78 / 115
「脱出」
しおりを挟む
白い部屋の中、隼人は配給された食事を口にしながら、今後について考えていた。
ここに閉じ込められてから少なくとも数日は経過しているが、一向に脱出できる気配はない。
「どーすっかな」
食事が提供された際に襲うかかろうと考えていたが、小さな隙間から配給されるだけで、すぐに閉まってしまう。
彼にできることは気がまぎれるように体を動かして、気を紛らわせる事だけだった。
「誰かに連行される時に脱走くらいが定石かな」
ため息をついて天井を見上げていると、突然、部屋が赤くなった。それともに耳をつんざくようなアラームが鳴り響いた。
「なっ、なんだ!」
部屋の扉が開いた。帽子をかぶり職員の姿をした人物が立っていた。
「今度はなんのようですか?」
「わしだ。隼人」
「じいちゃん!?」
隼人は驚愕した。そこには自身の祖父である松阪シライが立っていたからだ。
「なっ、なんで。かっ、監視カメラに映るぞ」
「電源は切っている。話は後だ。これに着替えて逃げるぞ」
シライから職員の服装を渡されて、着替えた。閉じ込められた部屋から出て廊下を進んでいく。部屋と同じく無機質な白を強調とした建物だった。
辺りを見ながら、他の職員達を警戒する。廊下の隅で職員が何人も倒れていた。
「これは?」
「北原君だね」
「北原さんも来ているのか? 一体どういう」
「出口だ。いくぞ」
理解が追いつかない状況に困惑しながら、シライについていった。出口を出るとそこには一台のワゴンが止まっていた。
車内に入ると、運転席に座る庭島玉男。助手席に座る担任の星野奏。後部座席に座る聖堂寺結巳が目に入った。
「松阪君! 無事だったのね」
「聖堂寺。それに庭島さんに星野先生」
「久しぶりね。松阪君」
結巳達との再会を喜んでいると、出口から人影が見えた。北原ソラシノだ。
「元気そうだね。二人とも」
「助けに来てくれてありがとうございます」
「礼には及ばない。今の首長が嫌いなのは俺も同じだから」
「そんじゃあ。出発するぞ」
全員揃ったことを確認すると、庭島がアクセルを踏んだ。
「こんなして大丈夫なんですか? 兄さんに見つかったら」
「いや、首長は今、こっちに着手しているからそれどころではないだろう」
庭島が車に設置されたモニターからニュースを流した。
小さな画面にはマイクを持ったスーツ姿の記者達がギッシリと映っている。そして、彼らの視線の向こうには聖堂寺光の姿があった。
テロップにはこう書かれていた。『新首長。鳥籠の本部発見! 明日。百年の争いに終止符を打つか』
「聖堂寺首長。今回は鳥籠の本部を見つけたとのことですが、明日の作戦で壊滅出来る確証はありますでしょうか」
「ええ。この戦いのために様々な作戦を練って来ました。この作戦に心血を注ぎ、悲しみの歴史に終わりを告げます」
隼人は目を見開いた。首長は明日、鳥籠の本部を叩くつもりなのだ。光がカメラ越しに自身の胸の内を打ち明けている。
「光君がどうやら鳥籠の本部を見つけたようだ」
「近々、大規模な作戦を行う。それで鳥籠の戦いに終止符を打つらしいぞ」
「なんで。こんなにも堂々と記者会見をしているんだろう。敵に見つかっておかしくないはずだ。あちら側にも悟られて返り討ちにあう」
「そう。わし達も疑問に思っておった。何故、首長がここまで教団のアジトを見つけることができたのか。組織でもアジトを見つけるのは困難にも関わらず、単独でここで見つけられるものか? 一つの結論に至った」
その先の事はなんとなく隼人は理解出来た。結巳の目も察しがついているのか、伏し目がちになっている。
「聖堂寺光は鳥籠と繋がっている」
残酷な仮説が隼人の心を揺さぶる。その横では結巳が深く重い溜息をついていた。
「よく考えれば対策本部に帰ったきたタイミングといい、今回の戦果の数々。鳥籠と手を組んでいたと思えば色々と説明がつくんだ」
「仮に鳥籠と組んだとしたら、一体の何の条件があってそんな事を」
本来敵対する聖堂寺家の人間と鳥籠がマッチポンプを行なっている。百年に渡り、殺し合いを行なって来た両者が何かの理由で結びついているとすれば、それはとてつもなく大きな問題だ。
「聖堂寺家」
結巳が唐突に呟いた。
「もしかしたら聖堂寺について調べたら何か分かるかもしれません」
「首長は明日。作戦の為、本部を去る。その時に聖堂寺の本邸に向かってくれ」
「北原さんは?」
「俺と玉男は明日、作戦に駆り出されている。応じれるのは星野さんと松阪先生だけだ」
ソラシノの言葉に一同が無言で頷いた。明日の作戦。それらで全てがかかっている。
隼人にはそんな気がしてならなかった。
ここに閉じ込められてから少なくとも数日は経過しているが、一向に脱出できる気配はない。
「どーすっかな」
食事が提供された際に襲うかかろうと考えていたが、小さな隙間から配給されるだけで、すぐに閉まってしまう。
彼にできることは気がまぎれるように体を動かして、気を紛らわせる事だけだった。
「誰かに連行される時に脱走くらいが定石かな」
ため息をついて天井を見上げていると、突然、部屋が赤くなった。それともに耳をつんざくようなアラームが鳴り響いた。
「なっ、なんだ!」
部屋の扉が開いた。帽子をかぶり職員の姿をした人物が立っていた。
「今度はなんのようですか?」
「わしだ。隼人」
「じいちゃん!?」
隼人は驚愕した。そこには自身の祖父である松阪シライが立っていたからだ。
「なっ、なんで。かっ、監視カメラに映るぞ」
「電源は切っている。話は後だ。これに着替えて逃げるぞ」
シライから職員の服装を渡されて、着替えた。閉じ込められた部屋から出て廊下を進んでいく。部屋と同じく無機質な白を強調とした建物だった。
辺りを見ながら、他の職員達を警戒する。廊下の隅で職員が何人も倒れていた。
「これは?」
「北原君だね」
「北原さんも来ているのか? 一体どういう」
「出口だ。いくぞ」
理解が追いつかない状況に困惑しながら、シライについていった。出口を出るとそこには一台のワゴンが止まっていた。
車内に入ると、運転席に座る庭島玉男。助手席に座る担任の星野奏。後部座席に座る聖堂寺結巳が目に入った。
「松阪君! 無事だったのね」
「聖堂寺。それに庭島さんに星野先生」
「久しぶりね。松阪君」
結巳達との再会を喜んでいると、出口から人影が見えた。北原ソラシノだ。
「元気そうだね。二人とも」
「助けに来てくれてありがとうございます」
「礼には及ばない。今の首長が嫌いなのは俺も同じだから」
「そんじゃあ。出発するぞ」
全員揃ったことを確認すると、庭島がアクセルを踏んだ。
「こんなして大丈夫なんですか? 兄さんに見つかったら」
「いや、首長は今、こっちに着手しているからそれどころではないだろう」
庭島が車に設置されたモニターからニュースを流した。
小さな画面にはマイクを持ったスーツ姿の記者達がギッシリと映っている。そして、彼らの視線の向こうには聖堂寺光の姿があった。
テロップにはこう書かれていた。『新首長。鳥籠の本部発見! 明日。百年の争いに終止符を打つか』
「聖堂寺首長。今回は鳥籠の本部を見つけたとのことですが、明日の作戦で壊滅出来る確証はありますでしょうか」
「ええ。この戦いのために様々な作戦を練って来ました。この作戦に心血を注ぎ、悲しみの歴史に終わりを告げます」
隼人は目を見開いた。首長は明日、鳥籠の本部を叩くつもりなのだ。光がカメラ越しに自身の胸の内を打ち明けている。
「光君がどうやら鳥籠の本部を見つけたようだ」
「近々、大規模な作戦を行う。それで鳥籠の戦いに終止符を打つらしいぞ」
「なんで。こんなにも堂々と記者会見をしているんだろう。敵に見つかっておかしくないはずだ。あちら側にも悟られて返り討ちにあう」
「そう。わし達も疑問に思っておった。何故、首長がここまで教団のアジトを見つけることができたのか。組織でもアジトを見つけるのは困難にも関わらず、単独でここで見つけられるものか? 一つの結論に至った」
その先の事はなんとなく隼人は理解出来た。結巳の目も察しがついているのか、伏し目がちになっている。
「聖堂寺光は鳥籠と繋がっている」
残酷な仮説が隼人の心を揺さぶる。その横では結巳が深く重い溜息をついていた。
「よく考えれば対策本部に帰ったきたタイミングといい、今回の戦果の数々。鳥籠と手を組んでいたと思えば色々と説明がつくんだ」
「仮に鳥籠と組んだとしたら、一体の何の条件があってそんな事を」
本来敵対する聖堂寺家の人間と鳥籠がマッチポンプを行なっている。百年に渡り、殺し合いを行なって来た両者が何かの理由で結びついているとすれば、それはとてつもなく大きな問題だ。
「聖堂寺家」
結巳が唐突に呟いた。
「もしかしたら聖堂寺について調べたら何か分かるかもしれません」
「首長は明日。作戦の為、本部を去る。その時に聖堂寺の本邸に向かってくれ」
「北原さんは?」
「俺と玉男は明日、作戦に駆り出されている。応じれるのは星野さんと松阪先生だけだ」
ソラシノの言葉に一同が無言で頷いた。明日の作戦。それらで全てがかかっている。
隼人にはそんな気がしてならなかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
真訳・アレンシアの魔女 上巻 マールの旅
かずさ ともひろ
ファンタジー
アレンシアで、一人の少女が目を覚ます。
少女は人間にしては珍しい紅い髪と瞳を持ち、記憶を失っていた。
しかも十日間滞在した町を滅ぼし、外で五日間行動をともにした相手を不幸にする。
呪われた少女の名は、マール。
アレンシアで唯一、魔法を使う事ができる存在。
これは後に神として崇められる“魔女”の人生を綴った叙事詩である。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる