「黒炎の隼」

蛙鮫

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「宿主」

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 月夜の中、隼人は五感を研ぎ澄ませながら、戦闘員達と暗闇の森を進んでいた。いつどこから敵が現れるか分からない。

 風で揺れる草木の音と皆の息遣いのみが聞こえる闇の中。隼人は周囲を警戒しつつも内心、闘争心がメラメラと湧いていた。

 忌獣を討伐した事で火がついたのだ。もっとたくさん殺してやりたい。彼の中にあるのはそれだけだ。

 しばらく進んでいると月明かりに照らされた古びた建物があった。建物の倒壊はしておらず、壁の塗料が雨風で剥がれているぐらいである。

 そして、その周りには忌獣が彷徨いている。

「偵察隊の情報によれば、この廃墟が奴らのアジトらしい」

「俺を含めたA班は真正面から敵と交戦。B班はアジトに侵入して、敵を制圧してくれ」

「はい」
 庭島の命令に隼人と結巳は頷いた。隼人は結巳と残りの戦闘員達と共にアジトへと向かっていく。

 数秒後、銃声音とともに忌獣の雄叫びが森の中に響いた。

「早くいくぞ!」
 隼人は結巳達とともにアジトに乗り込んだ。建物の中は閑散としており、いかにも廃墟らしい空気感が漂っていた。

「先人は俺達が見る。お前ら特待生は後方を警戒してくれ」

「了解しました」
 戦闘員の指示に従い、隼人と結巳は後方に武器を構えて、警戒心を強めた。外では絶えず、忌獣の鳴き声と銃声が聞こえる。

 静かな空気が漂うアジトの廊下を進みながら、隼人は現状について考えを巡らせていた。

「何か妙だ」

「何が」

「静かすぎる。ここまで忌獣がいるなら、森だけじゃなくて施設内にも忍び込ませていてもいいはずだ。ここまで来て忌獣が一体も出ない」
 一つの拠点とはいえ、裏から侵入されても誰も来ない。警備があまりにも脆弱するのだ。

「つまり、うまくいきすぎている気がするって事」

「ああ」
 単に警備を外側に集中させているだけなのか。もしくは別の存在に任せているのか。

「はは。もし忌獣以外で任せられるとしたらそ」
 戦闘員が何かを言い切ろうとした時、言葉が途切れた。彼の腹部を見ると細い布のようなものが貫いていたのだ。

 布は廊下の奥から伸びており、何かがこちらに向かってくるのを隼人は感じた。

「がはっ!」
 不意に布が抜けて戦闘員が吐血した後、地面に倒れた。他の戦闘員が彼の解放をする中、隼人は暗闇に意識を集中させる。

 殺人犯の正体が明らかになった。全身に包帯を巻いた人間がいたのだ。

 目と鼻以外を布で包んでいるが、ところどころ露出した逞しい筋肉から彼が男だと理解できた。

 包帯の男が隼人の姿をじっと見ると、ケラケラと笑い始めた。

「ふん、見た感じ新入りっぽいな」

「ああ。あんた如き、新入りで十分なんでな」
 隼人は相手を挑発するように軽口を叩いた。しかし、隼人はかすかに感じていた。相手から伝わる言葉にしようのない違和感。



「減らず口はそこまでだ!」
 包帯の男が先ほどと同じく包帯を突き出してきた。隼人は聖滅具で裁き切りながら、前進していく。

「なっ! このガキ早い!」

「はあ!」
 隼人は刀身を叩き付けようとした時、男が何重にも重ねた包帯に防がれた。しかし、勢いが勝ったのか僅かに相手の胸元を斬りつけた。

「いてええ!」
 男が大げさに叫び声を上げる。しかし、それと同時に先ほど斬りつけた胸元部分に外傷がじわじわと再生していく。

「さっきの傷が癒えていく! まさか宿主!」
 結巳が驚愕したような様子で口にした。隼人はその呼称を祖父から聞いた事があった。忌獣の血液や細胞を宿した人間が『鳥籠』には大勢いて、それらが『宿主ホスト』と呼ばれているのだ。

「その通り! 忌獣の細胞が体に適合した事により俺は人間を超越した。偉大なる迦楼羅かるら様に忠義を尽くすためにな!」
 男が舌で前歯を舐めながら、悪意に満ちた笑みを浮かべた。

「松阪くん! そいつを殺さないで! 本部で情報を吐き出させるために必要だ!」

「そんなことさせるかよ!お前ら!」
 男が空に向かって叫ぶと、近くの森が激しく揺れた。忌獣がこの建物に近づいてきているのだ。

「グギャアアアアアアアアア!」

「ブオオオオオオオオ!」
 結巳が辺りに注意すると、森から姿を現した二体の怪物がアジトの窓を突き破り、彼女の前に現れた。

「ここは私が相手をするわ! あなたはその包帯の男を!」

「了解!」
 隼人は包帯の男に刀身を向けた。この争いを終わらせるために。
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