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「破面」
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刻々と町へと迫るヴリトラ。その頭上で隼人は迦楼羅と刃を交えていた。
刃と刃が激しく重なり、火花を散らしていく。迦楼羅の入神に達した剣術に全神経を集中させて、食らいつく。
時折、プチプチと筋肉の筋が切れそうな音が聞こえる。疲労という事もあるがいちばんの理由はきっと異能の影響だ。
修行で影焔の使用できる時間は長くなったものの、それでも相性が悪いという事実に変わりはないのだ。
「体が重いでしょう。適正率もない人間が長く使えるものではないのですよ。使用するのは控えた方が良いのでは?」
「ご忠告どうも!」
歯を食いしばり、神懸かった剣さばきに対応していく。しかし、迦楼羅の言う通り肉体が悲鳴をあげている。
すると空から緑色の光線が迦楼羅めがけて、飛んで来た。対策本部の幹部の一人、ザクロがヘリコプターから銃型の聖滅具を構えていたのだ。
「遠距離射撃で松阪隼人の援護をしろ! 今、あの現場で戦えるのは彼だけだ」
ザクロの指令通り、戦闘員達が次々と迦楼羅に引き金を引いていく。
無数の弾丸が迦楼羅めがけて、断続的に飛んでくる。すると迦楼羅が肩甲骨のあたりから翼のようなもの出して、防弾の態勢を取った。
隼人は迦楼羅の注意が援護射撃に向いた隙をついて、距離を詰めて、首めがけて刃を振るった。しかし、斬首寸前で食い止められる。
「中々、いい動きですね。ですが!」
隼人は殺気を感じ取り、後方に退避すると迦楼羅の無数の黒い羽根が豪雨のような勢いで辺りに飛散する。
ヘリコプターで援護射撃を行う班のところまで飛び、悲鳴が聞こえた。やがて着弾した機体の数々は炎に包まれて、次々と落下していった。
隼人は即座に飛んでくる羽根を黒炎で焼き払っていく。
「ぐっ!」
怒涛のような羽根の乱打に何度も体がガタガタと震える。かろうじて連射の嵐を逃れて、態勢を立て直した。
隼人は刃先を迦楼羅の足の甲に突き刺し、動きを止めた。
「ここで大人しくしてもらうぞ!」
「坊ちゃん! どきな!」
ザクロの言葉を合図に隼人は後方に退避した瞬間、周囲が緑色の光に照らされ始めた。
「消し飛びな。化け物」
ザクロが銃内に蓄積した膨大なV因子を迦楼羅にめがけて、発射したのだ。蛍光色の緑の光線が夜のとばりを照らして、怪物を焼きはらおうと勢いよく迫る。
爆風と立ち込める砂煙で辺りが見えなくなる。視界がだんだんと晴れていき、隼人の内心にも僅かな希望が生まれたが、すぐにそれは裏切られた。
迦楼羅がなんと先ほどいた場所から後ろの方に移動していたのだ。
剣を支えにバランスを取っているように見え、目を凝らすと迦楼羅が元いた足元には真っ赤な水溜りができていた。
「まさか、刺された方の足を切断したのか」
迦楼羅の切り落とした右足が見る見るうちに再生していき、失った長靴を作り出していた。
「くそっ!」
隼人は悔しさのあまり歯ぎしりをした。先ほどの連携は今までで最も討伐に近づいたからだ。
「なかなか良い連携でしたね。では私からも何かお返しをいたしましょう」
迦楼羅の刀身に黒い気のようなものがどんどん纏わり付いて行く。嫌な予感が隼人の脳裏をよぎる。彼の予想は的中していた。
「失せなさい」
剣を横に振った瞬間、先ほどとは比べものにならない程の膨大な数の黒い羽根を周囲に飛散させたのだ。
さらに飛ばされた羽根の中からまた二つに分裂されて、数を増大させていた。
羽根は次々と辺りに着弾していく。ザクロを乗せたヘリコプターはかろうじて、退避できたが辺りでは着弾した機体が墜落していた。
「まずい」
隼人は逃げようとした時、目の前に黒い壁のようなものが出て来た。
「大丈夫か! 隼人」
壁を出したのは鷹だった。自身も傷だらけなのにも関わらず、隼人を守ったのだ。
「ああ、助かった」
隼人の額から冷や汗が流れ落ちた。鷹が助けてくれなかったら蜂の巣になっていたと考えると背筋が凍った。
「それにまだ、あれだけ戦えるのかよ!」
「相変わらず手厳しいね。父さん」
「お前は腕が落ちたんじゃないのか? 鷹」
鷹がバツの悪そうな表情を浮かべる。
