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7・抵抗(ラック視点)
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「なっ…生贄だと!?ロゼが!?」
リュソーの報告を聞いて俺は驚愕した。
生贄!?
俺の可憐なロゼが!?
しかも、神に求められたからには速やかに捧げる慣習で、明日には生贄の儀式は行われる予定だという。
そんな事は絶対にさせない…そうだ!
「スルス…スルスを探せ!そしてスルスを生贄に捧げよう!」
「…探す、とは…」
リュソーが怪訝な顔をする。
「探せばすぐに見つかるだろう。リュソー、お前は聖女探索が得意だっただろう。その力ですぐにスルスを探せ!」
神官の特殊魔法・聖女探索。
聖女しか探せない代わりに、どんなに離れた場所にいる聖女でも見つけられる便利な魔法だ。
しかし、俺の素晴らしいアイデアをリュソーは一蹴した。
「できません」
「で、出来ないとはなんだ!命令だぞ!」
「スルス様はもう聖女ではないので、僕には探せません」
「あ…」
そうだ、聖女探索で探せるのは聖女のみ。
ロゼに力を渡し、聖女ではなくなったスルスは、もう聖女探索で見つけられない。
「で、では魔導士!魔導士の探索魔法で―」
「ラック王子、あの日の誓いをお忘れですか?」
「え?誓い?」
何の事だ?
「王子とロゼ殿が、聖女の座を譲れとスルス様に迫った日。
王子はもう聖女に関する事でワガママを言わないと誓いました。ロゼ殿も、スルス様以上に聖女の務めを果たすと誓いました。そうですよね?」
「うっ…そ、そうだが…だが、あんな誓いなんて―」
「誓いなんて…?」
リュソーの優しい面立ちの顔がいきなり険しくなった。
「今、何とおっしゃいましたか…?」
「いや…」
「あの日、神に誓いましたよね?」
「確かに誓ったが…」
「僕達、神官達との約束を破るだけならともかく、神への誓いを破る人間は、王族でも許しませんよ」
まずい。
神官・リュソー。
優秀な神官職を多数輩出している名門の出だけあって、人一倍信心深い。
そして、神を冒涜する人間は絶対に許さない。
上位貴族の息子が悪ふざけで守護神像を破損させた時なんて、そいつの腕の骨を叩き折ったことすらある奴だ。
勿論、破壊した息子の親は訴えたが、リュソーもリュソーの親族達も『守護神像を壊したお前たちの息子が悪い』という姿勢を崩さず、結局リュソーが勝訴した。
一族全員、神に関することで怒らせたら、何をするか分からない。
ここはリュソーに合わせておいた方が良い。
「そ、その通りだな、リュソー。悪かった…。
現在の正当な聖女であるロゼがいるのに、他の娘を代わりにするなんて、どうかしていた…」
リュソーはまだ俺を探るような目つきで見ていたが
「では、報告も済みましたので失礼します」
と、退出していった。
リュソーが去り、ホッとする。
だが、まだ諦めたわけではない。
俺は急いで城のお抱え魔導士の元を訪ねた。
しかし
「見つかりません」
「な、なぜだ?お前は国内で最も優れた魔導士ではないのか?」
「確かに、私は国内屈指の魔導士と呼ばれております。
その私に見つけられないという事は―国内はおろか、隣国にすらいません。
もっと離れた場所にいます。
もしもスルス様が聖女のままだったなら、どんなに離れていても神官の聖女探索で探せたでしょうがね」
「そんな…」
神官もダメ、魔導士もダメ。
残る手段は―
「父上!」
―バァン!
俺は父の執務室に飛び込んだ。
「…何だ、騒々しい」
正直、厳格な父の事は少し怖いが、今回ばかりはそうもいっていられない。
俺は父に頼み込んだ。
愛しいロゼが生贄にされそうなこと。
だから、なんとかスルスを探し出して、ロゼの代わりに神に捧げるので、それまで生贄の儀式を延期してほしい事。
「…」
父は黙って立ち上がり、俺に歩み寄り―
―バシッ!
俺の頬を張り飛ばした。
「何を考えているのだ、お前は」
「な、何を、って―」
「好みの少女と結婚したいから、と聖女を追い出し、その少女が生贄にされそうになったら、元の聖女を呼び戻し、代わりに生贄にする。聖女を、王族の婚姻を、何だと思っているのだ」
「で、でも―」
―バンッ!
再び頬を叩かれる。
結局、父を説得することは叶わず、執務室から追い出された。
そして良い考えも浮かばぬまま、一睡もできず夜が明けてしまった。
父が恐ろしくて、リュソーも怖くて、自分の無力さが情けなくて、ベットの中で身を潜めている事しかできない。
俺の寝室の窓の向こうから、少女の叫び声が聞こえた気がした。
リュソーの報告を聞いて俺は驚愕した。
生贄!?
