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43 テオドリックの謝罪とエルミナの勘違い
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花が咲き乱れる小池の畔でピクニック。
なんてのどかな光景かしら。
だが、ここに顔を突き合わせているのは、婚約を破棄した者された者、そこに更に結婚を申し込む者、それに反対する者。
まさにカオスだ。
木陰と水辺を通ってきた風は、少し涼しくて気持ちがいい。
布シートにクッションが置かれて、快適空間が出来上がったが、皆の顔色は悪かった。
シートに向かい合ったテオドリック様はおどおどしながら頭を下げて来た。
「ルイーズ、ごめんなさい」
うう、垂れた耳とお腹に回されたしっぽが見えるわ。
「どうしても謝罪がしたくて、ビクトリアに機会を作ってくれるようお願いしてたんだ」
ああ駄目だ。テオドリック様が落ち込んでいる大型犬にしか見えない。
私の怒りも落ち着いたんだとわかる。
するともう、感覚は以前に戻ってしまう。
この王子はいつだって私の母性本能に突き刺さって来るのだ。
『ルイーズ、どうしよう?』
『ルイーズ、お願い』
婚約していた八年の間、そう言って何度も私に助けを求めて来たテオドリック様と、今目の前に居る婚約者ではなくなったテオドリック様に何も違いはない。
そう思って私はため息を吐いた。
「どうしてあんなことをしてしまったの? どうして最後の最後だけ、私に相談してくれなかったの?」
尋ねるとテオドリック様はシュンと耳を垂らして、胡坐をかいた足の間にはめ込んだ自分の拳をじっと見つめた。
少し考えてから言う。
「ルイーズが休暇に入った時にはもう、お母様とエルミナは本当の親子みたいに仲良しになっていたんだ。今思えば、国と家族に不満があるお母様と、母がいなくて国に裏切られたエルミナは、依存し合っていたんだと思う。」
いつになくしっとりとしたテオドリック様の声に、私は聞き入った。
「俺はその二人の依存関係に、いつの間にか巻き込まれちゃって。エルミナに自分の事は自分で考えるべきだって言われて、言われ続けているうちにそうかなって」
エルミナ様か~。
テオドリック様、エルミナ様好きだったもんね~。
男を見せたくなっちゃったか~。
「ピンポーン。はい、ぎもーん」
雰囲気をぶち壊すヴァレリー王子。
片手で膝を叩き、反対の手を上げている。
クイズじゃないんだから!
「はい、ヴァレリー、どうぞ」
ビクトリア様が司会進行を買って出た。
「エルミナが国に裏切られたって何の事? 聞き捨てならないんだけど」
えええ!?
何言ってるの、ヴァレリー王太子!
「エルミナはずっとヴァレリーの婚約者候補だったじゃないか! なのに、十八歳まで放置して他国の公女と婚約して、結果エルミナを捨てたのは王とヴァレリーだろ!?」
はい、ワンコが吠えています。
迫力の無いテオドリック様の抗議に、ヴァレリー王太子は「は~ん?」とお耳ホジホジ状態だ。
「エルミナっていつから私の婚約者候補だったの?」
ヴァレリー王太子の言葉に私たちは驚きを隠せない。
「えええ!? ヴァレリー、違うの?」
ビクトリア様はヴァレリー王太子に詰め寄る。
「そんな事、聞いた事ないな。私の婚約者候補はルルヴァル公女と、A国公女と、B国公女だったよ」
何とまあ、全ての前提が覆ってしまった!
「ちょ、じゃあ、エルミナがずっと婚約しなかったもの、社交界デビューでヴァレリーの未来の妻を気取っていたのも、その後あんたと婚約出来なくて行き遅れ令嬢になっちゃったのも、何のためよ!?」
身も蓋も無いビクトリア様の言い様に、エルミナ様への同情が湧く。
「うわ。聞くだけで悲惨だな」
他人事なヴァレリー王太子の言葉にビクトリア様が吠えた。
「これだから王家の人間はよう!!」
「だから、王家のせいにするのは聞き捨てならないって。こっちにしたら何の事だか解らないんだから」
ギャース、ギャースと、ヴァレリー王太子とビクトリア様の言い合いが始まる。
「エルミナ様はどう思ってらしたの?」
私はテオドリック様に聞く。
「エルミナは、ずっとヴァレリーの事が好きだったし、ずっと自分が婚約者になるんだって思ってたはずだよ。他国の公女が婚約者候補に挙がってるなんて聞いた事なかったし」
A国とB国の公女の件はテオドリック様もご存じなかった様だ。
私も知らなかった。
いや、興味が無かったので、エルミナ様の悲惨な状況すら知らなかったのだが。
「では、宰相、いえ、元宰相のバルリ侯が情報操作をなさってたのではないの?」
思い付きを呟くと、王太子とビクトリア様が静かになった。
「自分の娘を王妃に添えたくて、裏で画策してたのかな?」
ヴァレリー王太子が憶測を言う。
「エルミナを婚約者に出来なかったから、次はリリア様を通してルルヴァルの公女を標的にしたとか?」
ビクトリア様も言うが、お二人の会話は憶測に過ぎない。
だが、多分、事実に近いのだろう。
「きゅ~ん」
テオドリック様のお声がもう犬の鳴き声にしか聞こえないわ。
