上 下
19 / 69
兵勢篇 第五

兵勢篇・絵描きさんはCMYK+白の五色だけで総てを描けるっす。

しおりを挟む
 いや、オレ思うんですけども。

 将軍リーダーさんがすっごい大人数ビッグバンド軍隊グループを引っ張ってるのに、まるで、
「あれ? ちょびっとの人間を引率してるのかなー」
 ってぐらいにイイカンジにまとめられてるって時は、最高にイイ案配でチーム分けができてるんじゃないか、ってことなんですよ。

 例えば、すっごい大人数でバトると、こっちで出した命令とか作戦とかがあっちの端っこの方まで行き渡るのに、どえらく大変だったりするでしょ? 右へ行け、って指示出してから、実際右に進むまでに熱燗あつかん冷酒ひやざけになっちゃうくらい時間が掛かっちゃったりする。これ、結構イラつきますよね。

 もしグループの人数が少なければ、右に進めって言えばすぐ全員が右に行くし、左って合図すればずぐに左に曲がれちゃう。
 コレ、普通ナミ軍隊グループなら当たり前の話。

 だから、もし、凄ーく大人数を動かして戦ってるって言うのに、まるで少ない人数で戦ってるみたいに兵隊メンバーさんがスムーズに動けてるとしたら、合図とか連絡系統とかのモロモロの決め事がビシッとまってるってコトなんじゃないですかね。
 こういう軍隊グループ、良いっすよねー。

 軍隊グループ全体の兵隊メンバー全員が、敵さんチームに上手いこと対応して、負けずにいられる……こういう理想的な動きの出来る軍隊は、奇策アドリブと正攻法を、その場に応じてちゃんと使い分けているんですよね。

 中までカッチカチな石ころを、殻のウッスい卵にぶつけちゃったら、割れますよね、ぐしゃっと。

 センソーするならそういう風に、相手の防備――あ、コレお城の塀の高さとか、相手の盾の硬さとか、そういうことだけじゃなくて、国や軍隊での人間関係や外交やら、そういう全体的な防御力のコトですけども――その卵の殻みたいに手薄なところ、つまり「虚」を、自分達のガチガチに強い攻撃――こっちも武器とか兵隊さんメンバーの強さだけじゃないですよ。作戦や政治力まで含めた国力ってことですね――その中心まで頑丈な「実」の力をぶつければ、ぐしゃっとイッちゃうって寸法ですよ。


 センソーって言うのは、まあ、敵サンと正面きって対峙しガンつけあってる状態なワケですけども、だからって、正面きって戦う必要は無いんじゃないですかね。
 勝つためには相手がこれっぽっちも考えつけないような奇をてらった作戦アドリブが必要なんじゃないですかね。

 奇策アドリブ上手な人は、行けども行けども果ての無い天地のように、干上がらずに水がドンドン流れてくる大河のように、次々に作戦を考えちゃう。
 もうネタ尽きちゃったかなーなんて思っても、お日様が沈んでもまた昇ってくるよーな、お月様が欠けていってもまたまん丸に満ちてくるよーな感じで、すーぐ新しいアイディアが出てきちゃう。
 あ、これそうとうスベってるぞって時でもすぐに復活出来るのは、冬が来て草木が枯れちゃっても、じきに春が来て芽が吹いて、夏にはガンガン育っちゃうし、秋には大収穫祭パーリーができちゃうのとの同じってす。

 これ、例え話になっちゃうんですけども。

 中華な音楽の音階は、きゅうしょうかく、の五段階で出来てます。これ五声っていって、ドレミで言うとド・レ・ミ・ソ・ラなんですけどね。
 この五つの音階しかないのに、音楽家コンポーザーさんはこれを組み合わせを変えて、いろんなフレーズを作っちゃう。
 おかげでオレ達はいろんな名曲が聴けちゃう。ありがたいことですねぇ。

 中華な色の基本色は、青・赤・黄・白・黒の五色……ああ青は緑のコトですね。四聖獣の青龍ってのは、緑色だったりするんですけども、まあそれは置いといて。
 ともかく、基本色は「CシアンMマゼンタYイエローKキー・プレートホワイト」の五色しかないのに、絵描きアーティスト・ペインターさんはこいつを組合わせたり混ぜたりりして、変幻自在の色使いをする。
 だから、オレ達は凄い名画をたくさん見られちゃう。素晴らしいっすよね。

