「追放王子の冒険譚」

蛙鮫

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「極東の島」

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 航海と宴を終えて、アーケオとマシュロは船から降りた。おりた先にはそこには別世界が広がっていた。

「これがヤマト」
 アーケオは目の前に広がる光景に目を奪われていた。これまで行ってきた国とは全く空気感が違っていたからだ。

「ヤマトは陸続きではありませんからね。島国なので独立した文化がかなり根付いているんです」

「なるほど」
 木でできた建物や事前に知識で入れた着物という衣服。新鮮な感覚にアーケオは心を躍らせていた。

「アーケオ様! 朝ごはんに致しましょう。せっかくですし、この国の名物なんて如何でしょう? この国の魚料理は絶品らしいですよ」

「行ってみようか」
 アーケオは早速、マシュロが言っていた魚料理を食べに行った。

 暖簾をくぐって、招かれた席に座るとマシュロが早々と注文を始めた。しばらくすると薄く切られた魚の切り身が綺麗に並べられた。

 見た目は鮮やかだが、生魚を食べる習慣がなかったアーケオは少しばかり抵抗があった。

「いただきます」
 アーケオは箸を使ってゆっくりと口に運んだ。全身に電気が走るような感覚がした。

「美味しい!」

「おや、お坊ちゃん。生の魚は初めてかい?」
 板前の男性が白い歯を見せて、笑った。

「はい。生魚がこんなに美味しいなんて」

「ははは! 喜んでもらって何よりだ」

「絶品ですね」
 初めての生魚の味にアーケオは感激した。ここまで美味しいとは思いもしなかったのだ。

 朝食を済ませたアーケオは早速、サムライのいる場所に向かうことにした。

「サムライ。どんな人なんだろう?」

「非常に腕が立つらしいですね。何せヤマトは世界でも稀に見るローゼンを追い払った国ですから」
 ローゼン王国を追い払った最強の剣士達。アーケオは緊張と同時に興奮を抱いていた。

 しばらくするとサムライが鍛錬に励んでいると言われている道場の前に着いた。扉の向こうからは男達の叫び声が聞こえる。おそらく修行中なのだ。

「何かご用でしょうか?」
 扉付近にいた着物姿の中年女性がアーケオ達に尋ねてきた。

「私達。旅のもので侍の方々の剣術をぜひ間近でみたいなと思いまして」

「あー! 左様でございましたか! でしたらどうぞ中へ!」
 女性に招かれて、建物の中に入った。木でできた廊下を歩いていると広場が見えた。
  広場にはこの国特有の服装をした男達がいた。長い髪を後ろに束ねて、みんな一心に剣を振るっていた。

「彼らがこの国の剣士。サムライです」

「サムライ」
 アーケオは彼らの訓練を観察した。見事な剣さばきと足腰の動き方。もはや幻術と呼べるほど美しかった。
 
 その中でも一際、異彩を放っている男がいた。一本に結ばれた腰まで伸びた黒い長髪。炎のように赤い瞳。

 アーケオは直感で理解した。他の侍達より遥かに強い。男は目の前にある竹を鋭い目で見ていた。

「あの人は?」

「おお。あの人に着目するとは。あの人こそがこの国一番の剣豪。黒瀬鋭心《くろせえいしん》様です」
 黒瀬と呼ばれる男の抜刀の速さはまさに閃光。アーケオは竹から目を離さなかった。しかし、いつの間にか竹が二つに割れていたのだ。

「これが極東の剣豪」
 真剣が抜かれる時、彼の炎のように赤い剣が抜かれる。あまりの鮮やかに魅力すら感じた。

 すると修行を終えたのか、男達が剣を収めて、手ぬぐいで顔を吹き始めた。

「鋭心様」

「ああ、ご苦労。あの二人は?」

「客人の方々です。どうやら侍に興味があるそうで」

「そうか」
 女性が差し出した手ぬぐいを受け取って、アーケオの元に向かってきた。
「よくきたな。異邦の客人よ。私はだ」

「アーケオです」

「その従者。マシュロ・トーンでございます」
 鋭心が手を差し伸ばしてきたので、二人は握手を交わした。アーケオはその手の分厚さに驚いた。手から相当な鍛錬を積んできたことが理解できた。

「なぜ、サムライに興味が?」

「知り合いからサムライは剣術がすごく強いと聞いたので、稽古をつけてもらいにきました」

「そうか。ならばその知人の顔を立ててやるとしよう。少年。稽古をつけてやろう」

「本当ですか! ありがとうございます!」
 アーケオは喜んだ。これでまた一つ強くなれるからだ。

「今から使うのはこれだ」
 鋭心が近くに立てかけてあった木刀をアーケオに手渡した。

「まずは動きを見る。なら木刀で十分」
 
「分かりました」

「いつでもこい」
 アーケオは地面を強く踏み込んで、走った。息つく間もなく何度も木刀を打ち込んでいく。しかし、鋭心がこれを全て弾いた。

「隙だらけだ」
 鋭心が木刀を躱しながら、アーケオの腹部の近くで止めた。

「俺の勝ちだ」

「もう一回!」
 彼は再度、木刀を構えた。さらなる強さを手に入れるため、ここで倒れるわけにはいかないのだ。

「いくぞ」
 鋭心が素早く打ち込んできた。アーケオは必死に攻撃を防いでいく。しなやかな動きとそれからは想像もつかないほど強い一撃。

「僕だって負けない!」
 アーケオは鋭心の動きが緩やかになった隙をついて、攻め込んでいく。しかし、どれも弾かれてしまっている。

「まだまだ!」

「うぐっ!」
 鋭心の木刀がアーケオの手元を弾いた。アーケオの木刀は手元を離れて、近くの地面に落ちた。

「動きの基礎はできているな。しかし、他がまだ甘い」

「はい」
 基礎はマシュロから日常的に叩き込まれているため、問題ない自信がある。問題はそこに付随する技術がない事なのだ。

「よし、木刀はここまでだ」
 鋭心が木刀を置いて、腰に携えた刀を抜いた。

「真剣でいこうか」

「はい」
 アーケオも勇者の剣を持った。先ほどより重い空気がその場に流れた。
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