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序詞篇 第零
パーティ客《ゲスト》として来たつもりだったのに、勉強会《セミナー》の講師をやることになったっす。
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んで、その喬って人のおかげで、先輩はまた逃げなきゃなんなくなったんですよねぇ。
しかも、今度は健さんの息子さんの勝クンを連れて逃げた。これは、やっぱゴイスーな判断ですよ。
マジ律儀ッっすね、先輩。ホント、尊敬しちゃいますよ。
そーだ。先輩、逃げてる間、病気したって聞いたんですけど、今は体調とかどうなんですか?
なんか、その頃は食べるものもままならなかったって話を小耳に挟んじゃったんですけど?
ああ、本気の家庭菜園がやれちゃうぐらいにバッチリ絶好調なんすね。へえ、今年は瓜が大豊作? そいつは良かった、マジ良かった。
まぁオレもね、故郷から出てアチコチ歩いて廻る辛さ、ちょびっとは解るんですよ。先輩の苦労にはゼンゼン追いつかないですけどね、ほんのちびっと、小指の先っぽのコレッくらいなら、解ります。
衣食住、それから仕事に友達、これ全部失って、物乞いになっちゃう苦しさ、悲しさ、情けなさ、憤ろしさ……。
口で言うことは誰でも出来ちゃうんですけどねぇ。辛酸ってものは、実際舐めてみないと、本当の、深いところのしんどさは解んないですよね。
いやいやいやいや、オレなんかはまだ温っ温な甘ちゃんですよ。
先輩みたいにマジで生きるか死ぬかって所までは――こんな風に言ったら先輩には申し訳ないッすけど――有難いことにイってないワケですから。だから、こんな大口叩いちゃだめなんですけども。
あ、そうそう。楚の健さんの息子さんの勝クン、楚にいる叔父さん方から声かけられてるんでしょ?
「YOU、帰って来ちゃいなよ」
って。
跡取り王子様待遇じゃ無いけど、結構いい感じの貴族として扱うし、領地も良いとこ用意してるよ……って。
オレが何でその辺り知ってるのかって? もしかしてちょっと引いてます?
へへっ。いやオレね、そういう情報って集めるの大好きなんですよ。
情報でもお金でも宝物でも、いざ集め始めるってーと、不思議と「集めてるところ」に集まってくるから面白いっすよね。
あ、先輩は迷ってますね? 勝クンも戻るかどうか悩んでるんですか?
ああ、やっぱりねー。そりゃそうだ。
今の楚の王様……昭王って言いましたっけね? この人、先輩のご家族を死なせた平王が勝クンのお父さんから奪ったお姫様の子供で、ぶっちゃけ勝クンのお父さんから王太子の位を取ってっちゃった人、ですもんね。気分は複雑だ、コレ。
オレの意見っすか? それ言っちゃって良いんですか?
ハイ、サンキューです。じゃあ遠慮無く言いますよ。
オレは帰る方に賛成したいなぁって。
いや、今すぐじゃ無くて、もうちょっと後で、ってコトですけどね。
今現在、勝クンってば呉の国じゃ「居候扱い」でしょ? それも、ダイレクトに呉王様の居候になってるんじゃ無くて、他所から来た……つまりはこれも居候な先輩の、そのまたさらに居候。これ、肩身狭いっすよ。
いや、先輩みたいに優秀な人の傍にいて、色々勉強できちゃうってのは、凄く恵まれてますけども。
でもでも、ほら、今のまま居候だじゃ、ずっとギュッと縮こまってなきゃ行けないじゃ無いですか。
窮屈ですよ、まだ若いのに。
それに本人の望みも、お客のお客な今の身分じゃ、なかなか果たせないですから。
……知ってますよ、勝クンの生きる目標。
親の仇敵の公孫喬と鄭の国をぶっ潰す。
正解? やっぱりね。
先輩には、勝クンの気持ちがバッチリ判ってるんでしょ?
だって先輩も、自分の親の仇敵の楚の国をぶっ潰すために、楚をぶっ潰せる可能性のある呉までやって来たんですもんね。
体壊してまで呉にやってきたのは、ぶっちゃけ呉に楚へ攻め込んでもらうため。
今の呉王の闔閭様の即位に手を貸したのも、自分を用いてもらって、自分の望み……楚をぶっ潰す……を果たす手助けをしてもらうため。
人材を推挙したり、内政と外交に尽力するのも、楚をぶっ潰せるくらいの国力を付けさせるため。
あ、ヤだな先輩。そんな怖い顔して。
大丈夫ですよ、そんな重要機密、誰にも言いやしませんって。ここだけの内緒話ですから。
先輩の最終目標のためには、呉にはまだ人材が足りてない……うん、それも知ってますよ。
だから優秀な勝クンを育て上げたい? ごもっともごもっとも。
でも勝クンが優秀だからこそ、楚に返してあげちゃった方がいいんですよ。
そうすれば、あの隙の無い楚ってぇ大国の中に、めっちゃ優秀な「先輩の分身」をガツンと撃ち込めるんですから。
またまたまたぁ。最後までオレの口から言わせちゃうんですかぁ?
