聖女の座を取り返した結果

ハツカ

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1・転生(ロゼ視点)

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村のすぐそばの静かな森の中。
野苺を摘みに森に来ていた私は、小さな泉に映した自分の顔を見つめていた。
青い大きなリボンでハーフアップにした、淡い水色のストレートロングヘア。
この泉のように涼やかな青色の大きな瞳。
この透明感のある可憐な美少女は…。
自分の顔のはずなのに自分じゃないような。
泉の水面が音も無く揺れて、映っていた私の顔も歪む。
…思い出した。
この姿は私がプレイしていた乙女ゲーム『奇跡の泉』の主人公、ロゼ。
私、もしかして、乙女ゲームの世界に転生したの?

野苺いっぱいのバスケットを片手に、急いで家に帰った。
私の家は田舎の村の平凡な農家だ。
バスケットを母に渡し、自分の部屋に戻る。
姿見に写した自分の姿は、何度見ても間違いなくゲームの主人公、ロゼ。
顔だけじゃなく、服装も、ゲームの導入部分の立ち絵で見覚えのある紺のエプロンドレスだ。
乙女ゲーム『奇跡の泉』は、ある日聖女の力に目覚めた主人公が城に迎えられ、そこで出会った貴公子達と恋に落ち、彼と協力して国を守る、というシナリオのゲームだ。
自分の右手の甲を見ると、うっすらと花のようなアザが浮かんでいる。
このアザこそ聖女の証。
でも、ゲームのスチルに比べてずっと薄いような…?
ゲームが始まったら濃くなっていくのかしら。
私はベッドに腰かけた。
ゲームの世界に転生したってことは、元の世界の私は死んじゃったってことよね。
階段から落ちた記憶があるような…無いような…。
まあ、いいわ。
せっかくゲームのヒロインに転生したんだもん。
メイン攻略キャラの王子の妃になって、悠々自適に暮らすわよ!

…城からの迎えが来ない。
…なんで?
なんとなく、主人公である私が、この世界はゲームの世界だと気付けば、ゲームもスタートすると思っていた。
でも、あの日から一週間待っても、何の音沙汰も無い。
ゲームはいつ始まるの?
ゲームの内容をじっくり思い出してみても、『奇跡の泉』は作中が何月か、どの季節なのかの描写が無いゲームだった。
せめて季節くらい分かればどれくらい待てばいいのか分かるのに。
何か手掛かりはないかしら…?
そうだ。
私は近くの町へ向かった。
少し遠いけど、歩いて行ける範囲内では比較的栄えている町だ。
目指すは教会。
町の教会は古びてはいるけど、ステンドグラスを通して色付いた光が建物内を厳かに照らしていた。
ステンドグラスの絵はこの国の守護神の神話の一場面を描いたものだ。
我が国の守護神は巨大な魚の姿をした水の神。
丸みを帯びたその姿を眺めていると、奥の扉から、掃除道具を持った若いシスターが現れた。
「あら、こんにちは」
「こんにちは」
笑顔で挨拶されたので私も挨拶を返す。
そうだ、私はここにわざわざステンドグラスを見に来たんじゃない。
教会関係者に聞きたいことがあってきたんだ。
「何か御用でしょうか?神父様は本日、出かけているのですが…」
え、神父いないの?
うーん…。
私は目の前にいるシスターを見た。
この人で分かることなのかな?
それ以前に、ただの村娘に教えてもらえるような情報なんだろうか?
まあ、せっかくここまで来たんだから聞くだけ聞いてみよう。
「あの、我が国の聖女様について知りたいのですが…」
「あぁ、聖女スルス様の事ですね」
「へ…?」
え?
スルス?
誰?
そんなキャラいなかったわよ?
「スルス、様って…どんな人、ですか?」
私の質問にシスターはスラスラ答えてくれた。
聖女スルス。
私達と同じ十代半ばの少女。
数年前からこの国の聖女を務めている。
聖女として城に迎えられたのと同時に、この国の第一王子ラック王子の婚約者となり、将来は王妃としてもこの国の為に尽くしてくれる予定になっている、そうだ。
…何、それ…。
ゲームでも、聖女である主人公が王子と結ばれ、将来の王妃となるというのがトゥルーエンドだ。
そしてゲーム内に聖女はロゼ1人だけ。
聖女はたった1人、唯一の存在。
他の聖女なんて候補すらいない。
そのスルスとやらに私のポジションが奪われてる…。
なんでそんな事態が起こってるの…?
少し考えると答えが出た。
そのスルスという子も私と同じく転生者。
おそらく名前すらないモブだったくせにゲーム知識を駆使してヒロインの座に収まったんだ。
「あの、大丈夫ですか?」
青ざめこわばった顔をしている私にシスターが声をかける。
「あ、えぇ、大丈夫です…じゃあ、お邪魔しました」
それだけ言うと私は足早に教会から出た。
そして急いで自分の村を目指す。
なんてこと…。
この世界のヒロインの座は私の物なのに、勝手に横取りされているなんて…。
どうすれば…。
自宅に帰り、自室のベッドに座り考える。
何とかして取り返さなきゃ。
ヒロインの座を。
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