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「臆病者」
しおりを挟む聖堂寺光が弓を光り輝く矢を何発も打ってきた。
「この閃光。ヘリを落としたのはこの技か」
「その通りです」
隼人と結巳とともに攻撃を躱してながら、反撃の隙を伺っていく。
「私が突破口を開くから、松阪君が兄さんを攻撃して!」
「了解」
結巳からの提案を承諾すると、隼人はすぐさま攻撃に備えた。
「氷壁!」
結巳が地面に剣を突き刺すと、氷の壁が生えるように出現した。氷の壁につき次と光の矢が突き刺さっていく。
結巳が攻撃を防いでいる隙に隼人が刀身で手のひらに傷をつけた。
「影焔!」
彼の血を吸った黒炎が凄まじい勢いで燃え上がり始めた。同時に体が熱くなり、軽くなる。
「はああああ!」
全速力で食らいつく隼人。しかし、それを予見していたように光が攻撃を躱した。
「甘いですよ」
「氷柱
結巳の言葉に反応するように地面から氷の針がいくつも飛び出してきた。光が氷柱をなぎ倒すのに意識を持って行かれている隙に距離を詰める。
「失せなさい! 結巳!」
光の放った閃光が結巳の左肩を捉えて、彼女が後方に吹き飛んだ。しかし、結巳に意識が向いたおかげで隼人は食らいつくことに成功した。
「はああああ!」
隼人の振り下ろした刃と光が上げた刀身が重なった。刃と刃。心と心がぶつかり火花を散らしている。
「中々、重い一撃ですね」
「ご所望なら、もっと強く出来るぞ」
刃をぶつけながら、軽口を叩く隼人。そして、その言葉に笑みを返す光。隼人はその作り笑いに憤りと虚しさを覚えた。
「失うものが何もない世界とか言っていたな」
「それが何ですか?」
「詭弁だろうが」
「詭弁?」
「あんたは他人との関わりを恐れたただの臆病者だ」
隼人の言葉を聞いて、光の表情が僅かに崩れた。
「臆病者はあなたもでしょう。松阪隼人。一六で幹部に比肩する強さを手に入れたあなただって他者との関わりを断つ事で手に入れた。そんなあなたが私を攻め立てる資格などありません!」
光が声を荒げながら、抵抗を続ける。失い続けた人間の断末魔のような叫びが周囲に轟いた。
「そうだ。俺は臆病者だ。失う怖さを知って、人との関わりをやめたあんたと同じ臆病者だ」
心に渦巻く感情を次々と吐き出して行く。自分の不甲斐なさ。弱さ。それをこの数ヶ月で身に沁みて、理解した。
「だからこそ! 臆病者に聖堂寺が大事にしているモノで溢れているこの世界を壊させるわけにはいかない! 何も奪わせない! 何も傷つけさせない!」
「松阪君」
後方でゆっくりと息を整える結巳が隼人の胸の内を聞いて、ほんのり涙を浮かべていた。
「ほざけ!」
隼人は何度も刃を交えた。剣を通して伝わる互いの感情。剣撃の強さから隼人は光の情念がどれほど強いか感じ取る事が出来た。
「失う怖さから逃げたあんたとは違って、こいつは逃げなかった! こいつはもうあんたなんかよりもよっぽど強いんだよ!」
隼人は口の端から血を流しながら、言葉を吐き出していく。それは彼女を側で見て来た彼だから言える事だ。
「影焔!」
隼人が怒号にも似た叫び声を上げると、それに反応するように黒炎が更に燃え盛った。
その瞬間、耐久力を超えたのか。光の聖滅具が音を立てて、真っ二つに割れたのだ。
そして、そのまま流れるように黒炎に包まれた刀身が光を切り裂いた。
「がああああああああ!」
光が叫び声を上げながら、後方に下がった。傷口を抑えながら、歯を食いしばっている。
未だに燃え続ける黒炎が光の傷口を焼いている。
「これしきの事で!」
「いや。終わりだ」
隼人は冷静に言葉を吐いた。何故なら光の背後で結巳が細剣を構えていたからだ。
隼人との激闘に気を取られて、気がつかなかったのだ。
「氷結斬
結巳が凍てつく刀身で実兄の背中を切りつけた。
「がはあああ!」
光の背中から氷の結晶が生えて、光が足元から地面に倒れた。背中から出ている氷が彼の血が染みて、赤く染まった。
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