 中華な味の基本は、カライスッパイショッパイアマイニガイの、これまた五つでこれが五味。
 この五つの味を料理人シェフさんはイロイロ組み合わせを変えて、いろんな味を生み出してくれる。
 そして、我々はそりゃもう美味しい料理をタラフク頂戴できちゃう、と。うれしいっすよね。

 ところで、戦い方には奇と正、つまり「アドリブ」と「台本通り」の二つしかありません。
 ええ、二つしか無いけど、だからって簡単てことじゃない。この二つをいろんな分量で組合わせて、変化させて行くと、できあがりにリミッターがなくなるんですねー。

 石を削って真ん中に穴を開けたまあるいバングル、ご存じでしょ? あれには丸い輪っかがぐるっとなってる訳で、端っこってものが存在しません。
 奇策と正攻法の組合わせもそういう物なんですよね。
 セオリー通りに進んでるときにちょっとイレギュラーな動きをするから、敵サンチームは対応出来なくなる。
 乱れてるところに今度はドカーンと正攻法でぶつかってみる。
 そうやって色々組合わせていると、敵サンチームはこっちがこのまま正攻法で来るのかアドリブが来るのか判らなくなって、もっと混乱しちゃうでしょーね。
 こういう、どこまで巡っても始めも終わりも順序もないゲンダイに、限度を見つけられる人がどこにいます? って話です。

 ところで、水がめっちゃ激しく速く流れると、石ころどころか岩だって、ドンブラこっこと漂わせちゃいますよね? いや、勢いがあるってゴイスーですよね。
 鷹とか鷲とかのもうきんるいちゃん達は、目にもとまらない速さスピードで舞い降りて、掴んだ獲物の骨を一気にポキッてやって仕留めちゃう。こういうタイミングバッチリ填まっちゃうのって、めっちゃ気持ちいいと思いませんか。

 突然何を言い出すのか、って思いました?
 オレが何を言いたいのかってーと、センソーの上手い人は、勢いをめてめてめ込んで、ここぞって瞬間の一瞬でぶっ放すンんだ、ってことです。

 オオユミってありますよね? あれ、めっちゃ張力が強いんで、つるをめいっぱい引くのにはちょいと時間とお手間がかかるんですけど、いざセットが出来ちゃえば、引金トリガーを引くのは一瞬。
 ちょっとのお手間と一瞬の動作で、めっちゃ強い矢が敵めがけてドバドバギューンと飛んでいって、敵を釘付け出来ちゃう、と。

 実際にドンパチおっ始めちゃうと、そりゃどうしたって紛紛紜紜わやくちゃジョータイになることだってありまさーね。でもそういうときだって取り乱して慌てちゃぁいけません。
 敵も味方も入り交じって渾渾沌沌ぐちゃぐちゃジョータイになったとしても、自分のチームにはちゃんと隊列を整えさせて、どこから攻められても対応出来るようにしておけば、負けることないですもん。

 混乱カオスっていうのは秩序コスモスから生まれるもンです。整ってるのが崩れるから混乱するんですよ。逆に混乱を整えれば秩序になります。
 怯えは勇敢さから生まれちゃいます。勇気がありすぎて無謀に突き進むと、大体怖い思いをしますからね。これも、怯えながらでも進んでいければ、逆に勇気が湧いてきちゃったりしますし。
 弱点は強さの中から生まれちゃうンです。ものすごく強い物でも、横っちょからちょいと突っついたら、案外ポッキリいっちゃったりしますよ。でも弱みに見えてた物が、使い方次第で強みになることだってあるんですよ。

 なんでも良い状態から悪い方に転ぶかも知れないし、悪い状態も持って行きようで好転出来るってコトです。善し悪しは表裏一体なんですよ

 重要なこと、言いますよ。
 チームが混乱するかビシッとまとまるかは、チームの編成で決められます。
 ガンガン行けるかビビりまくるかは、そのときの勢いが決めるんです。
 強みストロングポイント弱みウイークポイントかは、チームの態勢で決まっちゃいます。
 つまり、物事をイイ方向に持ってくのは、そのチームを率いている将軍リーダーのお仕事ってことですね。