とにかく、私が休暇に入った時、テオドリック様には想像も出来ない状況が彼を襲っていたのだ。
「う~ん。やっぱり私に相談するべきでしたよ。テオドリック様」
なんてのどかな光景かしら。
だが、ここに顔を突き合わせているのは、婚約を破棄した者された者、そこに更に結婚を申し込む者、それに反対する者。
まさにカオスだ。
木陰と水辺を通ってきた風は、少し涼しくて気持ちがいい。
布シートにクッションが置かれて、快適空間が出来上がったが、皆の顔色は悪かった。
シートに向かい合ったテオドリック様はおどおどしながら頭を下げて来た。
「ルイーズ、ごめんなさい」
うう、垂れた耳とお腹に回されたしっぽが見えるわ。
「どうしても謝罪がしたくて、ビクトリアに機会を作ってくれるようお願いしてたんだ」
ああ駄目だ。テオドリック様が落ち込んでいる大型犬にしか見えない。
私の怒りも落ち着いたんだとわかる。
するともう、感覚は以前に戻ってしまう。
この王子はいつだって私の母性本能に突き刺さって来るのだ。
『ルイーズ、どうしよう?』
『ルイーズ、お願い』
婚約していた八年の間、そう言って何度も私に助けを求めて来たテオドリック様と、今目の前に居る婚約者ではなくなったテオドリック様に何も違いはない。
そう思って私はため息を吐いた。
「どうしてあんなことをしてしまったの? どうして最後の最後だけ、私に相談してくれなかったの?」
尋ねるとテオドリック様はシュンと耳を垂らして、胡坐をかいた足の間にはめ込んだ自分の拳をじっと見つめた。
少し考えてから言う。
「ルイーズが休暇に入った時にはもう、お母様とエルミナは本当の親子みたいに仲良しになっていたんだ。今思えば、国と家族に不満があるお母様と、母がいなくて国に裏切られたエルミナは、依存し合っていたんだと思う。」
いつになくしっとりとしたテオドリック様の声に、私は聞き入った。
「俺はその二人の依存関係に、いつの間にか巻き込まれちゃって。エルミナに自分の事は自分で考えるべきだって言われて、言われ続けているうちにそうかなって」
エルミナ様か~。
テオドリック様、エルミナ様好きだったもんね~。
男を見せたくなっちゃったか~。
「ピンポーン。はい、ぎもーん」
雰囲気をぶち壊すヴァレリー王子。
片手で膝を叩き、反対の手を上げている。
クイズじゃないんだから!
「はい、ヴァレリー、どうぞ」
ビクトリア様が司会進行を買って出た。
「エルミナが国に裏切られたって何の事? 聞き捨てならないんだけど」
えええ!?
何言ってるの、ヴァレリー王太子!
「エルミナはずっとヴァレリーの婚約者候補だったじゃないか! なのに、十八歳まで放置して他国の公女と婚約して、結果エルミナを捨てたのは王とヴァレリーだろ!?」
はい、ワンコが吠えています。
迫力の無いテオドリック様の抗議に、ヴァレリー王太子は「は~ん?」とお耳ホジホジ状態だ。
「エルミナっていつから私の婚約者候補だったの?」
ヴァレリー王太子の言葉に私たちは驚きを隠せない。
「えええ!? ヴァレリー、違うの?」
ビクトリア様はヴァレリー王太子に詰め寄る。
「そんな事、聞いた事ないな。私の婚約者候補はルルヴァル公女と、A国公女と、B国公女だったよ」
何とまあ、全ての前提が覆ってしまった!
「ちょ、じゃあ、エルミナがずっと婚約しなかったもの、社交界デビューでヴァレリーの未来の妻を気取っていたのも、その後あんたと婚約出来なくて行き遅れ令嬢になっちゃったのも、何のためよ!?」
身も蓋も無いビクトリア様の言い様に、エルミナ様への同情が湧く。
「うわ。聞くだけで悲惨だな」
他人事なヴァレリー王太子の言葉にビクトリア様が吠えた。
「これだから王家の人間はよう!!」
「だから、王家のせいにするのは聞き捨てならないって。こっちにしたら何の事だか解らないんだから」
ギャース、ギャースと、ヴァレリー王太子とビクトリア様の言い合いが始まる。
「エルミナ様はどう思ってらしたの?」
私はテオドリック様に聞く。
「エルミナは、ずっとヴァレリーの事が好きだったし、ずっと自分が婚約者になるんだって思ってたはずだよ。他国の公女が婚約者候補に挙がってるなんて聞いた事なかったし」
A国とB国の公女の件はテオドリック様もご存じなかった様だ。
私も知らなかった。
いや、興味が無かったので、エルミナ様の悲惨な状況すら知らなかったのだが。
「では、宰相、いえ、元宰相のバルリ侯が情報操作をなさってたのではないの?」
思い付きを呟くと、王太子とビクトリア様が静かになった。
「自分の娘を王妃に添えたくて、裏で画策してたのかな?」
ヴァレリー王太子が憶測を言う。
「エルミナを婚約者に出来なかったから、次はリリア様を通してルルヴァルの公女を標的にしたとか?」
ビクトリア様も言うが、お二人の会話は憶測に過ぎない。
だが、多分、事実に近いのだろう。
「きゅ~ん」
テオドリック様のお声がもう犬の鳴き声にしか聞こえないわ。
とにかく、私が休暇に入った時、テオドリック様には想像も出来ない状況が彼を襲っていたのだ。
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