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第12話 過去と現在
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「怪我はないか?」
「は、はい……」
腕の中に抱えた少女が、震えながら静かに答えた。燃え盛る靴屋の二階に屋根をブチ破って飛び込み、逃げ遅れたこの子を救ってすぐに飛び立った。……あと一歩遅ければ、山の方に転がる無数の死体の仲間入りをしていたことだろう。俺は少女を抱いたまま、近くの広場へと降下していく。
「ああ、エレナ!」
「エレナ、助かったのね……!」
「姉さん……!」
地面に降り立った瞬間、この子の両親と兄弟たちが駆け寄ってきた。母親は腕に赤ん坊を抱えており、一方の父親はエプロン姿だ。きっと急な攻撃で、慌てて家を飛び出すしかなかったのだろう。
「待たせたな。約束通り、娘は救い出した」
「ありがとう、ありがとう……!」
「ありがとうございます、感謝してもしきれません……!」
俺はそっと少女を下ろし、両親のもとへと返した。広場に避難していた市民たちを誘導していた際、この両親が必死な顔で懇願してきた。燃え盛る家に置いてきてしまった娘がいるから助けてほしい、と。俺はすぐさま飛び立ち、なんとか救出したというわけだ。
「煙を吸っているかもしれん。この子から目を離すな」
「はいっ……!」
「娘は助けたが、消火までは出来なかった。主人、店は諦めるんだな」
「この子が助かれば、他には何もいらないよ。店くらい何とでもなる」
強い夫婦だな。突然の侵攻で店を燃やされておきながら、家族の無事を喜べる余裕があるのだからな。
「軍の救援が間もなくやってくる。この広場にも来るよう伝えてあるから、ここで待っていてくれ」
「すいません、何から何まで……」
「俺はこのまま上空で目を光らせておく。もう王国の攻撃に怯える必要はない」
「ありがとう軍人さんよ、せめて名前を――」
「ソラ・シュトラウス少尉だ。気落ちするなよ」
俺は魔力を放出して、徐々に重力を打ち消していく。周囲に風が吹き、助けた少女のポニーテールが揺らめいていた。その子はぽかんとした目で、俺の様子を見守っている。
「じゃあな、親孝行しろよ」
少女はこくりと頷いた。俺はそれを見届けてから、一気に高度を上げていく。草木と人が焼ける匂いに包まれながら、あっという間に上空へと達した。工芸品で名を馳せたこのハイルブロンが、今や炎に覆われているとはな。
「……司令部、こちらシュトラウス。これより残存兵の掃討に移る」
通信をしてから、俺は敗走する王国軍の兵士たちを追った――
***
「ベル、帰ったぞー」
「あーもう、心配しましたよ!」
家に帰ると、ベルがほっとした表情でこちらに駆け寄ってきた。どうやら我が家が燃えることはなかったみたいだな。
「帰るのが遅くなったな。何もなかったか?」
「このあたりは攻撃されなかったようです」
「そうか。怖くなかったか?」
「いえ、いざとなったら自分で防御魔法を張るつもりでしたから」
やっぱりそうか。ただの魔術師じゃなさそうだし、防御魔法くらいなら朝飯前ということか。そもそも王国の空襲で王女様が死んだらそれこそ大事件だしなあ。
「……あの、ソラさん」
「どうした?」
「『ハイルブロンの悪魔』がこの街に潜伏しているというのは本当ですか?」
ベルはキッと表情を引き締め、俺に問うた。……ジェルマンが拡声魔法で言っていたのが、ここまで聞こえてきたのだろうな。
「だから言っているだろう。その質問には答えられない」
「そうですか。承知しました」
拍子抜けするほどベルはあっさり引き下がったが、その割に表情がすっきりとしていない。心のどこかで納得していない部分があるのだろう。
「ところで、ソラさんは大丈夫だったのですか?」
「それが大丈夫じゃなかったんだよ。あと一歩で死ぬところだった」
「そんな、一体何が……」
