聖女の座を取り返した結果

ハツカ

文字の大きさ
上 下
5 / 8

5・異変(ロゼ視点)

しおりを挟む
聖女の座を取り返して3日。
「聖女の務めとは、魔王が目覚めた際は打倒、封印の為に力を尽くし―」
私は神官から聖女の務めの座学をマンツーマンで受けていた。
しかし、神官の話より頭を占めているのはあの偽聖女・スルスの事。
「他国との争いが起こった際も、我が国の勝利を祈り、傷付いた兵士たちの治療を行い―」
私は初め、スルスが偽りの聖女である事を暴き、城、いいえ、国から追放するつもりだった。
でも、観察していてもスルスに怪しい所は見つからず、普通に成果を出していた。
「平時も、モンスターを寄せ付けぬバリアを張り、病人や怪我人を癒し―」
そう、神官が言っている通り、バリアもヒールも普通に行えていた。
偽聖女のはずなのに。
虐められている、と言いふらしてやろうかとも思ったけど、そんな訴えがもみ消されるのは簡単に想像がついた。
だって、スルスはすでに成果を出している聖女で、私はあくまで聖女の適性があるだけの新顔だったんだから。
「そして、我が国の守護神、及び、それに準ずる神獣の求めがあれば、生贄となり―」
かといって、モタモタしていたら、聖女の座に座り続けたいスルスに危険視され、命を狙われるかもしれない。
なので、作戦を変更した。
それは、王子の恋人になる事。
平民出の娘なんて、聖女にでもならない限り王子と一緒にはなれない。
だったら、王子が私を熱望するようにすれば、王子が私の為に聖女の座をもぎ取ってくれる。
「聖女の中には、神と意思疎通できるものが現れることもあり―」
そしてあの日。
王子と私がスルスに聖女の座を譲るように迫った日。
本当は、スルスが私に力を渡す訳が、渡せる訳が無いと思っていた。
だってスルスは偽聖女。
渡せる力をそもそも持っていないと思っていた。
私が王子と一緒に彼女に迫ったのは、追い詰められたスルスがボロを出すなり、私にビンタでもしてくるかと思っていたから。
スルスが何かドジを踏むまで、何日でも、何回でも迫ってやろうと思っていた。
でも―。
スルスは私に力を渡した。渡せた。
あの日、確かにスルスから私に聖女の力は譲渡され、私の手のアザは濃くなった。
…どういう事?
私に聖女の力を譲渡できたという事は、スルスは偽聖女ではなかったという事。
スルスが本物の聖女なら、なぜ彼女はゲームにいなかったの?
そして、スルスが本物の聖女なら、私は何?
私だって本物の聖女―のはず。
その証拠に、私は聖女の力でバリアもヒールもちゃんとできている。
神官達も、私の聖女の務めの成果に問題は無いと言っている。
どういう事なの?
「時間ですな。今日はここまでにしましょう」
ほとんど聞いてなかった座学の時間が終わった。

聖女の座を取り返して1週間。
「ロゼ殿、祈りの祠には行っていますか?」
「え?」
治療用の聖水に力を注ぐ務めを終えた私に、リュソーが尋ねた。
祈りの祠。
何か特別な儀式の時でない限り、聖女以外は足を踏み入れてはならない、聖域。
最も神と接近できる場所で、聖女はこの祠で神に祈りを捧げなければならない。
そういえば、場所は案内されたけど、まだ中に入って祈ってない。
ゲームにも出てきた場所だけど、シナリオには関係無いし、座学やらお務めやら挨拶やらで忙しくて。
「あ、そういえば、ここ数日行けてないです。今日にでも行こうと思っていました」
私は申し訳なさそうに返答した。
でも、リュソーは不満そうな表情だ。
おそらく、『神に祈る』という仕事を蔑ろにした事が不快なのだろう。
ゲームでもリュソーは攻略しない限りは神様が何より大切なキャラ。
そんな彼が、神よりヒロインを、聖女ではなく1人の少女として愛するようになる―というのが、リュソールートのシナリオだ。
せっかくだからタイミングを見て、リュソールートを遊んでみても―
「場所が分からないようでしたらお連れしましょうか?」
楽しい計画を妄想していたけれど、リュソーの硬い声色で現実に引き戻される。
攻略キャラの中で最も可愛いはずの顔が少し怖い。
『数日も行けてないなら今すぐに行け』と言われてる気がして
「場所は分かるので今すぐ行ってきます…」
と、私はそそくさと部屋を出て祠に向かった。
なによ!
リュソールートを攻略するのは止めよ!
聖女として実績を積んで強い権力を手に入れたら、今度はリュソーを追い出してやる!

お城のすぐそばの森の中に、祈りの祠はある。
勿論、この祠も、そしてこの森も城の敷地内で、関係者以外は立ち入り禁止。
祠に入ると中に日光は差し込まない。
岩壁に埋まっている魔石が発光しているので、ゴツゴツした黒い岩壁や足元はぼんやり照らされているけれど、それでもなんだか不気味だし、ひんやりしている。
一番奥まで来ると、小さな泉があった。
ここまで歩いてきた道より、はるかに多くの魔石が埋まっているらしく、泉の水に反射した青い光が、辺りを明るく照らしている。
ゲームの画像通りだ。
黒い岩のくぼみにたまった大きな水溜まりのような泉の水は、綺麗な透明だけど、覗いてみても底が見えない。
きっとこの底に神様とやらがいるんだろう。
とりあえず、神官に教えられた通り、泉に跪いて国がより豊かになるよう祈ってみる。
「…」
岩の上に跪いているから足が痛い。
「…」
…こんなもので良いかな。
私は祈りを終え立ち上がった。
「ん…?」
城に戻ろうと出口に向かいかけたけど…、何だろう…?
何か変な感じ。
ここに入ったのは今日が初めてだけど、何か、おかしいような。
キョロキョロと周りを見回す。
でも違和感の正体が分からない。
「まあ…いっか」
分からない程度の違和感なら、大した事じゃないんだろう。
それより早くお城に戻らなきゃ。
今日はドレスの仕立て屋が来るのよ。
毎日こんなダサい聖女のローブじゃ嫌だもの。

