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「目覚めし怪物」
しおりを挟む「なんだよ。これ」
隼人は目の前の光景に目を疑わずにはいられなかった。やっとの思いでたどり着いた町の外れ。
しかし、そこはまさに地獄だった。空を覆い隠さんとばかりに広がる黒煙。次々と担架で運ばれてくる負傷した隊員達。
戦闘員だけではない。自衛隊や警察も倒れている。
「ぐっ」
「いてえ。腕が」
いくつもの医療用テントが設けられており、そのどれからも苦悶に満ちた呻き声が聞こえる。
「惨すぎる。誰がこんな」
まさに地獄だった。この世のものとは思えない光景に隼人は呆然と立ち尽くした。
「これはなんだ」
「何が起こっているの?」
「隼人。庭島君! 結巳様!」
「じいちゃん!」
シライがこちらに駆け寄っている。
「良かった。無事で。それでそちらのお嬢さんは?」
シライが揚羽に目を向けた。揚羽がしばらく黙った後、ゆっくりと口を開いた。
「初めまして、白峰揚羽です! 二人の友達です!」
そこにいたのは教室で見た白峰揚羽。彼女そのものだった。
「ああ、よろしく!」
「ギャオオオオオオオ!」
突如、空気が振動するほどの咆哮が周囲に響き渡る。隼人は耳を押さえて、外部の音を遮断する。けたたましい雄叫びの後、声の主がその姿を下界の者達に現した。
「あれは何だ」
隼人はその姿を目にして戦慄した。天を摩するほど、巨大な体躯の怪物が跋扈《ばっこ》していたのだ。移動するだけで木々はなぎ倒されて、甚大な被害を及ぼしていた。
怪物がこの世界を踏み潰さんとばかりに暴れ回っている。
「巨大な蛇か?」
すると辺りの木々が色をなくして、枯渇していく。大蛇が口を縦に開けると、口内に禍々しい臙脂色の光の塊が煌めいていた。
「なっ! 奴の口元が光っている!」
やがて轟音とともにその光線は糸のように伸びていき、地面に直撃した。
凄まじい衝撃と爆音が周囲に伝わる。粉塵で視界を遮られて、爆風で飛ばされそうになりながらも隼人はなんとか付近の建物に身を隠して耐え凌いだ。
直撃した場所に向かうと、地面が抉れて酷い有様になっていた。
「あいつ、もしかして周囲の木々から養分を吸い取ってそのエネルギーで光線を放っているのか」
光線の威力に成立していると大蛇がゆっくりと街がある方角に進行していた。
「まさか。あいつ街に!」
「あんな巨大な体なら相当な量の餌が必要になるはず」
「おそらく町の住民を喰らうつもりだ。いや生き物は手当たり次第、食うだろうな」
隊員の一人がただならない様子で走ってきた。
「別働隊から連絡です! 大量の忌獣が街に向かっているとのことです! 数は
百、いや三百は向かっているとのことです!」
「まさか、あのデカブツがおびき寄せているのか」
「自衛隊、警察、消防署と提携して住民を郊外に避難をさせるんだ! アレを食い止めなければ、この国、いや世界が終わる可能性もある」
松阪シライの言葉で辺りに緊張感が一気に駆け巡る。それもそのはず。忌獣討伐に関する情報を知っているのは聖堂寺家と対策本部のみだ。
聖堂寺家が停止している今、動けるのは自分達だけだ。ここで怪物を討伐しなければ全てが手遅れになる。
突然、無線機で連絡が入った。連絡先はソラシノだった。
「完全に嵌められたな」
「北原くん」
「先生。街に向かっている忌獣は俺に任せてくれ。他の人間は市民の避難の援助や護衛に回して欲しい」
「本気なのか」
シライが僅かに声を低くして、彼の覚悟を問うた。この緊急事態だ。軽率な判断は許されない。
「ああ、この街は俺の娘がいる街だ。誰にも手出しさせない」
電話越しのソラシノの声から覚悟を感じ取ったのか、シライは了承した。
隼人達のいる町外れの建物。ソラシノは一人、聖滅具を握りしめて、透き通った星空に目を向けた。
すぐ近くには彼を殺そうと走ってくる忌獣の群れがいる。やることはいつもと同じ。
娘の平穏を脅かす存在を排除するだけだ。
「そこで見ていてくれ。恵那
彼は亡き妻の名前を口ずさんで、殺意剥き出しの忌獣の群れに飛び込んだ。
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