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【序】あるいは、夢から現
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美しい声が聞こえた。
その声が己を呼んでいる。
薄闇の中、そっと手を伸ばすと、柔らかな乙女の頬に触れた。
思わず、抱きしめた。
と。
簡雍憲和の頬に、弾けるような痛みが奔った。
「そんなにおなごの肌が恋しいのなら、妻をお娶りになったら良いのですよ」
美しい声と、激しい痛みの元が言う。
大あくびをした簡雍の、霞んだ目に、ぼんやりと、若い官吏の姿が映った。
「阿花、お前さんが嫁いできてくれるって言うんなら、考えてやってもいいがね」
「阿花と呼ぶのはやめてください。そもそも、私に『寧国』という字をくださったのは、義叔父上でしょう?」
背が高く、華奢で、童顔の頬に新しい刀傷が痛々しく残る若者が、ため息を吐いた。
「子供扱いしなければ、俺が所に嫁にきてくれるかね?」
無精ひげの中に埋没した口元に、にやけた笑いを浮かべる簡雍に、若い官吏……の衣服を着た娘が、ぴしゃりと、
「義父上に聞いてください」
「ちっ。雲長兄ぃが愛義娘を俺なんぞにくれるはずがねぇ」
簡雍は大きく伸びをして、寝台から起き上がった。
「義伯父上……いえ、主公がお呼びです。軍議が始まりますよ」
王索寧国はにっこりと笑った。
その声が己を呼んでいる。
薄闇の中、そっと手を伸ばすと、柔らかな乙女の頬に触れた。
思わず、抱きしめた。
と。
簡雍憲和の頬に、弾けるような痛みが奔った。
「そんなにおなごの肌が恋しいのなら、妻をお娶りになったら良いのですよ」
美しい声と、激しい痛みの元が言う。
大あくびをした簡雍の、霞んだ目に、ぼんやりと、若い官吏の姿が映った。
「阿花、お前さんが嫁いできてくれるって言うんなら、考えてやってもいいがね」
「阿花と呼ぶのはやめてください。そもそも、私に『寧国』という字をくださったのは、義叔父上でしょう?」
背が高く、華奢で、童顔の頬に新しい刀傷が痛々しく残る若者が、ため息を吐いた。
「子供扱いしなければ、俺が所に嫁にきてくれるかね?」
無精ひげの中に埋没した口元に、にやけた笑いを浮かべる簡雍に、若い官吏……の衣服を着た娘が、ぴしゃりと、
「義父上に聞いてください」
「ちっ。雲長兄ぃが愛義娘を俺なんぞにくれるはずがねぇ」
簡雍は大きく伸びをして、寝台から起き上がった。
「義伯父上……いえ、主公がお呼びです。軍議が始まりますよ」
王索寧国はにっこりと笑った。
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