聖女の座を取り返して半月。
またリュソーに言われて約1週間ぶりに祈りの祠にやって来た。
ここ薄暗くて不気味だし、1人で入らなきゃいけないし、あんまり来たくないのよね。
どんよりとした気分で奥に進むと―
「え…?」
泉が大きくなってる。
1週間前の違和感の正体がやっと分かった。
ゲームの画像より泉が大きかったんだ。
そして今日、1週間前よりさらに泉は大きくなっている。
いや、泉が大きくと言うより、正しくは、泉の水位が上がっているんだ。
私は祈りを捧げず、急いで城に戻った。
「リュソー!神官長!誰か!」
血相を変えて聖堂に駆け込んできた私に、何事かと神官達が集まってくる。
「どうしたんですか、ロゼ殿?」
「い、泉!祠の泉がメチャクチャ増水してるの!あれ、大丈夫なの?」
―シーン…
私のセリフに神官達が静まり返った。
「え…何…?あの泉、たまに増水するの?」
「…」
誰も答えてくれない。
「ね、ねぇったら!あれ、なんなの?」
「ロゼ殿」
やっと答えてくれたのはリュソーだった。
「祈りの祠の泉が増水している、とは確かですか?」
「えぇ、もうかなり溢れてるわ。あれ、何の現象なの?」
「…我が国の守護神が生贄を求める時、あの泉の水が溢れるのです」
「…生贄」
そんな物が必要なんだ。
「そ、そう、生贄…。じゃあ、かわいそうだけど、生贄の人を選ばないとね。どういう人から選ばれるの?」
「…」
神殿は再び静まり返る。
神官達は無言で私をじっと見つめる。
まさか。
全身から血の気が引く。
そんな、まさか。
嘘、嘘。
私が絶対に聞きたくなかった言葉をリュソーがハッキリ口にした。
「生贄はその時の聖女。つまり、あなたですよ、ロゼ殿」
私はこの時全てを理解した。
ゲームにスルスがいなかった理由。
スルスが速やかに城から出て行った理由。
やられた…!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』 *書籍化2024年9月下旬発売 ※書籍化の関係で1章が近日中にレンタルに切り替わりますことをご報告いたします。 彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?! 王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。 しかも、私……ざまぁ対象!! ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!! ※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。 感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。

婚約破棄と追放をされたので能力使って自立したいと思います

かるぼな
ファンタジー
突然、王太子に婚約破棄と追放を言い渡されたリーネ・アルソフィ。 現代日本人の『神木れいな』の記憶を持つリーネはレイナと名前を変えて生きていく事に。 一人旅に出るが周りの人間に助けられ甘やかされていく。 【拒絶と吸収】の能力で取捨選択して良いとこ取り。 癒し系統の才能が徐々に開花してとんでもない事に。 レイナの目標は自立する事なのだが……。

噂の醜女とは私の事です〜蔑まれた令嬢は、その身に秘められた規格外の魔力で呪われた運命を打ち砕く〜

秘密 (秘翠ミツキ)
ファンタジー
*『ねぇ、姉さん。姉さんの心臓を僕に頂戴』 ◆◆◆ *『お姉様って、本当に醜いわ』 幼い頃、妹を庇い代わりに呪いを受けたフィオナだがその妹にすら蔑まれて……。 ◆◆◆ 侯爵令嬢であるフィオナは、幼い頃妹を庇い魔女の呪いなるものをその身に受けた。美しかった顔は、その半分以上を覆う程のアザが出来て醜い顔に変わった。家族や周囲から醜女と呼ばれ、庇った妹にすら「お姉様って、本当に醜いわね」と嘲笑われ、母からはみっともないからと仮面をつける様に言われる。 こんな顔じゃ結婚は望めないと、フィオナは一人で生きれる様にひたすらに勉学に励む。白塗りで赤く塗られた唇が一際目立つ仮面を被り、白い目を向けられながらも学院に通う日々。 そんな中、ある青年と知り合い恋に落ちて婚約まで結ぶが……フィオナの素顔を見た彼は「ごめん、やっぱり無理だ……」そう言って婚約破棄をし去って行った。 それから社交界ではフィオナの素顔で話題は持ちきりになり、仮面の下を見たいが為だけに次から次へと婚約を申し込む者達が後を経たない。そして仮面の下を見た男達は直ぐに婚約破棄をし去って行く。それが今社交界での流行りであり、暇な貴族達の遊びだった……。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

おばあちゃん(28)は自由ですヨ

七瀬美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。 その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。 どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。 「おまけのババアは引っ込んでろ」 そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。 その途端、響く悲鳴。 突然、年寄りになった王子らしき人。 そして気付く。 あれ、あたし……おばあちゃんになってない!? ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!? 魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。 召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。 普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。 自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く) 元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。 外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。 ※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。 ※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要) ※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。 ※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

処理中です...