「隼人。影焔はまだ使えそう?」
「まだなんとかな。でも長引かせるのはまずいかもな」
「分かった」
すると鷹が小さな刃を作り出して、自分の手のひらを切った。そして、傷口から滴り出た赤い血を下火になっている隼人の刀身に注いだ。
「鷹! 何してんだ!」
「何って。君がやっていることと同じだよ。血を燃料に燃え上がらせているんだ」
すると途端に黒い炎が激しく音を鳴らして、燃え上がり始めた。同時に体の中が焼けるように熱くなっていく。
おそらく適正率の高い血と影焔が共鳴しているのだ。
「すげえ。今まで一番燃えている」
「いいかい。全力で駆け抜けてくれ」
「おう!」
隼人は鷹とともに走り出した。体がいつも以上に軽い。走っている際の体感速度がこれまでとは比較にならないものになっている。
凄まじい勢いで隼人と鷹は迦楼羅に剣を叩きつけた。心なしか、攻撃の勢いはこちらに優勢になっている。
「ほう。これはなかなか」
「影焔!」
「影ノ風上!」
隼人と鷹が生み出した黒炎と黒い竜巻が混じり合い、黒い炎が渦を巻き始めた。
迦楼羅へと向かっていく様子は漆黒の炎を纏った龍のようだ。
「ならこちらも! 影ノ風上!」
迦楼羅も巨大な黒い竜巻をこちらに打ち込んで来た。二つの竜巻が激しく衝突して凄まじい爆発が起きた。
「隼人! ここは僕が抑えている! 俺は今のうちに奴の方へ!」
「了解!」
爆風の中、隼人は素早い動きで迦楼羅の方に向かっていく。鷹だって今、耐えているのでやっとのはずだ。
荒れ狂う竜巻の外。迦楼羅の姿が見えた。隼人は全速力で接近した。
「しまった!」
鷹に意識を向けていたせいか、隼人には気づいていなかった。
「影焔!」
隼人は勢いよく燃え盛る刀身を振り下ろした。
「くっ!」
迦楼羅がすぐさま後方に引き下がった刃が仮面に当たった。
途端に周囲に吹き荒れていた竜巻が止んだ。それと同時に迦楼羅の仮面が割れた。
カランという乾いた音を立てて、落ちた鳥の仮面。その素顔を見て、彼は鳥肌が立った。
「あんたは」
隼人はその素顔に見覚えがあった。祖父の部屋の飾ってあった写真。
「こうして、面と向かって顔をあわせるのは初めてですね。シライの孫よ」
そこにいたのはかつて隼人の祖父である松阪シライと死線を共にした戦友。鳳鵙だった。
刃と刃が激しく重なり、火花を散らしていく。迦楼羅の入神に達した剣術に全神経を集中させて、食らいつく。
時折、プチプチと筋肉の筋が切れそうな音が聞こえる。疲労という事もあるがいちばんの理由はきっと異能の影響だ。
修行で影焔の使用できる時間は長くなったものの、それでも相性が悪いという事実に変わりはないのだ。
「体が重いでしょう。適正率もない人間が長く使えるものではないのですよ。使用するのは控えた方が良いのでは?」
「ご忠告どうも!」
歯を食いしばり、神懸かった剣さばきに対応していく。しかし、迦楼羅の言う通り肉体が悲鳴をあげている。
すると空から緑色の光線が迦楼羅めがけて、飛んで来た。対策本部の幹部の一人、ザクロがヘリコプターから銃型の聖滅具を構えていたのだ。
「遠距離射撃で松阪隼人の援護をしろ! 今、あの現場で戦えるのは彼だけだ」
ザクロの指令通り、戦闘員達が次々と迦楼羅に引き金を引いていく。
無数の弾丸が迦楼羅めがけて、断続的に飛んでくる。すると迦楼羅が肩甲骨のあたりから翼のようなもの出して、防弾の態勢を取った。
隼人は迦楼羅の注意が援護射撃に向いた隙をついて、距離を詰めて、首めがけて刃を振るった。しかし、斬首寸前で食い止められる。
「中々、いい動きですね。ですが!」
隼人は殺気を感じ取り、後方に退避すると迦楼羅の無数の黒い羽根が豪雨のような勢いで辺りに飛散する。
ヘリコプターで援護射撃を行う班のところまで飛び、悲鳴が聞こえた。やがて着弾した機体の数々は炎に包まれて、次々と落下していった。
隼人は即座に飛んでくる羽根を黒炎で焼き払っていく。
「ぐっ!」
怒涛のような羽根の乱打に何度も体がガタガタと震える。かろうじて連射の嵐を逃れて、態勢を立て直した。
隼人は刃先を迦楼羅の足の甲に突き刺し、動きを止めた。
「ここで大人しくしてもらうぞ!」
「坊ちゃん! どきな!」
ザクロの言葉を合図に隼人は後方に退避した瞬間、周囲が緑色の光に照らされ始めた。
