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第二部 大砲と魔術師
第三十話 強豪の力
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一回表が終わり、自英学院の攻撃となった。マウンドでは梅宮が投球練習を行っている。彼は今大会で好投を続けており、大林高校躍進の立役者の一人であった。
「梅宮、気張らずにいけよ」
「大丈夫だ、意外と緊張してない」
岩沢が声を掛けると、梅宮がそれに返事した。今日の試合会場はプロ仕様の球場だが、彼は動じることなく試合に臨むことが出来ていた。一方で、自英学院の打者たちは投球練習の様子をじっと見ていた。
「向こうが何を狙っているかですね」
「梅宮先輩にはなるべく耐えてもらわないと」
マネージャーの二人がそんな会話をしていた。先の悠北高校戦では、梅宮とリョウの二人で七失点を喫している。相手が好投手の八木である以上、大量失点は許されないのだ。
「一回裏、自英学院高校の攻撃は、一番、ショート、深山くん」
「打てよ深山ー!!」
「頼むぞー!!」
一番打者が左打席に入り、審判がプレイをかけた。自英学院の応援団は活気づき、熱心にエールを送っている。芦田は何のサインを出すべきか考えていた。
(初見でカーブは簡単に打てないはず。カーブ多めでいきましょう)
彼がカーブのサインを出すと、梅宮が頷いた。そのまま足を上げ、第一球を投じた。ボールが弧を描いて、芦田のミットへと向かっていく。打者が見逃すと、審判の右手が上がった。
「ストライク!!」
「ナイスボール梅宮ー!!」
「いいぞー!!」
初球でカウントが取れてほっとしたのか、梅宮は落ち着いた表情で返球を受け取った。
(もう一球、カーブを)
芦田のサインに従って、梅宮は二球目を投じた。先ほどと同じような軌道で、白球が本塁へと向かって進んでいく。これも打者が見逃したが、ストライクとなった。
「ストライク!!」
「追い込んでるぞー!!」
「落ち着いていけー!!」
これでノーボールツーストライクだ。芦田は直球のサインを出して、高めに構えた。釣り球を見せて、最後にもう一度カーブで仕留める算段だった。梅宮も同意し、足を上げた。そして、第三球を投じた。
(いいコース!!)
芦田の構えた通りのコースに白球が飛んでいく。すると、打者が強引に打ちにきた。高めのボールを上から叩くようなスイングで、右方向に弾き返した。
「セカン!!」
打球はゴロになったが、飛んだコースが絶妙だった。一塁手と二塁手の間をうまく抜け、ライト前ヒットとなった。
「いいぞ深山ー!!」
「ナイバッチー!!」
先頭打者の出塁に、自英学院のベンチも盛り上がる。ベースカバーに入ろうと走っていた梅宮は、顔をしかめて悔しがっていた。
「二番、レフト、原口くん」
場内アナウンスとともに、二番打者が右打席へと向かった。芦田は座り直し、次の打者への配球を考えていた。
(さっき直球を無理やり打ちにきたし、真っすぐ狙いかもしれん。ならそれを利用するまで)
芦田は直球のサインを出して、インハイに構えた。右手でポンとミットを叩いて、強気で来るように伝えている。梅宮もそれを理解し、ふうと息をついた。一塁ランナーはやや大きくリードして、注意を引こうと努めている。
梅宮はセットポジションから足を上げ、第一球を投じた。力のある直球がインハイに向かって突き進んでいく。打者はそれを見て積極的にスイングをかけてきたが、詰まらされた。
「ファースト!!」
芦田が指示を飛ばすと、一塁手の門間がゆっくりと落下点に入った。打った原口はしまったという表情で一塁方向へと駆けていく。そのまま門間が打球を掴み、まずワンアウトとなった。
