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2章

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アキラ視点





ルディがクリストフさんの所へ行って帰ってきたのは翌日だった。

酷くげんなりしていたので何があったのか聞こうとしたところ、エドに止められた。

エドには何があったのか予想がつくらしい。
気になるが知らぬが仏という言葉もある、ここは触れないでおこう。

尻を押さえて寝込んでいるルディはそっとしておいてニルと一緒に初めての王都を散策しにかかった。

王都は煌びやかな町並みで整った雰囲気で、大型の結界のおかげか清浄な空気に満ちていた。

値段交渉をされたり声をかけられることも意外と少なく、治安も良いのだと思った。

散策一日目は大したトラブルもなく王都の南側を散策しただけで一日が終わった。

その夜、俺は同室のエドと話をしていた。

「王都に来て何か思い出したことはあるかい?」

「特に何も…」

「そっか…」

俺の言葉を聞いて自分のことのように落ち込むエドを見て心が痛くなる。

今更記憶喪失は嘘でしたーなんて言えないし、どこかのタイミングで記憶が戻ったことにしてしまった方がいいかもしれない。

そのためには何かきっかけとなる出来事が必要なのだが…何か頭をぶつけるとかいうイベントが起きないものか。

しかし下手に事故に巻き込まれたり頭をぶつけたりすると本当に記憶が飛びかねないから頭が痛い。

「たくさん迷惑かけてるのに記憶、戻らなくってごめん…」

「迷惑だなんてそんなことない…!俺はアキラ君のことが好きだからこうしてお節介しちゃうんだよ」

どきりとする発言にエドの顔を見る。
エドは俺の視線に気付きにこっと笑って見せた。

こんな美形に笑いかけられながら好きだなんて言われたら誰だって胸が高鳴ってしまう。

俺も例外ではなく、頰を赤らめて目をそらした。

「またそんなこと言って、誰にでも同じこと言ってるんでしょ」

拗ねたように唇を尖らせて咎めると、エドは真剣な表情になって俺を見つめてきた。

「アキラ君が嫌ならもうアキラ君以外にそんなこと言わない。約束する」

真面目な雰囲気を纏うエド。
嫌か嫌じゃないかと問われれば嫌だ。エドが俺以外の人に好きだとか言うだなんて。

しかし俺がエドのことを好きなのかと問われれば迷ってしまう。
俺は元々女の子が好きで、男を好きになるかもしれない時がくるなんて思いもしなかった。

嫌悪感は無い。むしろエドといるとドキドキさせられることが多い。これが好きという感情なのか俺は答えが出せずにいた。

そもそもエドは俺の顔だけが好きなのだろうか?だとしたら俺はエドのことを拒絶するだろう。

この顔は性の神から授かった「作り物」であり、本当の俺じゃない。

誰からも好意を持たれる顔、ということは誰も俺の中身を見てくれないということだ。

そもそも俺は本当の俺を表に出していない。
口調や仕草すらも俺の顔を武器に構築した偽物。

この世界に来てから俺は俺で在れた時間がどれだけあっただろうか?

「……アキラ君?」

エドは暗い顔をして俯いてしまった俺を心配するように覗き込んでくる。

そして手を握りしめ、優しくさすってくれた。

「ごめん、困らせちゃったね。そんなつもりはなかったんだ、ただ想いを伝えたくて…」

エドの真摯な想いが重なった手から伝わってくる。

最初はただの変態だと思っていたけど、本当に俺が嫌がることはしなかったしいつだって俺のことを想って行動してくれていた。

自分を好いてくれているそんな優しい人を、俺は拒絶していいのだろうか?

「僕はエドのこと……嫌いじゃない」

何か言わなければと発言した言葉はエドの想いも俺の葛藤も全てうやむやにしてしまう最低な発言だった。

しまった、と思うがもう遅い。
それでもエドはほっとした表情で笑った。

「今はそれで充分だよ。ありがとう、アキラ君」

そう言ってエドは俺の手の甲にキスを落とした。

俺は自分の発言に酷く後悔する。
こんなに優しい人を俺は拒絶もせず受け入れもせず、縛り付けてしまったんだ。

エドは拒絶されなくて嬉しそうにしているが、俺の表情は暗いままだった。
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