「黒炎の隼」

蛙鮫

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「漆黒の羽ばたき」

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 月夜の下、宿敵が佇んでいた。禍々しいほどの殺気を肌に感じ、記憶の中に埋没していた恐怖が、一気に蘇った。

 隼人は重く深呼吸をして、体の震えを抑える。淵から湧き上がる闘争心で恐怖を押しつぶしたのだ。

「この先がヴリトラの脳だな?」

「ええ。ですが貴方達が辿り着く事は叶いません」

「そうかい。なら強引に突入するまでだな」
 隼人は眼前の敵を睨みつけながら、剣先を向けた。鳥籠の教祖、迦楼羅。今までの日々はこの男を討ち取るために捧げてきたようなものだ。

 積み重ねた努力。今、それを証明する時がきたのだ。

「うおおお!」
 隼人も闘争心で身を凍らせる様な緊張感を打ち消して、する。

 迦楼羅が刃先を地面に突き刺すと、息つく間のなく地面から複数の黒い柱の様な物が突き出る。

「あんたの戦い方は研究済みだ」
 前回の戦闘から学んだ隼人は瞬時に地中のV因子を感知し、身を翻してかわした。

 対策本部で録画されていた迦楼羅の映像を何度も見返し、動きを学習してきたのだ。

 相手が強者であれば、より動きに注意しなければならない。今の隼人は慎重さを身につけた。

「影焔!」
 瞬時に発火した灼熱の刃が迦楼羅の身に近づいていく。しかし、攻撃も虚しく何度も防がれた。一歩先を読まれている。そんな気分にもなっていた。

「どうしたんですか? 終わらせるのではなかったのですか?」

「言っていろ!」
 揺れ動くヴリトラの胴体。それに気を払いながら次々と攻撃していく。相手は最強の宿主。

 相手の微動すら命取りに繋がる。そう意識せざる得ない程、迦楼羅には威圧感があった。

氷結斬アイススラッシュ!」
 結巳が冷気を纏った剣を迦楼羅に振りかざしたものの、すぐさま躱されてしまった。

「あなたは聖堂寺のご令嬢」

「ええ。そうです。だから聖堂寺の血筋として聞きます。何故、鳥籠なんて組織を生み出したんですか?」

 結巳が冷徹な声で迦楼羅に問いかけた。対立したとはいえ、迦楼羅の血を引く鳳家の分家。手を取り合っていたはずなのに何故、裏切るに至ったのか知りたかったのだ。

 すると迦楼羅が肩を小刻みに揺らして笑い始めた。まるで彼女の質問を馬鹿にするような振る舞いだ。

「何がおかしいんですか?」

「本当に何も知らなかったんだなと思いましてね」
 迦楼羅が笑い終えると、重くため息をついた。

「鳥籠を創設したのは私の曽祖父です。曽祖父は七つの時から聖堂寺本家から命を受けては聖堂寺と敵対する人間を暗殺する日々を送っていました」
 迦楼羅がつらつらと流れるように言葉を並べ始めた。

「そんな曽祖父も愛する人に出会えました。聖堂寺家を離れて、誰も知らない場所と二人で暮らす。そんな些細な夢も聖堂寺は許しませんでした」

「聖堂寺の刺客は曽祖父の想い人を目の前で殺害した。それからは良く覚えていなかったそうです。ただ感情の向くままに一族を皆殺しにしたそうな」

「そして、各地に散らばった聖堂寺家の被害者達を集めて立ち上げたのが鳥籠です」

 隼人達が戦ってきた鳥籠の幹部。彼らの適正率が異様に高かったのはかつて聖堂寺が無理やり一族に引き入れた者達の末裔や親族だったのだ。

「ですが私の目的は曽祖父の思いを叶えることではない。勝ち負けなどどうでも良い。全てを終わらせることですよ。ヴリトラを使い、全てを破壊する。対策本部も我らも互いに憎しみあい、殺し合い、そして失い続けた。この不毛な争いに終止符を打つんですよ」

「だから兄さんと結託したんですね」

「ええ。だから失うばかりの世界を終わりにする!」
 黒い鳥仮面の奥から重厚感漂う声が響いた。そして、漆黒の狩人にこちらに向かって羽ばたいた。
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