拒絶していいのだろうか?
「僕はエドのこと……嫌いじゃない」
何か言わなければと発言した言葉はエドの想いも俺の葛藤も全てうやむやにしてしまう最低な発言だった。
しまった、と思うがもう遅い。
それでもエドはほっとした表情で笑った。
「今はそれで充分だよ。ありがとう、アキラ君」
そう言ってエドは俺の手の甲にキスを落とした。
俺は自分の発言に酷く後悔する。
こんなに優しい人を俺は拒絶もせず受け入れもせず、縛り付けてしまったんだ。
エドは拒絶されなくて嬉しそうにしているが、俺の表情は暗いままだった。
ルディがクリストフさんの所へ行って帰ってきたのは翌日だった。
酷くげんなりしていたので何があったのか聞こうとしたところ、エドに止められた。
エドには何があったのか予想がつくらしい。
気になるが知らぬが仏という言葉もある、ここは触れないでおこう。
尻を押さえて寝込んでいるルディはそっとしておいてニルと一緒に初めての王都を散策しにかかった。
王都は煌びやかな町並みで整った雰囲気で、大型の結界のおかげか清浄な空気に満ちていた。
値段交渉をされたり声をかけられることも意外と少なく、治安も良いのだと思った。
散策一日目は大したトラブルもなく王都の南側を散策しただけで一日が終わった。
その夜、俺は同室のエドと話をしていた。
「王都に来て何か思い出したことはあるかい?」
「特に何も…」
「そっか…」
俺の言葉を聞いて自分のことのように落ち込むエドを見て心が痛くなる。
今更記憶喪失は嘘でしたーなんて言えないし、どこかのタイミングで記憶が戻ったことにしてしまった方がいいかもしれない。
そのためには何かきっかけとなる出来事が必要なのだが…何か頭をぶつけるとかいうイベントが起きないものか。
しかし下手に事故に巻き込まれたり頭をぶつけたりすると本当に記憶が飛びかねないから頭が痛い。
「たくさん迷惑かけてるのに記憶、戻らなくってごめん…」
「迷惑だなんてそんなことない…!俺はアキラ君のことが好きだからこうしてお節介しちゃうんだよ」
どきりとする発言にエドの顔を見る。
エドは俺の視線に気付きにこっと笑って見せた。
こんな美形に笑いかけられながら好きだなんて言われたら誰だって胸が高鳴ってしまう。
俺も例外ではなく、頰を赤らめて目をそらした。
「またそんなこと言って、誰にでも同じこと言ってるんでしょ」
拗ねたように唇を尖らせて咎めると、エドは真剣な表情になって俺を見つめてきた。
「アキラ君が嫌ならもうアキラ君以外にそんなこと言わない。約束する」
真面目な雰囲気を纏うエド。
嫌か嫌じゃないかと問われれば嫌だ。エドが俺以外の人に好きだとか言うだなんて。
しかし俺がエドのことを好きなのかと問われれば迷ってしまう。
俺は元々女の子が好きで、男を好きになるかもしれない時がくるなんて思いもしなかった。
嫌悪感は無い。むしろエドといるとドキドキさせられることが多い。これが好きという感情なのか俺は答えが出せずにいた。
そもそもエドは俺の顔だけが好きなのだろうか?だとしたら俺はエドのことを拒絶するだろう。
この顔は性の神から授かった「作り物」であり、本当の俺じゃない。
誰からも好意を持たれる顔、ということは誰も俺の中身を見てくれないということだ。
そもそも俺は本当の俺を表に出していない。
口調や仕草すらも俺の顔を武器に構築した偽物。
この世界に来てから俺は俺で在れた時間がどれだけあっただろうか?