「消し飛びな。化け物」
ザクロが銃内に蓄積した膨大なV因子を迦楼羅にめがけて、発射したのだ。蛍光色の緑の光線が夜のとばりを照らして、怪物を焼きはらおうと勢いよく迫る。
爆風と立ち込める砂煙で辺りが見えなくなる。視界がだんだんと晴れていき、隼人の内心にも僅かな希望が生まれたが、すぐにそれは裏切られた。
迦楼羅がなんと先ほどいた場所から後ろの方に移動していたのだ。
剣を支えにバランスを取っているように見え、目を凝らすと迦楼羅が元いた足元には真っ赤な水溜りができていた。
「まさか、刺された方の足を切断したのか」
迦楼羅の切り落とした右足が見る見るうちに再生していき、失った長靴を作り出していた。
「くそっ!」
隼人は悔しさのあまり歯ぎしりをした。先ほどの連携は今までで最も討伐に近づいたからだ。
「なかなか良い連携でしたね。では私からも何かお返しをいたしましょう」
迦楼羅の刀身に黒い気のようなものがどんどん纏わり付いて行く。嫌な予感が隼人の脳裏をよぎる。彼の予想は的中していた。
「失せなさい」
剣を横に振った瞬間、先ほどとは比べものにならない程の膨大な数の黒い羽根を周囲に飛散させたのだ。
さらに飛ばされた羽根の中からまた二つに分裂されて、数を増大させていた。
羽根は次々と辺りに着弾していく。ザクロを乗せたヘリコプターはかろうじて、退避できたが辺りでは着弾した機体が墜落していた。
「まずい」
隼人は逃げようとした時、目の前に黒い壁のようなものが出て来た。
「大丈夫か! 隼人」
壁を出したのは鷹だった。自身も傷だらけなのにも関わらず、隼人を守ったのだ。
「ああ、助かった」
隼人の額から冷や汗が流れ落ちた。鷹が助けてくれなかったら蜂の巣になっていたと考えると背筋が凍った。
「それにまだ、あれだけ戦えるのかよ!」
「相変わらず手厳しいね。父さん」
「お前は腕が落ちたんじゃないのか? 鷹」
鷹がバツの悪そうな表情を浮かべる。
「隼人。影焔はまだ使えそう?」
「まだなんとかな。でも長引かせるのはまずいかもな」
「分かった」
すると鷹が小さな刃を作り出して、自分の手のひらを切った。そして、傷口から滴り出た赤い血を下火になっている隼人の刀身に注いだ。
「鷹! 何してんだ!」
「何って。君がやっていることと同じだよ。血を燃料に燃え上がらせているんだ」
すると途端に黒い炎が激しく音を鳴らして、燃え上がり始めた。同時に体の中が焼けるように熱くなっていく。
おそらく適正率の高い血と影焔が共鳴しているのだ。
「すげえ。今まで一番燃えている」
「いいかい。全力で駆け抜けてくれ」
「おう!」
隼人は鷹とともに走り出した。体がいつも以上に軽い。走っている際の体感速度がこれまでとは比較にならないものになっている。
凄まじい勢いで隼人と鷹は迦楼羅に剣を叩きつけた。心なしか、攻撃の勢いはこちらに優勢になっている。
「ほう。これはなかなか」
「影焔!」
「影ノ風上!」
隼人と鷹が生み出した黒炎と黒い竜巻が混じり合い、黒い炎が渦を巻き始めた。
迦楼羅へと向かっていく様子は漆黒の炎を纏った龍のようだ。
「ならこちらも! 影ノ風上!」
迦楼羅も巨大な黒い竜巻をこちらに打ち込んで来た。二つの竜巻が激しく衝突して凄まじい爆発が起きた。
「隼人! ここは僕が抑えている! 俺は今のうちに奴の方へ!」
「了解!」
爆風の中、隼人は素早い動きで迦楼羅の方に向かっていく。鷹だって今、耐えているのでやっとのはずだ。
荒れ狂う竜巻の外。迦楼羅の姿が見えた。隼人は全速力で接近した。
「しまった!」
鷹に意識を向けていたせいか、隼人には気づいていなかった。
「影焔!」
隼人は勢いよく燃え盛る刀身を振り下ろした。
「くっ!」
迦楼羅がすぐさま後方に引き下がった刃が仮面に当たった。
途端に周囲に吹き荒れていた竜巻が止んだ。それと同時に迦楼羅の仮面が割れた。
カランという乾いた音を立てて、落ちた鳥の仮面。その素顔を見て、彼は鳥肌が立った。
「あんたは」
隼人はその素顔に見覚えがあった。祖父の部屋の飾ってあった写真。
「こうして、面と向かって顔をあわせるのは初めてですね。シライの孫よ」
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