「オッケー!!」
「ワンアウトワンアウトー!!」
梅宮は人差し指を立て、内野陣とアウトカウントを確認していた。
「まずワンアウトですね!」
「うん、でも次からが勝負だよ」
レイが喜んでいたのに対し、まなは冷静に次打者を見ていた。というのも、次は三番の松澤が打席に入るからだ。さらにその後ろには四番の八木も控えている。この強打者二人に対し、梅宮が自分のピッチングを出来るかどうか。彼女はそのことを心配していたのだ。
「三番、キャッチャー、松澤くん」
「頼むぞ松澤ー!!」
「先制点頼むぞー!!」
松澤の登場に対し、応援席が盛り上がっていた。彼も今大会で通算二本塁打を放っており、注目の強打者として名前が挙がっていたのだ。大林高校の選手たちにとっても、去年竜司がツーランホームランを打たれたのが強く印象に残っている。
「梅宮先輩、落ち着いていきましょう」
「ああ」
芦田は梅宮に声をかけ、気持ちを落ち着かせようと努めていた。松澤は打席に入り、梅宮に向かって構える。
(まずは低め、真っすぐ)
直球のサインを出し、芦田は低めに構えた。内野陣はゲッツー態勢となり、内野ゴロに備えている。梅宮は一塁に牽制球を投じたあと、第一球を投じた。ボールは真っすぐ、芦田のミットへと向かっていく。松澤は手を出していったが、空振りした。
「ストライク!!」
「ナイスピーです、梅宮先輩」
芦田は同様に声を掛けながら、梅宮に返球した。松澤は少し考えたあと、再び打席へと入る。梅宮は第二球にカーブを投じたが、これは外れてボールとなった。これでワンボールワンストライクだ。
(やはり低めでゲッツーがベストだ)
そう考え、芦田は再び低めのストレートを要求した。梅宮もそれに頷き、第三球を投じた。しかし、白球は構えられたミットよりやや高く進んでいく。
(高い!!)
と芦田が思うが早いか、松澤がバットを一気に振り抜いた。カキンという金属音を残して、打球が狭く閉じられた二遊間を抜けていく。そのままセンター前ヒットとなり、これでワンアウト一二塁となった。
「ナイバッチ松澤ー!!」
「いいぞー!!」
自英学院の応援団はさらに盛り上がる。一方で、大林高校の選手たちは表情を厳しくしていた。ランナーが二人溜まったところで、四番の八木を迎えることになってしまったのだ。守備側にも、プレッシャーがかかっていた。
「四番、ピッチャー、八木くん」
「八木頼むぞー!!」
「打てよー!!」
八木もパワーヒッターとして知られている。自英学院の四番を任せされるだけあり、その打撃力は相当なものだった。
(真っすぐ狙いだろうし、カーブでカウントを)
芦田はカーブのサインを出した。深山も松澤も、ともに梅宮の直球をヒットにしている。芦田は、自英学院がチームとして直球を狙っているのだと考えていたのだ。
内野陣は変わらずゲッツー態勢をとっている。カーブをひっかけさせ、内野ゴロに打ち取ることが出来ればベストだ。試合の展開を考えれば、ここで先制点を許すわけにはいかなかった。
「梅宮先輩、踏ん張ってください!!」
「頑張れ梅宮先輩ー!!」
ベンチからも、まなとリョウが声援を飛ばしていた。梅宮はセットポジションから第一球を投じる。低めにコントロールされた、良いカーブだった。だが――八木は一拍置くと、思い切りバットを振り抜いた。快音とともに、打球が右方向へと飛んでいく。
「セカン!!」
二塁手の青野が飛びついたが、打球はその頭上を越えていく。そのまま右中間へと飛んでいき、観客席からは歓声が沸き起こった。
「やったー!!」
「まわれまわれー!!」
盛り上がる自英学院の応援席とは対照的に、芦田は驚きを隠せなかった。
(今、明らかにカーブを狙われてた……!!)
