「黒炎の隼」

蛙鮫

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「光と炎」

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 試合当日。隼人はいつも通り鍛錬に励んでいた。しかし、内心は凄まじい緊張感を抱いている。

 『学園最強』と言われた早見沙耶との試合に備えているからだ。負ければ生徒会入学。一人の時間を重んじる彼からすれば由々しき事態だ。

 そのことを考えるだけで木剣を振るう腕がいつもより加速し始める。
「必ず勝つ!」
 隼人は朝食の時間帯までひたすら木剣を振り続けた。



 放課後、闘技場の待機室にて瞑想をしていた。試合の緊張感を少しでも紛らわすためだ。瞑想をしていると心に安らぎが訪れて、自然と心が落ち着いていく。

「松阪さん出番です」
 呼び声がかかると隼人はゆっくりと立ち上がり、聖滅具を手に取った。


 会場に足を運ぶと隼人はあることに気づいた。観客が野次を飛ばしていない。おそらく隼人の実力が認められてきているのだ。

 しかし、隼人にとってそんな事はどうでもいい事である。今、彼の目を引くのは目の前の少女である。

「今日はよろしくね」

「はい」

「それでは試合開始!」
 審判の合図とともに試合が開始された。隼人は聖滅具を展開するとともに一気に警戒心を高めた。

 早見の聖滅具は隼人と同じ日本刀型の聖滅具だった。

閃光フラッシュ!」
 早見がいきなり、異能を使って真っ先に突っ込んできた。しかし、速度は唐突に対処できるものではなかった。
「ぐっ!」
 隼人はなんとか攻撃を防いでいるが、攻撃の隙を生み出せない。

「げりゃああ!」
 隼人はなんとか早見を切り離して、自分から攻め込んだ。凄まじい金属音と火花が飛び散る。

 両者激しく拮抗し合っている。隼人も攻撃しつついつのタイミングで異能を発動しようか迷っていた。

「異能は使わないのか? 出し惜しみしていたら負けてしまうぞ?」

「過分な心遣いどうも。でもここぞって時に出すのが必殺技ですよ? 先輩」

「ならケリをつけさせてもらうぞ!」
 早見が後ろに下がり、距離を置くと急に構えを取り始めた。隼人は警戒心を高めるとともに攻撃に備えた。

「貫け!憤怒レイジ閃光フラッシュ!」
 彼女が剣先を上に掲げると光が集まっていく。隼人の背筋に冷たい汗が流れる。

 本能的に今から繰り出される一撃は危険だと判断したのだ。


「影焔!」
 隼人は黒炎を生み出して、刀身を縦にした状態で後ろに下がった。彼女の攻撃を少しでも緩和するためだ。

「はあああ!」
 その瞬間、目にも止まらない速さで早見の剣先が彼に向かってきた。

「ぐっ! 重い!」
 凄まじい速度と威力。隼人は耐えきれず、後方まで吹き飛んだ。

「痛ってえな」
 隼人はすぐさま態勢を立て直して、燃え盛る刀身を構えた。異能なしで戦うのはこれ以上無理だ。しかし、使うという事は試合できる時間も限られてくるという事だ。

「黒い炎。いつ見ても不可思議だな」

「俺もたまに思いますよ!」
 隼人は異能の影響で軽くなった四肢を存分に使い、距離を詰めていく。紅蓮の刃を早見に叩き込んでいくたびに彼女の表情に焦りが見える。

「すげえ」

「なんだ。あの二人」

「化け物じゃねえか」

 観客席から驚愕したような声が漂っている。

「閃光!」
 早見が再び、異能を使って凄まじい勢いで切り込んできた。相変わらず速いが異能によって身体能力が上がった隼人は先ほどより楽に躱すことができた。

「はあ!」
 隼人と早見の刀身が再び、激しく火花を散らして重なる。闘志と闘志がぶつかり合い、二人の気迫が闘技場を支配していた。

「くっ。やっぱり強いな。出し惜しみしてられねえ!」
 隼人は早見が距離を置いた瞬間、自分の手のひらを傷つけて刀身に垂らした。黒炎が油を得たように激しく燃え上がった。それとともに柄を伝って体が熱くなっていく。

「いくぞ!」
 隼人は先ほどとは比にならない速度で早見に斬りかかった。彼の体力はもう限界に近づいていた。

 一刻も早く決着をつけなければ敗北は免れない。

「さっきより早い!」

「絶対勝つ!」
 意地でも勝利する。隼人の中にあるのはこれだけだった。

「私も負けない! 一人の剣士として!」
 隼人の攻撃に抗うように早見も次々と攻撃を叩き込んでいく。二人の叫び声と金属音が鳴り響いた。

 その時、刀身に触れる感覚が軽くなった。早見の聖滅具が折れたのだ。隼人は静かに剣先を早見に向けた。


「負けたよ。松阪隼人くん」
 彼女の宣言と同時に会場が沸いた。周囲は一気に歓声と拍手に包まれた。

「良かったぞ。松阪!」

「会長もお疲れ様でした!」

 辺りから隼人達を賞賛する声が聞こえた。

「本気で強かったですよ。先輩」
 隼人は彼女に手を差し伸べた。早見がゆっくりと立ち上がり、疲労感漂う笑みを浮かべた。隼人自身、後半はかなり追い詰められていた。

 時間稼ぎでもされていた場合、こちらの体力がなくなり、持久戦で敗北していた可能性があったのだ。


 試合を終えて、疲れた足取りでゆっくりと待機室に戻る。

「さすが学園最強の称号は伊達じゃないな」
 疲労で重くなった体をなんとか動かしていると結巳が腕を組んで立っていた。

「お疲れさま」
 目の前に結巳が腕を組んで立っていた。

「見ていたのか」

「まさか学園最強に勝つなんてね」

「かなりきつかったけどな」
 隼人は軽く笑みを浮かべた。その途端、結巳が二重になり始めた。視界が定まらなくなってきたのだ。

「ちょっと、松阪君? 大丈夫?」

「ああ、もんだ」
 続きを言おうとした時、隼人の視界は一気に真っ黒になった。
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