「逆にお前に聞きたいんだが――ジェルマン・バロンという名に聞き覚えはあるか?」
ベルはピクリと体を震わせた。この反応、何か知っているようだな。
「どうだ、知っているか?」
「……はい。王国でも有名ですから」
「そんなことは分かってるんだよ。何かこう、王女としてはどうなんだ?」
「一言で言い表すのは難しいのですが……敢えて言うなら、『恩人』でしょうか」
ベルは右手で左腕を掴みつつ、自信無さげに答えた。これが「恩人」について語る時の態度だろうか? ……なんだか因縁がありそうだが、果たしてどうか。
「なんで『恩人』なんだ?」
「詳しくは申し上げられません。……それで、その方がどうかしたのですか?」
「要するに、ソイツが飛んで来たんだよ。王国のエース様がわざわざこの街にな」
「言われてみれば、たしかにジェルマン・バロンの声でした」
ベルは「なるほど」といった感じの表情だった。声を知っているということは、一度は会ったことがあるということだろう。ジェルマンは王室とも何か関係があるということか。奴もただの優秀な航空魔術師というわけじゃなさそうだな。
「そんでまあ、奴が来たってんで大騒ぎしたわけだ」
「あの、こちらの航空魔術師が迎撃なさらなかったのですか?」
「詳しいことは言えないが、ここら辺には配置されてない」
「……そうですか。一昨日のように、あなたが飛べたらよかったのに」
「おいおい、俺にジェルマンと戦えって言うのかよ」
俺はわざとらしくハハハと笑った。こう言っておかないと「ハイルブロンの英雄」だと気づかれてしまうからな。コイツが王国とまだ繋がっている可能性も考えると、おいそれと正体を明かすわけにはいかないのだ。
「よし、飯にしよう。いろいろあって疲れたんだ」
「は、はい。ご用意しますから……」
ベルは台所に向かおうとしていたが、どうにも動きが漫然としている。足取りもぎこちないし、どこか上の空だ。何か考え事をしているみたいだな。
「ベル、大丈夫か?」
「いえっ、その……」
「余計なこと考えていると怪我するぞ」
「は、はい……」
俺の言うことに一応は耳を傾けているみたいだが、やはり集中出来ていないな。あれこれ気遣うより、さっさと聞き出してしまった方が早いか。
「何か思っているなら言ってみろ。俺だって気になるだろ」
「……その、ご相談があるのです」
ベルは足を止め、改めて俺の方に歩み寄ってきた。こんなかしこまって相談とは、いったい何を言いだすのだろう。
「ソラさんは帝国軍の学校で先生をされているのですよね?」
「ん? まあな」
「……私をその学校に入れていただけませんか?」
「はっ?」
思いもよらぬ提案に、戸惑いの声を上げてしまった。ベルが学校に? 敵国の王女が帝国軍に? ……いくらなんでも滅茶苦茶すぎるだろう。
「ど、どういうことだ?」
「私が学校に入れば、ずっとあなたの側にいられます。また王国からの攻撃があった際には、私が右足を癒やせばあなたは戦えるはずです」
「……それはそうだが」
たしかに、ベルがずっと一緒ならいつでも右足を治してもらうことが出来る。そうすりゃ航空魔術師として戦うことも出来るし、今日のような出来事にもすぐに対処出来るというわけか。……けど、いくらなんでもコイツを軍の学校に入れるわけにはいかない。
「ベル、分かっているだろうがお前は王国の人間だ。そんなことが出来るわけないだろう」
「私はまだソラさんに信用されていないということでしょうか?」
「残念だがその通りだ。お前を入学させるのは無理な話だ」
「……でしたら、一つ提案させていただきたいことがあります」
そう言うと、ベルはぶつぶつと何かを唱え始めた。王国式の魔法を発動するみたいだが、今度は何をするつもりなんだ……? 俺はそっと身構え、万が一に備える。
「……神よ、私に罰を与えたまえ」
「罰?」
「ソラさん。右手を」
困惑しながら右手を差し出してみると、その上に光が現れた。あまりの眩さに思わず目を背けてしまったのだが、もう一度右手をそっと見る。……鍵?