彼が動揺している間に、二塁ランナーが帰ってきた。続いて一塁ランナーも三塁を蹴り、本塁へと向かってくる。
「ボールみっつ!!」
芦田が指示を飛ばすと、外野からの返球を受け取った青野が三塁へと送球した。しかし、八木は一気に三塁へと滑り込んでセーフとなった。これでタイムリースリーベースヒットとなり、自英学院が二点を先制することになった。
「いいぞ八木ー!!」
「ナイスバッチー!!」
大林高校のナインは、あっという間の先制劇にただただ呆然としていた。ここまで好投を続けてきた梅宮が、あっさり二点タイムリーを浴びたのだ。そのダメージは大きかった。
(これが強豪の力、か)
レフトの久保は、対戦相手の実力を再認識させられていた。去年の試合で自英学院を二失点でとどめていた竜司はもういない。大林高校の真の実力が、今まさに試されようとしていた――
「梅宮、気張らずにいけよ」
「大丈夫だ、意外と緊張してない」
岩沢が声を掛けると、梅宮がそれに返事した。今日の試合会場はプロ仕様の球場だが、彼は動じることなく試合に臨むことが出来ていた。一方で、自英学院の打者たちは投球練習の様子をじっと見ていた。
「向こうが何を狙っているかですね」
「梅宮先輩にはなるべく耐えてもらわないと」
マネージャーの二人がそんな会話をしていた。先の悠北高校戦では、梅宮とリョウの二人で七失点を喫している。相手が好投手の八木である以上、大量失点は許されないのだ。
「一回裏、自英学院高校の攻撃は、一番、ショート、深山くん」
「打てよ深山ー!!」
「頼むぞー!!」
一番打者が左打席に入り、審判がプレイをかけた。自英学院の応援団は活気づき、熱心にエールを送っている。芦田は何のサインを出すべきか考えていた。
(初見でカーブは簡単に打てないはず。カーブ多めでいきましょう)
彼がカーブのサインを出すと、梅宮が頷いた。そのまま足を上げ、第一球を投じた。ボールが弧を描いて、芦田のミットへと向かっていく。打者が見逃すと、審判の右手が上がった。
「ストライク!!」
「ナイスボール梅宮ー!!」
「いいぞー!!」
初球でカウントが取れてほっとしたのか、梅宮は落ち着いた表情で返球を受け取った。
(もう一球、カーブを)
芦田のサインに従って、梅宮は二球目を投じた。先ほどと同じような軌道で、白球が本塁へと向かって進んでいく。これも打者が見逃したが、ストライクとなった。
「ストライク!!」
「追い込んでるぞー!!」
「落ち着いていけー!!」
これでノーボールツーストライクだ。芦田は直球のサインを出して、高めに構えた。釣り球を見せて、最後にもう一度カーブで仕留める算段だった。梅宮も同意し、足を上げた。そして、第三球を投じた。
(いいコース!!)
芦田の構えた通りのコースに白球が飛んでいく。すると、打者が強引に打ちにきた。高めのボールを上から叩くようなスイングで、右方向に弾き返した。
「セカン!!」
打球はゴロになったが、飛んだコースが絶妙だった。一塁手と二塁手の間をうまく抜け、ライト前ヒットとなった。
「いいぞ深山ー!!」
「ナイバッチー!!」
先頭打者の出塁に、自英学院のベンチも盛り上がる。ベースカバーに入ろうと走っていた梅宮は、顔をしかめて悔しがっていた。
「二番、レフト、原口くん」
場内アナウンスとともに、二番打者が右打席へと向かった。芦田は座り直し、次の打者への配球を考えていた。
(さっき直球を無理やり打ちにきたし、真っすぐ狙いかもしれん。ならそれを利用するまで)
芦田は直球のサインを出して、インハイに構えた。右手でポンとミットを叩いて、強気で来るように伝えている。梅宮もそれを理解し、ふうと息をついた。一塁ランナーはやや大きくリードして、注意を引こうと努めている。
梅宮はセットポジションから足を上げ、第一球を投じた。力のある直球がインハイに向かって突き進んでいく。打者はそれを見て積極的にスイングをかけてきたが、詰まらされた。
「ファースト!!」
芦田が指示を飛ばすと、一塁手の門間がゆっくりと落下点に入った。打った原口はしまったという表情で一塁方向へと駆けていく。そのまま門間が打球を掴み、まずワンアウトとなった。
「オッケー!!」
「ワンアウトワンアウトー!!」
梅宮は人差し指を立て、内野陣とアウトカウントを確認していた。
「まずワンアウトですね!」
「うん、でも次からが勝負だよ」
