手紙を書く男の子

ハツカ

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第9話 女学生の宛先

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夜。
私は自室のベットに寝転がって悩みこんでいた。
どうしよう。
あの2人の好意には気付いていたけど、まさか彼らがあんなことをしていたなんて。
自作自演をしている栗藤君に比べたら、ただフセンを貼っているだけの杣友君がまだまともに感じる。
でも、杣友君が何を考えているのか分からない。
わざわざフセンのラブレターを送る程度には私に好意を持っているのに、帰れと言われたらアッサリ引き下がる。
何を考えているんだろう。
そして、私はどう行動すればいいんだろう。
杣友君と栗藤君。
2人と話し合ってみる?
何を考えているか読めない杣友君は、どういうリアクションをするか予想できなくて怖い。
栗藤君は、自作自演を指摘したら、泣いたり暴れたり、また不登校になったり、かなり面倒なことになるのが予想できる。それは避けたい。
誰かに相談する?誰に?
…杣友君に関しては意味が無い。
だって、彼がやった事はフセンを下駄箱に貼っただけ。
内容も、栗藤君がノートに書いたような悪意のある文ならともかく、あれはラブレターだ。
何の問題にもならないだろう。
そもそも杣友君の問題は、何を考えているのか分からない、うっすらとした気味悪さだけだ。
栗藤君に関しては、杣友君とは逆に、大問題になるのが目に見えている。
だって、彼のノートの落書きの事は、他でもない私が、何回も先生に報告している。
そして、栗藤君をいじめていたY町君が、この落書きの犯人の疑いをかけられて、何回も呼び出しを受けている。
先生に相談したら、栗藤君の内申がガタ落ちになって、彼の高校進学に影響が出るかもしれない。
ましてや、私がクラスメイトの誰かに相談して、その人が秘密を守らず自作自演だったことがY町君に知られたりしたら―その先は考えたくもない。
結局私は、栗藤君や杣友君に、面倒くささや気味悪さを感じても、彼等がひどい目にあったり、彼等の事を心から恐れたりするのをためらっている。
だって、2人共、手紙を書いただけなんだもの。
何とか穏便に距離を取れないものか。
今年は受験なのに、まさか恋愛関係でこんなに悩むことになるとは―
「…!」
『受験』というキーワードを思い浮かべた時、何か突破口を見つけた感覚があった。
受験。
そう、私達は来年進学する。
そして、この県、この市には、1校だけ、杣友君も栗藤君も進学不可能な学校がある。
S女子高等学校。
私達が住んでいる市にある、県内唯一の女子高。
元々私の第二志望であるこの学校に行けば、2人から円満に離れられる!
そうと決まれば、残り数か月の中学校生活を、今まで通り平和に保てるように全力を尽くそう。
栗藤君と杣友君のバランスが崩れないように。
2人が仲良く過ごせるように。
どちらにも火が付かないように。



入学式の時には咲き誇っていた桜はもうほとんど散ってしまった。
私は第二志望のS女子高等学校に進学した。
第一志望のK高校は受けたけど落ちてしまった。
ワザとだけど。
栗藤君と杣友君は2人仲良くK高校に見事進学。
『3人でK高校に行こう』と受験勉強していた思い出はまだ数か月前の事なのに、もう懐かしい。
彼等も、新しい学校で新しい出会いがあれば、私のことなんてすぐ懐かしい思い出になるだろう
K高校とS女子高等学校は、駅から見て真逆の方向なので、通学路で偶然出くわす心配もいらない。
汗ばむほど暖かい日差しの中、新しい制服のスカートをひらめかせながら、足取りも軽く下校する。
私と同じ制服の女子生徒が何人も歩いている帰り道。
少し見慣れてきた下校風景が、今日はいつもと違うことに気付く。
なんだか妙にザワついている。
そしてそのザワつきはなんだか嬉しそうな雰囲気だ。
道の先から生徒達の囁きが聞こえる。
「誰か待ってるのかしら?」
「身長高い…モデルさんみたい…」
「もう1人はアイドルみたいよね」
春の日差しに汗ばんでいた体に冷や汗が噴き出す。
違う道から帰ろうと、クルリと背中を向けたが、遅かった。
「あ、いたよ、梓君!」
「マジか!?おーい、委員長!」
「アドレスや電話番号、変えたなら教えてよ」
「俺も藍もメッセージ送るから」
聞き慣れた彼らの声が後ろからどんどん近付いてくる。

終わり
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