この辺に、聞こえちゃマズイ人は誰も居ないですよね? ホントに? じゃ言いますけども。
勝クンが楚に帰りぃの、楚の中での影響力をコツコツ増しぃの、楚の力で鄭と公孫喬をぶっ潰しぃの、ますます勝クンが楚の中での影響力を増しぃの、先輩と呉軍で平王の系統をぶっ飛ばしぃの……からの、勝クンが「正当な権利を履行」して楚の王位を継承しぃの、先輩も故郷に錦を飾りぃの、と。
これ、先輩も考えてたんでしょ?
だったらやっちゃえば良いんですよ。
出来ますよ、大丈夫。
んで、勝クン、その辺にいるんでしょ? 柱の陰かな?
それで、オレと先輩の会話、どの辺から聞いてました?
はいオッケー。最初からしっかり聞いててくれましたね。
うん、でもまだ勝クンは一寸不安なのかな?
え? 先輩も心配なんですか?
えー? オレが勝クンに秘策を与えろって? そのために今日のパーリィに呼んだって?
……ま、そんな事だろうとは思ってましたよ。ごちそうと酒精はガンガン良いのが出てくるのに、給仕の可愛娘ちゃんは全然素っ気ないし、音楽だってアガるやつじゃなくて、その上に声がちゃんと通る様に静かにならしてるんだもの。何か裏があるんだろうなぁって、お察ししちゃってました。
良いですよ。
日ごろ先輩にお世話になってるお礼に、オレの考えた最強の兵法を講義しちゃいましょう!
た、だ、し。
オレの「兵法」って言ったって、
「猿でもわかる戦争必勝マニュアル 入門編 コレであなたもらくらく連戦連勝」
みたいな物じゃ無いンすよ。そんな物ありません。大体、世の中そんなにスイーツじゃいっす。
オレの兵法は、総ての基本、生き残るための基礎知識、そして、勝つための現実的な思考方法、ってヤツです。
そういうのを学びたいなら、本気で聞いちゃって下さい。オレも本気で喋るんで。
じゃあ、始めましょうか――。
しかも、今度は健さんの息子さんの勝クンを連れて逃げた。これは、やっぱゴイスーな判断ですよ。
マジ律儀ッっすね、先輩。ホント、尊敬しちゃいますよ。
そーだ。先輩、逃げてる間、病気したって聞いたんですけど、今は体調とかどうなんですか?
なんか、その頃は食べるものもままならなかったって話を小耳に挟んじゃったんですけど?
ああ、本気の家庭菜園がやれちゃうぐらいにバッチリ絶好調なんすね。へえ、今年は瓜が大豊作? そいつは良かった、マジ良かった。
まぁオレもね、故郷から出てアチコチ歩いて廻る辛さ、ちょびっとは解るんですよ。先輩の苦労にはゼンゼン追いつかないですけどね、ほんのちびっと、小指の先っぽのコレッくらいなら、解ります。
衣食住、それから仕事に友達、これ全部失って、物乞いになっちゃう苦しさ、悲しさ、情けなさ、憤ろしさ……。
口で言うことは誰でも出来ちゃうんですけどねぇ。辛酸ってものは、実際舐めてみないと、本当の、深いところのしんどさは解んないですよね。
いやいやいやいや、オレなんかはまだ温っ温な甘ちゃんですよ。
先輩みたいにマジで生きるか死ぬかって所までは――こんな風に言ったら先輩には申し訳ないッすけど――有難いことにイってないワケですから。だから、こんな大口叩いちゃだめなんですけども。
あ、そうそう。楚の健さんの息子さんの勝クン、楚にいる叔父さん方から声かけられてるんでしょ?
「YOU、帰って来ちゃいなよ」
って。
跡取り王子様待遇じゃ無いけど、結構いい感じの貴族として扱うし、領地も良いとこ用意してるよ……って。
オレが何でその辺り知ってるのかって? もしかしてちょっと引いてます?
へへっ。いやオレね、そういう情報って集めるの大好きなんですよ。
情報でもお金でも宝物でも、いざ集め始めるってーと、不思議と「集めてるところ」に集まってくるから面白いっすよね。
あ、先輩は迷ってますね? 勝クンも戻るかどうか悩んでるんですか?