「おいベル、なんだこれは――」
「ソラさん、私の首元を」
「うわっ!?」
言われた通りに首元を見ると、そこには光の線が形成されていた。ベルの首を取り囲むようにして、線はゆっくりと伸びていく。輪っかになったところで光が消えていき、何事もなかったかのように元通りになった。
「ベル、これは」
「あなたに信用していただくためです。今度は左手を」
「あ、ああ」
左手を差し出すと、さっきと同様に鍵の形をした光が出現した。それと同時に、ベルの綺麗な長髪を取り囲むように光の輪が形作られ、そして消えていく。……まさか?
「ソラさん、『ベルナデッタ・アルベールに罰を』と唱えながら左手を握ってください」
「い、いいのか?」
「お願いします」
「……ベルナデッタ・アルベールに罰を」
「ッ!」
「なっ……!?」
俺が左手を握った瞬間、バチンと大きな音が響き渡った。ベルは一瞬だけ苦痛に顔を歪め、目を閉じてしまう。髪の周りに光の輪が現れたかと思えば、それが瞬く間に一点に収束し、ベルの長髪を断ち切ってしまったのだ。
「これって――」
「王国で死刑を執行するために用いられていた魔法です」
「じゃあ、俺が右手を握れば?」
「……今のをご覧になればお分かりでしょう?」
ベルはにこりと笑いながら、恐ろしいことを口走っていた。綺麗だった金髪がすっかり短くなってしまい、まるで別人のような風貌だ。……ここまでして学校に入る気なのか。
「……なあベル、教えてくれよ。どうしてここまでしてくれるんだ」
「なんてことはありません。あの日に誓った通り、私はあなたに捧げたまでです」
「何をだ?」
「文字通り、私の命です」
爽やかに笑うベルの姿には、その美しさで隠し切れない並々ならぬ覚悟が見え隠れしていた――
「は、はい……」
腕の中に抱えた少女が、震えながら静かに答えた。燃え盛る靴屋の二階に屋根をブチ破って飛び込み、逃げ遅れたこの子を救ってすぐに飛び立った。……あと一歩遅ければ、山の方に転がる無数の死体の仲間入りをしていたことだろう。俺は少女を抱いたまま、近くの広場へと降下していく。
「ああ、エレナ!」
「エレナ、助かったのね……!」
「姉さん……!」
地面に降り立った瞬間、この子の両親と兄弟たちが駆け寄ってきた。母親は腕に赤ん坊を抱えており、一方の父親はエプロン姿だ。きっと急な攻撃で、慌てて家を飛び出すしかなかったのだろう。
「待たせたな。約束通り、娘は救い出した」
「ありがとう、ありがとう……!」
「ありがとうございます、感謝してもしきれません……!」
俺はそっと少女を下ろし、両親のもとへと返した。広場に避難していた市民たちを誘導していた際、この両親が必死な顔で懇願してきた。燃え盛る家に置いてきてしまった娘がいるから助けてほしい、と。俺はすぐさま飛び立ち、なんとか救出したというわけだ。
「煙を吸っているかもしれん。この子から目を離すな」
「はいっ……!」
「娘は助けたが、消火までは出来なかった。主人、店は諦めるんだな」
「この子が助かれば、他には何もいらないよ。店くらい何とでもなる」
強い夫婦だな。突然の侵攻で店を燃やされておきながら、家族の無事を喜べる余裕があるのだからな。
「軍の救援が間もなくやってくる。この広場にも来るよう伝えてあるから、ここで待っていてくれ」
「すいません、何から何まで……」
「俺はこのまま上空で目を光らせておく。もう王国の攻撃に怯える必要はない」
「ありがとう軍人さんよ、せめて名前を――」
「ソラ・シュトラウス少尉だ。気落ちするなよ」
俺は魔力を放出して、徐々に重力を打ち消していく。周囲に風が吹き、助けた少女のポニーテールが揺らめいていた。その子はぽかんとした目で、俺の様子を見守っている。
「じゃあな、親孝行しろよ」
