「黒炎の隼」

蛙鮫

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「特別授業」

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 ハンプティ・ダンプティ壊滅後、隼人と結巳は特別に三日間の休暇を取るように言われた。

 幹部との激闘は尋常ではないくらい、体が堪えたので彼にとっては非常にありがたかった。

 隼人は宿舎の布団の上で静かに天井を眺めていた。鎌鼬の事を思い出していたのだ。

「すげー強かった」
 初めて戦った鳥籠の幹部。隼人自身、実力の高い事自体は頭の片隅に置いいていいたが予想をはるかに上回っていた。

「あんな強い奴が後、何人もいるのか」
 鳥籠壊滅の夢が僅かに遠のいた気がした。幹部一人を倒すのに多大な負傷を負ったのだ。

 そして、鎌鼬を倒した後、自分達の窮地を救ってくれた男を思い出していたのだ。

「北原ソラシノ」
 脳裏に焼き付いた彼の圧倒的な強さ。今の自分では手も足も出ないと思わせるほどの実力が伺えた。



 隼人は三日ぶりに学園の校舎に足を運んだ。教室の扉の前まで来たやけに騒がしい事に気がついた。

 気にせず教室の扉を開けた。生徒達は結巳の席を取り囲むようにして立っており一斉にこちらに目を向けてきた。

 教室は静かになり、隼人はいつも通り席に着いた。しかし、何かが違った。殺意や嫉妬などの負の感情を感じないのだ。

 すると一人の男子生徒が駆け寄ってきた。

「なあ、聖堂寺さんと幹部の人と一緒に鳥籠の幹部倒したって本当か?」

「ああ、それがなんだ?」

 隼人は僅かに警戒しながら、答えると男子生徒の目が輝いた。

「お前らすげえよ!」

「やっぱ本当だったんだ!」

 男子生徒の言葉に反応して、他の生徒達も騒ぎ始めた。

「幹部倒したんだろ!? うちの父さん。職員だから耳に入ったんだよ」
 十六歳の青年と聖堂寺の令嬢が鳥籠の幹部を倒した。対策本部と学園内ではその話題で持ちきりだったのだ。

「まっ、まあな」
 隼人は迫ってきた無数の同級生に動揺を隠せずにいた。結巳の方に目を向けると彼女も同様に狼狽えているように見える。

「ねえ。松阪くん。よかったらなんだけど剣術教えてもらえない? 私も松阪くんと同じ近距離型なんだ」

「えー私もー」

「すまない。人に教えられるほど器用じゃないんだ」
 嘘だ。結巳を相手にしていたので指南する事は造作もない。ただ面倒なのだ。

 突然、視界の端から威圧感を覚えた。視線を向けると結巳が怪訝そうな表情を浮かべていた。

 しばらくすると担任の星野奏が入室していた。すると一斉に隼人や結巳の周りにいた生徒達が着席していく。

「えー。みなさん。おはようございます。本日は特別講師を連れてきました。ではどうぞ」
 静かに教室の扉が開いた。入室してきた人間を見て、隼人は鳥肌が立ち上がった。

「初めまして。本日、特別講師として来ました。北原ソラシノです。よろしく」

「あの人が北原ソラシノ」

「嘘だろ」

「本物かよ」
 特別講師の自己紹介とともに教室から黄色い声や驚愕の声が上がった。

 対策本部の戦闘員やそれを目指す者なら誰もが憧れる人物。その本人が今、目の前にいるのだ。

「あの時の」
 隼人は彼に救われて以来、気になり彼についての情報を頭に入れていた。

 北原ソラシノ。忌獣対策本部最強の戦闘員。僅か十四歳で対策本部に特例で入り、初陣で忌獣五十体以上を討伐。

 六年前の『鳥籠』との抗争では幹部数名を単独で討伐し、さらには首領である迦楼羅《かるら》を瀕死寸前まで追い詰めるなどの功績を挙げた。

「本日は北原戦闘員直々に訓練を指導してもらいます。みなさん心してかかるように」

「はい!」
 その場にいた生徒達が一斉に返事をした。訓練場に移動したのちソラシノによる指導が始まった。

 刀剣、細剣型などの近距離型の聖滅具の扱い方や弓や銃などの遠距離型など様々な事を彼から学んだ。

「じゃあ、そこの三人。聖滅具を起動させて僕にかかって来てくれ」
 ソラシノが男子生徒三人を指名し、自分にかかってくるように指示を出した。

「容赦しませんよ?」

「ああ、本気でかかってくるといい」

「いくぞ! 二人とも!」
 男子生徒の声に二人が反応するとともに走り出した。一方、ソラシノは何一つ持っていない。

「何をするつもりだ」
 隼人はソラシノの様子に目を見張る。男子生徒が勢いよく、攻撃を仕掛けた。
 ソラシノはいとも容易く三人の攻撃を交わしていく。まるで見切っているような動作だ。

「さて。そろそろ仕留めに入るか」
 ソラシノが一人の攻撃をかわした瞬間、男子生徒を足払いした。そして、襲いかかる二人も一人目と同じく地面に倒してしまった。

「三人とも。お疲れ。悪くなかったよ」
 ソラシノが朗らかな笑みを作った。隼人は鳥肌が立った。三人がかりの攻撃を息も切らさず、交わす体力と制圧のタイミングを読む判断力。

 そして、相手を制圧するその速さ。隼人が今まで見て来た人間達を遥かに上回っている。

「さて、次の人は?」

「俺です」
 隼人は緊張感を胸に重い足取りでソラシノの前に立った。

「君はあの時の」
 ソラシノが隼人を思い出したような素振りを見せた。

「松阪隼人です。よろしくお願いします」

「鳥籠の幹部を打ち取った実力。見せてもらおう」
 ソラシノが鋭い眼光を隼人に向けて来た。隼人も負けじとソラシノを睨みつけて、闘志を燃やした。
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