ああ、やっぱりねー。そりゃそうだ。
今の楚の王様……昭王って言いましたっけね? この人、先輩のご家族を死なせた平王が勝クンのお父さんから奪ったお姫様の子供で、ぶっちゃけ勝クンのお父さんから王太子の位を取ってっちゃった人、ですもんね。気分は複雑だ、コレ。
オレの意見っすか? それ言っちゃって良いんですか?
ハイ、サンキューです。じゃあ遠慮無く言いますよ。
オレは帰る方に賛成したいなぁって。
いや、今すぐじゃ無くて、もうちょっと後で、ってコトですけどね。
今現在、勝クンってば呉の国じゃ「居候扱い」でしょ? それも、ダイレクトに呉王様の居候になってるんじゃ無くて、他所から来た……つまりはこれも居候な先輩の、そのまたさらに居候。これ、肩身狭いっすよ。
いや、先輩みたいに優秀な人の傍にいて、色々勉強できちゃうってのは、凄く恵まれてますけども。
でもでも、ほら、今のまま居候だじゃ、ずっとギュッと縮こまってなきゃ行けないじゃ無いですか。
窮屈ですよ、まだ若いのに。
それに本人の望みも、お客のお客な今の身分じゃ、なかなか果たせないですから。
……知ってますよ、勝クンの生きる目標。
親の仇敵の公孫喬と鄭の国をぶっ潰す。
正解? やっぱりね。
先輩には、勝クンの気持ちがバッチリ判ってるんでしょ?
だって先輩も、自分の親の仇敵の楚の国をぶっ潰すために、楚をぶっ潰せる可能性のある呉までやって来たんですもんね。
体壊してまで呉にやってきたのは、ぶっちゃけ呉に楚へ攻め込んでもらうため。
今の呉王の闔閭様の即位に手を貸したのも、自分を用いてもらって、自分の望み……楚をぶっ潰す……を果たす手助けをしてもらうため。
人材を推挙したり、内政と外交に尽力するのも、楚をぶっ潰せるくらいの国力を付けさせるため。
あ、ヤだな先輩。そんな怖い顔して。
大丈夫ですよ、そんな重要機密、誰にも言いやしませんって。ここだけの内緒話ですから。
先輩の最終目標のためには、呉にはまだ人材が足りてない……うん、それも知ってますよ。
だから優秀な勝クンを育て上げたい? ごもっともごもっとも。
でも勝クンが優秀だからこそ、楚に返してあげちゃった方がいいんですよ。
そうすれば、あの隙の無い楚ってぇ大国の中に、めっちゃ優秀な「先輩の分身」をガツンと撃ち込めるんですから。
またまたまたぁ。最後までオレの口から言わせちゃうんですかぁ?
この辺に、聞こえちゃマズイ人は誰も居ないですよね? ホントに? じゃ言いますけども。
勝クンが楚に帰りぃの、楚の中での影響力をコツコツ増しぃの、楚の力で鄭と公孫喬をぶっ潰しぃの、ますます勝クンが楚の中での影響力を増しぃの、先輩と呉軍で平王の系統をぶっ飛ばしぃの……からの、勝クンが「正当な権利を履行」して楚の王位を継承しぃの、先輩も故郷に錦を飾りぃの、と。
これ、先輩も考えてたんでしょ?
だったらやっちゃえば良いんですよ。
出来ますよ、大丈夫。
んで、勝クン、その辺にいるんでしょ? 柱の陰かな?
それで、オレと先輩の会話、どの辺から聞いてました?
はいオッケー。最初からしっかり聞いててくれましたね。
うん、でもまだ勝クンは一寸不安なのかな?
え? 先輩も心配なんですか?
えー? オレが勝クンに秘策を与えろって? そのために今日のパーリィに呼んだって?
……ま、そんな事だろうとは思ってましたよ。ごちそうと酒精はガンガン良いのが出てくるのに、給仕の可愛娘ちゃんは全然素っ気ないし、音楽だってアガるやつじゃなくて、その上に声がちゃんと通る様に静かにならしてるんだもの。何か裏があるんだろうなぁって、お察ししちゃってました。
良いですよ。
日ごろ先輩にお世話になってるお礼に、オレの考えた最強の兵法を講義しちゃいましょう!
た、だ、し。
オレの「兵法」って言ったって、
「猿でもわかる戦争必勝マニュアル 入門編 コレであなたもらくらく連戦連勝」
みたいな物じゃ無いンすよ。そんな物ありません。大体、世の中そんなにスイーツじゃいっす。
オレの兵法は、総ての基本、生き残るための基礎知識、そして、勝つための現実的な思考方法、ってヤツです。
そういうのを学びたいなら、本気で聞いちゃって下さい。オレも本気で喋るんで。
じゃあ、始めましょうか――。
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