俺の可憐なロゼが!?
しかも、神に求められたからには速やかに捧げる慣習で、明日には生贄の儀式は行われる予定だという。
そんな事は絶対にさせない…そうだ!
「スルス…スルスを探せ!そしてスルスを生贄に捧げよう!」
「…探す、とは…」
リュソーが怪訝な顔をする。
「探せばすぐに見つかるだろう。リュソー、お前は聖女探索が得意だっただろう。その力ですぐにスルスを探せ!」
神官の特殊魔法・聖女探索。
聖女しか探せない代わりに、どんなに離れた場所にいる聖女でも見つけられる便利な魔法だ。
しかし、俺の素晴らしいアイデアをリュソーは一蹴した。
「できません」
「で、出来ないとはなんだ!命令だぞ!」
「スルス様はもう聖女ではないので、僕には探せません」
「あ…」
そうだ、聖女探索で探せるのは聖女のみ。
ロゼに力を渡し、聖女ではなくなったスルスは、もう聖女探索で見つけられない。
「で、では魔導士!魔導士の探索魔法で―」
「ラック王子、あの日の誓いをお忘れですか?」
「え?誓い?」
何の事だ?
「王子とロゼ殿が、聖女の座を譲れとスルス様に迫った日。
王子はもう聖女に関する事でワガママを言わないと誓いました。ロゼ殿も、スルス様以上に聖女の務めを果たすと誓いました。そうですよね?」
「うっ…そ、そうだが…だが、あんな誓いなんて―」
「誓いなんて…?」
リュソーの優しい面立ちの顔がいきなり険しくなった。
「今、何とおっしゃいましたか…?」
「いや…」
「あの日、神に誓いましたよね?」
「確かに誓ったが…」
「僕達、神官達との約束を破るだけならともかく、神への誓いを破る人間は、王族でも許しませんよ」
まずい。
神官・リュソー。
優秀な神官職を多数輩出している名門の出だけあって、人一倍信心深い。
そして、神を冒涜する人間は絶対に許さない。
上位貴族の息子が悪ふざけで守護神像を破損させた時なんて、そいつの腕の骨を叩き折ったことすらある奴だ。
勿論、破壊した息子の親は訴えたが、リュソーもリュソーの親族達も『守護神像を壊したお前たちの息子が悪い』という姿勢を崩さず、結局リュソーが勝訴した。
一族全員、神に関することで怒らせたら、何をするか分からない。
ここはリュソーに合わせておいた方が良い。
「そ、その通りだな、リュソー。悪かった…。
現在の正当な聖女であるロゼがいるのに、他の娘を代わりにするなんて、どうかしていた…」
リュソーはまだ俺を探るような目つきで見ていたが
「では、報告も済みましたので失礼します」
と、退出していった。
リュソーが去り、ホッとする。
だが、まだ諦めたわけではない。
俺は急いで城のお抱え魔導士の元を訪ねた。
しかし
「見つかりません」
「な、なぜだ?お前は国内で最も優れた魔導士ではないのか?」
「確かに、私は国内屈指の魔導士と呼ばれております。
その私に見つけられないという事は―国内はおろか、隣国にすらいません。
もっと離れた場所にいます。
もしもスルス様が聖女のままだったなら、どんなに離れていても神官の聖女探索で探せたでしょうがね」
「そんな…」
神官もダメ、魔導士もダメ。
残る手段は―
「父上!」
―バァン!
俺は父の執務室に飛び込んだ。
「…何だ、騒々しい」
正直、厳格な父の事は少し怖いが、今回ばかりはそうもいっていられない。
俺は父に頼み込んだ。
愛しいロゼが生贄にされそうなこと。
だから、なんとかスルスを探し出して、ロゼの代わりに神に捧げるので、それまで生贄の儀式を延期してほしい事。
「…」
父は黙って立ち上がり、俺に歩み寄り―
―バシッ!
俺の頬を張り飛ばした。
「何を考えているのだ、お前は」
「な、何を、って―」
「好みの少女と結婚したいから、と聖女を追い出し、その少女が生贄にされそうになったら、元の聖女を呼び戻し、代わりに生贄にする。聖女を、王族の婚姻を、何だと思っているのだ」
「で、でも―」
―バンッ!
再び頬を叩かれる。
結局、父を説得することは叶わず、執務室から追い出された。
そして良い考えも浮かばぬまま、一睡もできず夜が明けてしまった。
父が恐ろしくて、リュソーも怖くて、自分の無力さが情けなくて、ベットの中で身を潜めている事しかできない。
俺の寝室の窓の向こうから、少女の叫び声が聞こえた気がした。
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