「……アキラ君?」
エドは暗い顔をして俯いてしまった俺を心配するように覗き込んでくる。
そして手を握りしめ、優しくさすってくれた。
「ごめん、困らせちゃったね。そんなつもりはなかったんだ、ただ想いを伝えたくて…」
エドの真摯な想いが重なった手から伝わってくる。
最初はただの変態だと思っていたけど、本当に俺が嫌がることはしなかったしいつだって俺のことを想って行動してくれていた。
自分を好いてくれているそんな優しい人を、俺は拒絶していいのだろうか?
「僕はエドのこと……嫌いじゃない」
何か言わなければと発言した言葉はエドの想いも俺の葛藤も全てうやむやにしてしまう最低な発言だった。
しまった、と思うがもう遅い。
それでもエドはほっとした表情で笑った。
「今はそれで充分だよ。ありがとう、アキラ君」
そう言ってエドは俺の手の甲にキスを落とした。
俺は自分の発言に酷く後悔する。
こんなに優しい人を俺は拒絶もせず受け入れもせず、縛り付けてしまったんだ。
エドは拒絶されなくて嬉しそうにしているが、俺の表情は暗いままだった。
0
お気に入りに追加
1,152
あなたにおすすめの小説
【第一章完結】半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
【完結済み】妹に婚約者を奪われたので実家の事は全て任せます。あぁ、崩壊しても一切責任は取りませんからね?
早乙女らいか
恋愛
当主であり伯爵令嬢のカチュアはいつも妹のネメスにいじめられていた。
物も、立場も、そして婚約者も……全てネメスに奪われてしまう。
度重なる災難に心が崩壊したカチュアは、妹のネメアに言い放つ。
「実家の事はすべて任せます。ただし、責任は一切取りません」
そして彼女は自らの命を絶とうとする。もう生きる気力もない。
全てを終わらせようと覚悟を決めた時、カチュアに優しくしてくれた王子が現れて……
やってしまいましたわね、あの方たち
玲羅
恋愛
グランディエネ・フラントールはかつてないほど怒っていた。理由は目の前で繰り広げられている、この国の第3王女による従兄への婚約破棄。
蒼氷の魔女と噂されるグランディエネの足元からピキピキと音を立てて豪奢な王宮の夜会会場が凍りついていく。
王家の夜会で繰り広げられた、婚約破棄の傍観者のカップルの会話です。主人公が婚約破棄に関わることはありません。
神の子扱いされている優しい義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました
下菊みこと
恋愛
突然通り魔に殺されたと思ったら望んでもないのに記憶を持ったまま転生してしまう主人公。転生したは良いが見目が怪しいと実親に捨てられて、代わりにその怪しい見た目から宗教の教徒を名乗る人たちに拾ってもらう。
そこには自分と同い年で、神の子と崇められる兄がいた。
自分ははっきりと神の子なんかじゃないと拒否したので助かったが、兄は大人たちの期待に応えようと頑張っている。
そんな兄に気を遣っていたら、いつのまにやらかなり溺愛、執着されていたお話。
小説家になろう様でも投稿しています。
勝手ながら、タイトルとあらすじなんか違うなと思ってちょっと変えました。
距離を置きましょう? やったー喜んで! 物理的にですけど、良いですよね?
hazuki.mikado
恋愛
婚約者が私と距離を置きたいらしい。
待ってましたッ! 喜んで!
なんなら物理的な距離でも良いですよ?
乗り気じゃない婚約をヒロインに押し付けて逃げる気満々の公爵令嬢は悪役令嬢でしかも転生者。
あれ? どうしてこうなった?
頑張って自身で断罪劇から逃げるつもりが自分の周りが強すぎてあっさり婚約は解消に?!
