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「友達」
しおりを挟む「何してんの?」
松阪隼人は動揺していた。屋上で一人、昼食を取ろうとした時、結巳がいたからだ。
しかし驚いたのはそれではなかった。昼食の数が異様なのだ。弁当に敷き詰められた大量のおにぎり。卵焼き。唐揚げ。野菜。
「この量。全部食ってんのか?」
「しっ、仕方ないでしょう! 訓練で聖滅具を使うと異様にお腹が減るのよ!」
結巳が頰を赤らめながら、握り飯を口に放り込んだ。
「なんでここで食ってんだよ。クラスメイトとかと食えばいいだろう」
「私は由緒ただしき聖堂寺家の人間。大食らいなんてはしたない真似、できるわけないじゃない!」
「あっそう」
隼人は結巳の鋼のような堅苦しさに若干、引きながらも自身も昼食を取り始めた。
隼人の昼食はささみ肉と野菜サラダ、ゆで卵三つ、プロテインという何とも質素なものだった。
「昼食の量が少ないわね。午後は訓練なのにそんな量でもつの?」
「訓練の前はあまり食事を摂らないようにしている。腹に物を入れすぎると血が内臓に流れるから、集中力が落ちる」
「なるほどね、肉体的訓練だけではないと」
「そういう事」
飢えは生物の潜在能力を引き出す上で重要な要素。祖父が特訓する際に何度も、言っていた言葉だ。
「でもさ。聖堂寺当主として職員の上に立つってんなら下々の連中と飯食って信頼でも作った方がいいんじゃないのか?」
「淑女としての品位が崩れるのよ!」
「いや淑女って自分で言うか?」
隼人は自称淑女の言い分に首をかしげた。
「そんなに難しい事じゃないと思うぞ。俺とは違って支持されているんだからよ。友達の一人や二人いるだろ?」
「っ、ないのよ」
「えっ?」
「だから! 友達なんて出来た事ないのよ!」
周囲に響き渡る勢いで叫び声をあげた。
「お前。親しい人間も作らずに当主やら上に立つとか言っていたのか?」
「そっ、そうよ! 当主になればそこにあるのは上下関係。友人のような平等な関係ではないわよ! そう言うあなたはいるの? 友達。まあ、あなたのような一匹狼タイプには無縁でしょうね!」
動揺しているのか、結巳が素っ頓狂な声を上げながら、隼人を上から軽口をたたいきてきた。
「ああ、いたよ」
「えっ?」
「俺の事はいい。人間関係を構築する上で大切なのは対等に接する事だと俺は思うぞ」
「対等」
隼人の言葉に結巳が考えるような素ぶりを見せた。今まで同年代の人間と友好関係を結んできていなかった証拠だろう。
「上下関係に囚われているとこの前の赤間みたいな自分の地位を利用して他者を見下す人間が生まれる。上下関係にあるのは尊敬ではなく崇拝や恐怖だ」
「崇拝と恐怖。それは良くないわね」
「まあ、俺の意見だけどな」
隼人は食事を胃の中に詰め込むと、屋上から踵を返した。
夜。隼人は眉間に皺を寄せていた。自主トレーニングを終えた後に見知らぬ電話番号から連絡がかかってきたからだ。恐る恐る携帯に手を取り、着信に応じた。
「もしもし」
「遅いわよ」
「なんで俺の電話番号知っているんだよ」
「特待生の書類に明記してあった」
「見たのかよ」
「昼間に言っていた対人関係についての更なる情報を得たかったの。手段は選ばないわ」
電話の相手は聖堂寺結巳だった。どうやら昼間に言った言葉についてあれから考え込んでいたらしい。
「明日。クラスの女の子達と昼ごはんを食べてみようと思うんだけど、どうかしら?」
「いいと思うぞ。まずは軽めの一歩から。トレーニングと同じだ」
「そうね。やってみるわ。ありがとう」
「おう」
隼人は電話を終えると、布団に潜った。
「そういえば、同年代の奴と電話するのって初めてだったな」
昼間。大勢のクラスメイトが学食に向かう中、隼人はいつも通り校内の騒音を避けるために昼食を持って部屋を出ようと準備していた。
ふと視界を逸らすと結巳が女生徒三人組を方に向かっていた。
「あっ、あのあなた達良かったらご飯食べない?」
結巳が女生徒達に向かって声をかけた。人生初の友人との食事。相談を受けた身としては気になるところだ。
「いいよ! いいよ!」
三つ編みの少女が子犬のようにはしゃぎながら、結巳をそばに座らせた。
「聖堂寺さんとお昼って少し緊張するよね」
「うん。ちょっと近寄りがたいイメージだったから」
「そうだったの。ごめんなさいね」
結巳が軽い会話を済ましていると弁当箱に手をかけた。ここが関門だ。山盛りのおかずが入った巨大弁当。女生徒達にどう受け取られるのか。
「どっ、どう。私のお弁当」
「えっ! 聖堂寺さん! 食いしん坊なんだ!」
「凄い。クールな人だからサラダ一つだけとかだと思ってた!」
「なんか大食いクールキャラっていいよね」
「いや、さすがにそれは保たないわ。大食いクールってなによ」
女生徒達は好印象だったようだ。
結巳が同級生のとぼけた質問に呆れながらも笑みを浮かべていた。隼人は横目で一瞥した後、静かに教室を後にした。
自分の口角が上がっている事に気付いていなかった。
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