レイが喜んでいたのに対し、まなは冷静に次打者を見ていた。というのも、次は三番の松澤が打席に入るからだ。さらにその後ろには四番の八木も控えている。この強打者二人に対し、梅宮が自分のピッチングを出来るかどうか。彼女はそのことを心配していたのだ。
「三番、キャッチャー、松澤くん」
「頼むぞ松澤ー!!」
「先制点頼むぞー!!」
松澤の登場に対し、応援席が盛り上がっていた。彼も今大会で通算二本塁打を放っており、注目の強打者として名前が挙がっていたのだ。大林高校の選手たちにとっても、去年竜司がツーランホームランを打たれたのが強く印象に残っている。
「梅宮先輩、落ち着いていきましょう」
「ああ」
芦田は梅宮に声をかけ、気持ちを落ち着かせようと努めていた。松澤は打席に入り、梅宮に向かって構える。
(まずは低め、真っすぐ)
直球のサインを出し、芦田は低めに構えた。内野陣はゲッツー態勢となり、内野ゴロに備えている。梅宮は一塁に牽制球を投じたあと、第一球を投じた。ボールは真っすぐ、芦田のミットへと向かっていく。松澤は手を出していったが、空振りした。
「ストライク!!」
「ナイスピーです、梅宮先輩」
芦田は同様に声を掛けながら、梅宮に返球した。松澤は少し考えたあと、再び打席へと入る。梅宮は第二球にカーブを投じたが、これは外れてボールとなった。これでワンボールワンストライクだ。
(やはり低めでゲッツーがベストだ)
そう考え、芦田は再び低めのストレートを要求した。梅宮もそれに頷き、第三球を投じた。しかし、白球は構えられたミットよりやや高く進んでいく。
(高い!!)
と芦田が思うが早いか、松澤がバットを一気に振り抜いた。カキンという金属音を残して、打球が狭く閉じられた二遊間を抜けていく。そのままセンター前ヒットとなり、これでワンアウト一二塁となった。
「ナイバッチ松澤ー!!」
「いいぞー!!」
自英学院の応援団はさらに盛り上がる。一方で、大林高校の選手たちは表情を厳しくしていた。ランナーが二人溜まったところで、四番の八木を迎えることになってしまったのだ。守備側にも、プレッシャーがかかっていた。
「四番、ピッチャー、八木くん」
「八木頼むぞー!!」
「打てよー!!」
八木もパワーヒッターとして知られている。自英学院の四番を任せされるだけあり、その打撃力は相当なものだった。
(真っすぐ狙いだろうし、カーブでカウントを)
芦田はカーブのサインを出した。深山も松澤も、ともに梅宮の直球をヒットにしている。芦田は、自英学院がチームとして直球を狙っているのだと考えていたのだ。
内野陣は変わらずゲッツー態勢をとっている。カーブをひっかけさせ、内野ゴロに打ち取ることが出来ればベストだ。試合の展開を考えれば、ここで先制点を許すわけにはいかなかった。
「梅宮先輩、踏ん張ってください!!」
「頑張れ梅宮先輩ー!!」
ベンチからも、まなとリョウが声援を飛ばしていた。梅宮はセットポジションから第一球を投じる。低めにコントロールされた、良いカーブだった。だが――八木は一拍置くと、思い切りバットを振り抜いた。快音とともに、打球が右方向へと飛んでいく。
「セカン!!」
二塁手の青野が飛びついたが、打球はその頭上を越えていく。そのまま右中間へと飛んでいき、観客席からは歓声が沸き起こった。
「やったー!!」
「まわれまわれー!!」
盛り上がる自英学院の応援席とは対照的に、芦田は驚きを隠せなかった。
(今、明らかにカーブを狙われてた……!!)
彼が動揺している間に、二塁ランナーが帰ってきた。続いて一塁ランナーも三塁を蹴り、本塁へと向かってくる。
「ボールみっつ!!」
芦田が指示を飛ばすと、外野からの返球を受け取った青野が三塁へと送球した。しかし、八木は一気に三塁へと滑り込んでセーフとなった。これでタイムリースリーベースヒットとなり、自英学院が二点を先制することになった。
「いいぞ八木ー!!」
「ナイスバッチー!!」
大林高校のナインは、あっという間の先制劇にただただ呆然としていた。ここまで好投を続けてきた梅宮が、あっさり二点タイムリーを浴びたのだ。そのダメージは大きかった。
(これが強豪の力、か)
レフトの久保は、対戦相手の実力を再認識させられていた。去年の試合で自英学院を二失点でとどめていた竜司はもういない。大林高校の真の実力が、今まさに試されようとしていた――
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