やった! 自由だと満喫するつもりが、隣りの家のお兄さんにあっさりつまずいて? でろでろに溺愛されちゃう中身アラサー女子のお話し。
更新は原則朝8時で頑張りますが、不定期になりがちです。ご了承ください(*- -)(*_ _)ペコリ
注! サブタイトルに※マークはセンシティブな内容が含まれますご注意ください。
⚠取扱説明事項〜⚠
異世界を舞台にしたファンタジー要素の強い恋愛絡みのお話ですので、史実を元にした身分制度や身分による常識等をこの作品に期待されてもご期待には全く沿えませんので予めご了承ください。成分不足の場合は他の作者様の作品での補給を強くオススメします。
作者は誤字脱字変換ミスと投稿ミスを繰り返すという老眼鏡とハズキルーペが手放せない(老)人です(~ ̄³ ̄)~マジでミスをやらかしますが生暖かく見守って頂けると有り難いです(_ _)お気に入り登録や動く栞、以前は無かった♡機能。そして有り難いことに動画の視聴。ついでに誤字脱字報告という皆様の愛(老人介護)がモチベアップの燃料です(人*´∀`)。
*゜+
途中モチベダウンを起こし、低迷しましたので感想は完結目途が付き次第返信させていただきます。ご了承ください。
皆様の愛を真摯に受け止めております(_ _)←多分。
9/18 HOT女性1位獲得シマシタ。応援ありがとうございますッヽ(*゚ー゚*)ノ
文字数が10万文字突破してしまいました(汗)
短編→長編に変更します(_ _)短編詐欺です申し訳ありませんッ(´;ω;`)ウッ…
異世界に転生してもゲイだった俺、この世界でも隠しつつ推しを眺めながら生きていきます~推しが婚約したら、出家(自由に生きる)します~
kurimomo
BL
俺がゲイだと自覚したのは、高校生の時だった。中学生までは女性と付き合っていたのだが、高校生になると、「なんか違うな」と感じ始めた。ネットで調べた結果、自分がいわゆるゲイなのではないかとの結論に至った。同級生や友人のことを好きになるも、それを伝える勇気が出なかった。
そうこうしているうちに、俺にはカミングアウトをする勇気がなく、こうして三十歳までゲイであることを隠しながら独身のままである。周りからはなぜ結婚しないのかと聞かれるが、その追及を気持ちを押し殺しながら躱していく日々。俺は幸せになれるのだろうか………。
そんな日々の中、襲われている女性を助けようとして、腹部を刺されてしまった。そして、同性婚が認められる、そんな幸せな世界への転生を祈り静かに息を引き取った。
気が付くと、病弱だが高スペックな身体、アース・ジーマルの体に転生した。病弱が理由で思うような生活は送れなかった。しかし、それには理由があって………。
それから、偶然一人の少年の出会った。一目見た瞬間から恋に落ちてしまった。その少年は、この国王子でそして、俺は側近になることができて………。
魔法と剣、そして貴族院など王道ファンタジーの中にBL要素を詰め込んだ作品となっております。R指定は本当の最後に書く予定なので、純粋にファンタジーの世界のBL恋愛(両片思い)を楽しみたい方向けの作品となっております。この様な作品でよければ、少しだけでも目を通していただければ幸いです。
GW明けからは、週末に投稿予定です。よろしくお願いいたします。
愛する彼には美しい愛人が居た…私と我が家を侮辱したからには、無事では済みませんよ?
coco
恋愛
私たちは仲の良い恋人同士。
そう思っていたのに、愛する彼には美しい愛人が…。
私と我が家を侮辱したからには、あなたは無事では済みませんよ─?
初恋に身を焦がす
りつ
恋愛
私の夫を王妃に、私は王の妻に、交換するよう王様に命じられました。
ヴェロニカは嫉妬深い。夫のハロルドを強く束縛し、彼の仕事場では「魔女」として恐れられていた。どんな呼び方をされようと、愛する人が自分以外のものにならなければ彼女はそれでよかった。
そんなある日、夫の仕える主、ジュリアンに王宮へ呼ばれる。国王でもある彼から寵愛する王妃、カトリーナの友人になって欲しいと頼まれ、ヴェロニカはカトリーナと引き合わされた。美しく可憐な彼女が実はハロルドの初恋の相手だとジュリアンから告げられ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる