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「夏祭り」
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赤提灯が並ぶ境内。隼人は結巳とともに屋台を見ていた。老若男女。様々な人が行き交っている。
「やっぱり人多いな」
「そうね。なかなか賑わっているわね」
思った以上に人が多くて驚く隼人。祖父の元で修行していた六年間はろくに祭りや地域のイベントにも参加する事がなかった。
「せっかくだし、何か食べましょう」
「そうだな。りんご飴とかどう?」
「いいわね」
隼人は彼女とともに近くの屋台でりんご飴を購入した。甘いあじに舌鼓を覚えながら、ふらふらと歩いていく。
「お父さん!」
「あひゃあ!」
突然、知らない幼女が結巳の足に抱きついた。その際に彼女の口から普段の様子から想像がつかないほど、情けない声が出た。
「なんだ。今の潰れたカエルみたい声」
「えっ、お、お父さん!」
「あっ、あれ? 違う」
幼女が狼狽えた様子で結巳の方を見ている。
「おーい風香」
「あっ、お父さん!」
少女が声のする方に向かっていった。目で追っていくと南国風のシャツを着た北原ソラシノがいた。
「この人だかりで離れたら危ないよ」
「ごめんなさい」
少女が申し訳なさそうな顔をすると、ソラシノは優しく頭を撫でていた。
「おや。こんばんは」
「どうも、北原さん。祭りに来ていたんですね」
「ああ、娘が連れていって欲しいといってな」
彼の足元に小さな少女がしがみ付きながら、結巳の方をじっと見ている。
「私なんかしちゃいました?」
「いや、照れているんじゃないのかな? ほら挨拶して」
「こ、こんにちは」
風香が俯きながら、小さく首を下げた。隼人は笑みを浮かべて反応した。
どこか浮世離れした北原ソラシノも娘の前ではそこらにいる優しい父親になっていた。
終始、ソラシノの娘の風香は結巳の事を覗き込むような目で見ていた。
北原親子と別れた後、隼人と結巳は境内の方に向かっていた。
「ん? あれは?」
「催しみたいね」
祭りの境内の近くの舞台で催し物が行われていた。背中に鳥の紋章のような物が描かれた白装束を身に纏い、錫杖を持つ男性。
すると奥の方から黒い布で作られた蛇を模った舞台道具が出てきた。男と蛇を囲むように白装束をきた複数の男女が座り、琴や笛を奏で始める。
男と蛇の舞いが激しさを増すとともに音楽が激しくなっていく。
「なんだ。これ?」
「あれ? 知らない? この舞いのルーツになった昔話」
「昔話?」
「昔、この土地には巨大な蛇がいて、山に降りては村人を食い漁っていた。そこに旅の青年が蛇を封印したっていう。いわば英雄伝ね」
「それ以来、ずっとここで祀っているのか?」
「ええ」
隼人はこの街に住んでいたが、神社にそんな言い伝えがあったなんて知らなかった。
すると急に大きな音とともに周囲が明るくなった。視線を逸らすと夜空に眼を見張るほど大きな花火が咲いていたのだ。
いつもの色で何種類もの輝きを放ち、人々を魅了する。まさしく夏の風物詩だ。
「花火か」
「きれいだな」
六年間背負っていた荷が少し軽くなった気がした。結巳のおかげだ。彼女に打ち明け、親身に聞いてくれた。
「聖堂寺。ありがとうな」
「ええ。こちらこそ話してくれたありがとう」
今日のことは絶対に忘れない。隼人は固く胸に誓った。
「やっぱり人多いな」
「そうね。なかなか賑わっているわね」
思った以上に人が多くて驚く隼人。祖父の元で修行していた六年間はろくに祭りや地域のイベントにも参加する事がなかった。
「せっかくだし、何か食べましょう」
「そうだな。りんご飴とかどう?」
「いいわね」
隼人は彼女とともに近くの屋台でりんご飴を購入した。甘いあじに舌鼓を覚えながら、ふらふらと歩いていく。
「お父さん!」
「あひゃあ!」
突然、知らない幼女が結巳の足に抱きついた。その際に彼女の口から普段の様子から想像がつかないほど、情けない声が出た。
「なんだ。今の潰れたカエルみたい声」
「えっ、お、お父さん!」
「あっ、あれ? 違う」
幼女が狼狽えた様子で結巳の方を見ている。
「おーい風香」
「あっ、お父さん!」
少女が声のする方に向かっていった。目で追っていくと南国風のシャツを着た北原ソラシノがいた。
「この人だかりで離れたら危ないよ」
「ごめんなさい」
少女が申し訳なさそうな顔をすると、ソラシノは優しく頭を撫でていた。
「おや。こんばんは」
「どうも、北原さん。祭りに来ていたんですね」
「ああ、娘が連れていって欲しいといってな」
彼の足元に小さな少女がしがみ付きながら、結巳の方をじっと見ている。
「私なんかしちゃいました?」
「いや、照れているんじゃないのかな? ほら挨拶して」
「こ、こんにちは」
風香が俯きながら、小さく首を下げた。隼人は笑みを浮かべて反応した。
どこか浮世離れした北原ソラシノも娘の前ではそこらにいる優しい父親になっていた。
終始、ソラシノの娘の風香は結巳の事を覗き込むような目で見ていた。
北原親子と別れた後、隼人と結巳は境内の方に向かっていた。
「ん? あれは?」
「催しみたいね」
祭りの境内の近くの舞台で催し物が行われていた。背中に鳥の紋章のような物が描かれた白装束を身に纏い、錫杖を持つ男性。
すると奥の方から黒い布で作られた蛇を模った舞台道具が出てきた。男と蛇を囲むように白装束をきた複数の男女が座り、琴や笛を奏で始める。
男と蛇の舞いが激しさを増すとともに音楽が激しくなっていく。
「なんだ。これ?」
「あれ? 知らない? この舞いのルーツになった昔話」
「昔話?」
「昔、この土地には巨大な蛇がいて、山に降りては村人を食い漁っていた。そこに旅の青年が蛇を封印したっていう。いわば英雄伝ね」
「それ以来、ずっとここで祀っているのか?」
「ええ」
隼人はこの街に住んでいたが、神社にそんな言い伝えがあったなんて知らなかった。
すると急に大きな音とともに周囲が明るくなった。視線を逸らすと夜空に眼を見張るほど大きな花火が咲いていたのだ。
いつもの色で何種類もの輝きを放ち、人々を魅了する。まさしく夏の風物詩だ。
「花火か」
「きれいだな」
六年間背負っていた荷が少し軽くなった気がした。結巳のおかげだ。彼女に打ち明け、親身に聞いてくれた。
「聖堂寺。ありがとうな」
「ええ。こちらこそ話してくれたありがとう」
今日のことは絶対に忘れない。隼人は固く胸に誓った。
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