少女はこくりと頷いた。俺はそれを見届けてから、一気に高度を上げていく。草木と人が焼ける匂いに包まれながら、あっという間に上空へと達した。工芸品で名を馳せたこのハイルブロンが、今や炎に覆われているとはな。
「……司令部、こちらシュトラウス。これより残存兵の掃討に移る」
通信をしてから、俺は敗走する王国軍の兵士たちを追った――
***
「ベル、帰ったぞー」
「あーもう、心配しましたよ!」
家に帰ると、ベルがほっとした表情でこちらに駆け寄ってきた。どうやら我が家が燃えることはなかったみたいだな。
「帰るのが遅くなったな。何もなかったか?」
「このあたりは攻撃されなかったようです」
「そうか。怖くなかったか?」
「いえ、いざとなったら自分で防御魔法を張るつもりでしたから」
やっぱりそうか。ただの魔術師じゃなさそうだし、防御魔法くらいなら朝飯前ということか。そもそも王国の空襲で王女様が死んだらそれこそ大事件だしなあ。
「……あの、ソラさん」
「どうした?」
「『ハイルブロンの悪魔』がこの街に潜伏しているというのは本当ですか?」
ベルはキッと表情を引き締め、俺に問うた。……ジェルマンが拡声魔法で言っていたのが、ここまで聞こえてきたのだろうな。
「だから言っているだろう。その質問には答えられない」
「そうですか。承知しました」
拍子抜けするほどベルはあっさり引き下がったが、その割に表情がすっきりとしていない。心のどこかで納得していない部分があるのだろう。
「ところで、ソラさんは大丈夫だったのですか?」
「それが大丈夫じゃなかったんだよ。あと一歩で死ぬところだった」
「そんな、一体何が……」
「逆にお前に聞きたいんだが――ジェルマン・バロンという名に聞き覚えはあるか?」
ベルはピクリと体を震わせた。この反応、何か知っているようだな。
「どうだ、知っているか?」
「……はい。王国でも有名ですから」
「そんなことは分かってるんだよ。何かこう、王女としてはどうなんだ?」
「一言で言い表すのは難しいのですが……敢えて言うなら、『恩人』でしょうか」
ベルは右手で左腕を掴みつつ、自信無さげに答えた。これが「恩人」について語る時の態度だろうか? ……なんだか因縁がありそうだが、果たしてどうか。
「なんで『恩人』なんだ?」
「詳しくは申し上げられません。……それで、その方がどうかしたのですか?」
「要するに、ソイツが飛んで来たんだよ。王国のエース様がわざわざこの街にな」
「言われてみれば、たしかにジェルマン・バロンの声でした」
ベルは「なるほど」といった感じの表情だった。声を知っているということは、一度は会ったことがあるということだろう。ジェルマンは王室とも何か関係があるということか。奴もただの優秀な航空魔術師というわけじゃなさそうだな。
「そんでまあ、奴が来たってんで大騒ぎしたわけだ」
「あの、こちらの航空魔術師が迎撃なさらなかったのですか?」
「詳しいことは言えないが、ここら辺には配置されてない」
「……そうですか。一昨日のように、あなたが飛べたらよかったのに」
「おいおい、俺にジェルマンと戦えって言うのかよ」
俺はわざとらしくハハハと笑った。こう言っておかないと「ハイルブロンの英雄」だと気づかれてしまうからな。コイツが王国とまだ繋がっている可能性も考えると、おいそれと正体を明かすわけにはいかないのだ。
「よし、飯にしよう。いろいろあって疲れたんだ」
「は、はい。ご用意しますから……」
ベルは台所に向かおうとしていたが、どうにも動きが漫然としている。足取りもぎこちないし、どこか上の空だ。何か考え事をしているみたいだな。
「ベル、大丈夫か?」
「いえっ、その……」
「余計なこと考えていると怪我するぞ」
「は、はい……」
俺の言うことに一応は耳を傾けているみたいだが、やはり集中出来ていないな。あれこれ気遣うより、さっさと聞き出してしまった方が早いか。
「何か思っているなら言ってみろ。俺だって気になるだろ」
「……その、ご相談があるのです」
ベルは足を止め、改めて俺の方に歩み寄ってきた。こんなかしこまって相談とは、いったい何を言いだすのだろう。
「ソラさんは帝国軍の学校で先生をされているのですよね?」
「ん? まあな」
「……私をその学校に入れていただけませんか?」
「はっ?」
思いもよらぬ提案に、戸惑いの声を上げてしまった。ベルが学校に? 敵国の王女が帝国軍に? ……いくらなんでも滅茶苦茶すぎるだろう。
「ど、どういうことだ?」
「私が学校に入れば、ずっとあなたの側にいられます。また王国からの攻撃があった際には、私が右足を癒やせばあなたは戦えるはずです」
「……それはそうだが」
たしかに、ベルがずっと一緒ならいつでも右足を治してもらうことが出来る。そうすりゃ航空魔術師として戦うことも出来るし、今日のような出来事にもすぐに対処出来るというわけか。……けど、いくらなんでもコイツを軍の学校に入れるわけにはいかない。
「ベル、分かっているだろうがお前は王国の人間だ。そんなことが出来るわけないだろう」
「私はまだソラさんに信用されていないということでしょうか?」
「残念だがその通りだ。お前を入学させるのは無理な話だ」
「……でしたら、一つ提案させていただきたいことがあります」
そう言うと、ベルはぶつぶつと何かを唱え始めた。王国式の魔法を発動するみたいだが、今度は何をするつもりなんだ……? 俺はそっと身構え、万が一に備える。
「……神よ、私に罰を与えたまえ」
「罰?」
「ソラさん。右手を」
困惑しながら右手を差し出してみると、その上に光が現れた。あまりの眩さに思わず目を背けてしまったのだが、もう一度右手をそっと見る。……鍵?
「おいベル、なんだこれは――」
「ソラさん、私の首元を」
「うわっ!?」
言われた通りに首元を見ると、そこには光の線が形成されていた。ベルの首を取り囲むようにして、線はゆっくりと伸びていく。輪っかになったところで光が消えていき、何事もなかったかのように元通りになった。
「ベル、これは」
「あなたに信用していただくためです。今度は左手を」
「あ、ああ」
左手を差し出すと、さっきと同様に鍵の形をした光が出現した。それと同時に、ベルの綺麗な長髪を取り囲むように光の輪が形作られ、そして消えていく。……まさか?
「ソラさん、『ベルナデッタ・アルベールに罰を』と唱えながら左手を握ってください」
「い、いいのか?」
「お願いします」
「……ベルナデッタ・アルベールに罰を」
「ッ!」
「なっ……!?」
俺が左手を握った瞬間、バチンと大きな音が響き渡った。ベルは一瞬だけ苦痛に顔を歪め、目を閉じてしまう。髪の周りに光の輪が現れたかと思えば、それが瞬く間に一点に収束し、ベルの長髪を断ち切ってしまったのだ。
「これって――」
「王国で死刑を執行するために用いられていた魔法です」
「じゃあ、俺が右手を握れば?」
「……今のをご覧になればお分かりでしょう?」
ベルはにこりと笑いながら、恐ろしいことを口走っていた。綺麗だった金髪がすっかり短くなってしまい、まるで別人のような風貌だ。……ここまでして学校に入る気なのか。
「……なあベル、教えてくれよ。どうしてここまでしてくれるんだ」
「なんてことはありません。あの日に誓った通り、私はあなたに捧げたまでです」
「何をだ?」
「文字通り、私の命です」
爽やかに笑うベルの姿には、その美しさで隠し切れない並々ならぬ覚悟が見え隠れしていた――
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