「黒炎の隼」

蛙鮫

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「烈火の踊り場」

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 衆人観衆の中、隼人は聖滅具を生み出すと赤間との間合いを図った。
紅蓮レッド殺矢アロー
 赤間が弓型の聖滅具を展開して、炎の矢を飛ばして来た。隼人は交わして地面に刺さった瞬間、いきなり爆発した。

 とっさは距離を取って、爆破に巻き込まれずに済んだ。

「起爆性があるのか」

「その通り、言うなら矢の形をした爆弾とでも思えばいいさ」
 赤間が余裕に満ちた笑みを浮かべる。

「どーする? 降参する?」

「いいや。刀を抜いたら降参しないと決めているんだよ」
 隼人は息を整えて、赤間の動きに目を向ける。一度の射撃で一本。少なくとも複数ではない分、攻撃自体は交わしやすい。

「同じ炎の使い手。だけど適正率に関してはこちらが上だ!」
 赤間がそう言って、優越感に浸るような笑みを浮かべた。それとともに放たれる無数の矢。

 一つ一つと交わしていき、接近の機会を伺っていく。

「なんだよ。逃げてばっかかよ」

「やっぱりこの前、聖堂寺に勝ったのまぐれだったんだよ」

「適正率最下位が調子に乗るからこうなるんだ」
 観客からは心ない言葉がちらほらと聞こえ始めた。

「馬鹿っているのね。彼の実力のどこを見て、まぐれと思えるのよ」
 結巳が隼人に罵詈雑言を浴びせる生徒達に呆れていた。彼女自身、負けず嫌いだがそれとは別に彼の実力の高さは身にしみて、理解している。

 近距離型の遠距離は非常に厄介だ。

「君の攻撃パターンは完全に近距離型。そして、適正率が低い以上、長時間は使えない。故に僕とのタイプは最悪」

「ああ、知っている」
 隼人は聖滅具を構えながら、思考を巡らして行く。影焔を使うとしても持久戦に持ち込まれては敗北する可能性がある。

「この手を使うか」
 隼人は鋭い切れ味の刀身に左手で握ると、激情に任せて勢いよく、引いた。
「えっ!」

「何? 自傷行為?」

 周囲の見物客達が騒ぎ出した。

「違う。あれは」
 隼人の手から真っ赤な血が流れて刃を伝った。その瞬間、いつも以上の勢いで黒い炎が轟々と燃え上がった。

「自分の血で火力を上げたのか!」

「そうだ。少し手荒だけどな。あんたをすぐさま片付けるならこれが手っ取り早い」

「ほざくな!」
 隼人の言葉に赤間が激昂しながら、何度も火の矢を放ってくる。しかし、今の隼人には全てが遅く見えた。

「なっ! 火力だけじゃなくて動きの速度が上がっている!」

「ああ、血を与えることでさらに引き上げる事が出来るんだ」
 隼人の言葉を聞いた時、赤間の顔が徐々に青ざめていく。どこかで自分の敗北を悟ったのだ。

「あんた。確かに強いな。でも結巳の方が遥かに強いぞ」

「生意気なんだよ! 最低値のくせに!」
 声を荒げた赤間がさらに何発も矢を打ち込んできた。しかし、いくら打ち込んでも隼人にとってあくびが出るほど遅く見える。

「僕は赤間家の時期当主だ! こんなところで負けるわけにはいかない!」
 赤間が先ほどまで見せていた余裕の表情を崩しながら、声を荒げる。

「悪いけどあんたの技は見切ったよ」
 隼人は額から血を流しながら、赤間を捉えた。赤間に殺意を飛ばした。彼の刀身から黒炎が更に轟音を立てながら、燃え上がる。

「覚悟しろ」

「ひっ!」
 赤間の顔が明らかに恐怖で顔が滲んでいる。その目はまるで捕食者に狙われる哀れな小動物そのものだ。

 隼人は自身から距離を離そうとする赤間を追跡して行く。必ず狩る。彼の中にあるのはその思考だけだった。

「うわああああ!」
 赤間が何度も無造作に炎の矢を放ってきた。隼人はいともたやすく回避して、一気に接近する。
 
「もう逃がさん」
 まるで獲物の狩りに行く隼のように赤間に迫って行く。

「わっ、悪かった! やめてくれえええええ!」
 絶叫する赤間の眼中の前に刃を突き立てた。あと数センチ近づけば失明は免れない。

「あっ、あ」
 端正な顔立ちが見るに堪えない程、崩壊していた。

「しょ、勝者。松阪隼人」
 審判の高らかな宣言で会場が活気に沸いた。

 隼人は地面にへたり込んでいる赤間を一瞥すると、踵を返して待機室に足を向けた。

 待機室に向かう途中、急に視界が朧げになった。

「なっ。くそ。やっぱり安易に使うもんじゃないな。はは」
 隼人は乾いた笑い声を上げながら、廊下に腰を下ろした。短時間の仕様だったから結巳との対決の時のように鼻血は出なかったが、それでも倦怠感は感じていた。

「ひどい顔色よ」
 聞き覚えのある声が聞こえて、眼を向けるとそこには結巳がいた。声だけ聞いてみると冷静だが心配そうな表情を浮かべている。

「ああ、問題ねえ。こんな経験は何度もある」

「そう。なら良かったわ」
 結巳が少し安堵したような様子を見せると、隼人の横に座った。

「赤間くんに勝てたわね。まあなんとなく分かっていたけど」

「あの爆破攻撃はかなり厄介だったけどな」
 ため息をつきながら、試合中の苦労を思い出した隼人。近距離型の自分にとっては遠距離型の異能とは明らかに愛想が悪い。

 だからこそそれを補えるほどの速度で動く、もしくは攻撃を与える隙もなく相手を倒せる強さが必要なのだ。

「俺行くわ」

「何故一人で行くの。私も行くわよ」
 少し顔色が良くなった隼人は隣でため息をつく結巳とともに学園へと向かった。

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