 お仕事上手でアオり上手な将軍リーダーさんは、敵サンチームに向かって、わざと弱そうな、ビビりな、混乱した「フリ」をして見せつけちゃいます。

 すると、敵サンチームは、
「お、あいつら弱っちいンじゃね?」
 って勘違いしてくれて、ホイホイ誘い出されちゃう。

 そうやっておびき出しておいて、いかにもお得お得そうな「フリ」をけば、
「こりゃ取らなきゃ損するわ!」
 って勘違いして、ドッと食らいついてくれる。

 こうやって敵さんチームが「お得な情報」で釣り出されたその先では、自分達チームが準備万端ウエルカムで待ち構えているワケですね。んで、ガッポリ総取り頂きます、と。


 故に、善く戦う者は、之を勢に求め、人にもとめず。
 おっと。また名言が飛び出しちゃいましたよ、コレ。


 ちゅうワケで、センソーの上手い人は、勝ち負けを「全体の勢い」に求めちゃいます。部下や仲間の「個人的な力」に頼らないのは勿論モチのロンで、自分の「個人的な能力」だって当てしません。センソーは個人競技じゃないですもんね。
 確かに人材は選び抜きますけど、それは勢いに乗るための準備ですから。選び抜いた人材は、勢いのビッグウエイブを乗りこなせるように適材適所な配置をしちゃう。
 
 勢いの乗りこなし方が上手い将軍リーダーさんが、戦場ゲンバ兵隊メンバーさんを動かすってーところを見てると、コレ面白いですよー。
 まるで坂道の上から丸太や石ころを転がしてるみたいに見えますよ。

 丸太も石ころも、平らなところでは止まってますけど、急な坂に置くと動き出すますよね、ごろごろっと。ま、四角く切り出してあればウンともスンともビクとも動かないけれど、丸く加工してあればそりゃーもうゴロンゴロン転がっちゃう。

 つまり、兵隊メンバーさんたちがイイお仕事ができる「勢い」っていうのは、まん丸で頑丈な「石」をアルプスの山の上に持ってって、一気に転げ落としちゃう、そういう感じのヤツなんですよ。
――当然、あらかじめ転がる先の方に、ぶっ壊したい「卵」を引きずり出して、ちゃんとぶつかるように、お膳立てセッティングしとくんですけどもね。
 止まらない勢いを創り出して、且つ、制御コントロールする……難しいけど絶対必要なことですから、覚えといて下さいね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし

佐倉 蘭
歴史・時代
★第10回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ ある日、丑丸(うしまる)の父親が流行病でこの世を去った。 貧乏裏店(長屋)暮らしゆえ、家守(大家)のツケでなんとか弔いを終えたと思いきや…… 脱藩浪人だった父親が江戸に出てきてから知り合い夫婦(めおと)となった母親が、裏店の連中がなけなしの金を叩いて出し合った線香代(香典)をすべて持って夜逃げした。 齢八つにして丑丸はたった一人、無一文で残された—— ※「今宵は遣らずの雨」 「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

ヴィクトリアンメイドは夕陽に素肌を晒す

矢木羽研
歴史・時代
カメラが普及し始めたヴィクトリア朝のイギリスにて。 はじめて写真のモデルになるメイドが、主人の言葉で次第に脱がされていき…… メイドと主の織りなす官能の世界です。

熱砂の風

神光寺かをり
歴史・時代
荒涼とした砂漠の果てに赴く一人の若者。 その彼に昂然と矢を放つその弟。 兄の名は孟高。 弟の名は仲穎。 彼らの姓は「董」――。 三国志にその悪名を刻む男の、若き日を描く掌編。 この作品は作者Webサイト・小説家になろう・カクヨム・ノベルアップ+でも公開しています。

剣客居酒屋 草間の陰

松 勇
歴史・時代
酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜

佐倉 蘭
歴史・時代
★第9回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 「近頃、吉原にて次々と遊女の美髪を根元より切りたる『髪切り』現れり。狐か……はたまた、物の怪〈もののけ〉或いは、妖〈あやかし〉の仕業か——」 江戸の人々が行き交う天下の往来で、声高らかに触れ回る讀賣(瓦版)を、平生は鳶の火消しでありながら岡っ引きだった亡き祖父に憧れて、奉行所の「手先」の修行もしている与太は、我慢ならぬ顔で見ていた。 「是っ非とも、おいらがそいつの正体暴いてよ——お縄にしてやるぜ」 ※「今宵は遣らずの雨」 「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」に関連したお話でネタバレを含みます。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

鈍亀の軌跡

高鉢 健太
歴史・時代
日本の潜水艦の歴史を変えた軌跡をたどるお話。

処理中です...