稀有ってホメてる?

紙吹雪

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第1章 出会い(まとめ)

把握すべきこと

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☆☆☆☆☆
*名前 ルシノ
*種族 鬼人族、鬼神
*性別 ♂(♂♂)
*職業 魔工匠アルチザン錬金術師アルケミスト鑑定士アプレイザー
*称号 神格となった者、ルスタフのギルドマスター、生産職を極めた者
☆☆☆☆☆


☆☆☆☆☆
*名前 リミル
*種族 魔人族
*性別 ♂(♂♀)
*職業 魔法詠唱者マジックキャスター刀剣士スローター拳闘士モンク
*称号 クライの家族、ダンジョン攻略者、フェンリルの主
☆☆☆☆☆


クロトは早速鑑定して驚いた。
リミルが駆け寄ったのはルスタフのギルドマスターだった。
そしてどうやらクライはフェンリルらしい。

しかしそれよりも気になったことがある。

『レベルがない…それに3つずつ…』

『あ、無断で鑑定したでしょ?3つずつってことはあの人とリミル君のを見たの?これからお世話になる人を勝手に鑑定するのは良くないよ?本人に聞いたら隠蔽してないステータス見せてくれるかもしれないのに…ってごめん、知らなかったよね』

クロトは良くないと聞いてリミルが自分のステータスを見た時に申し訳なさそうな顔をしたのを思い出した。
クロトはゲームの感覚でステータスなど見られるのは当たり前だと言う感覚でいたため気にはしていなかった。

『そうか…個人情報だもんな…』

『まあでも隠蔽している人達で良かったよ。あたしはまだまだ出来ないから勝手に見てたら怒ってた』

クロトは勇気が出なくて見れなかったとは言えず、はは、と乾いた笑いを漏らした。



事情を説明し終えたリミルは紹介するために二人を呼んだ。

「二人とも!」

手招きして呼び寄せルシノに二人を紹介し、二人にルシノを紹介した。

「この二人がさっき言った俺が保護者をすることになったクロトとニーナ。この人はここのギルドマスターのルシノ」

『初めまして、クロトです』

『あたしはニーナ、よろしくね』

クロトはニーナの言葉遣いに驚いたがみんな気にする様子もない。
そのことに首を傾げる。

(リミルもニーナも敬語を使うところを見ないな…俺もリミルに敬語使ってないけど。リミルは20代後半って言う割に同い年くらいに見えるんだよな…)


そうクロトが考えていると声がかかる。


『俺はルシノだ。お前、さっき鑑定したろ?理由はなんだ?』

ルシノは少し睨んでいるように見える。
クロトはビビるが、リミルには怒っているのではなく怪しんでいると分かった。
クライも分かっているので口は出さない。
リミルも鑑定されたが先に自分もやったので特に言うことはない。

『あ、すみません。この世界ではステータスを勝手に見ることが良くないって知らなくて…よく考えたら分かったことなのに個人情報を勝手に覗いてしまってすみませんでした』

『そうか。それで見た理由は?』

ルシノは幾分か柔らかくなった口調でもう一度理由を聞いた。

『さっき性別の話を聞いて…俺の世界とは違うというか…それで興味が湧いて…好きな子のを見るのは躊躇われたので保護者になる人とその人が駆け寄った人を…と思いまして…』

『そうか』

そう一言返してルシノは黙ってしまった。
何やら考えているようだ。
ルシノにじっと見られてクロトは居心地悪そうだった。


リミルはその間にニーナに近づき何を話してそうなったのかを聞く。

ニーナは何か言いにくそうにしていたが何とか話してくれた。
どうやらこの世界の恋愛について聞いてきたので答えていて、鑑定したら相手の性別が詳しく分かると話していたようだ。

「なるほどなー。やらかさないように見守るのってなかなか難しいな。異世界との違いが分からないから何を何処まで教えないといけないのかわからない。でも俺の責任になるし何とかしないとな…」

『その点あたしは安心だよね?この世界の常識は分かってるし!』

リミルはニーナをチラリとみて視線を下に戻す。

「まあ大丈夫だと思いたい」

ニーナは『なによー』と頬をプクッと膨らますが、リミルが「まだニーナのことそこまで知らないからな」というと『それもそうね』と頷いた。



ニーナとリミルがそんな話をしている間、ルシノとクロトとクライは何事かを話していたようだが聞くとクライが気にするなと言ってそれ以上は聞けなかった。

クロトがリミルに謝ったので恐らく責任についてだろうとは思う。

「教えてなかった俺が悪いし。これからは無闇に鑑定しなければ大丈夫。怪しいヤツとか、嫌な感じがする奴なら鑑定しても良いから」

『わかった。そう言えば二人とも鑑定に気づいてたみたいだけどレベルが高いと鑑定されたって分かるようになるの?俺は鑑定されたの分からなかったんだけど…』

リミルは驚いた。
答えたのはルシノだ。

『確かレベルが上がりにくくなった頃に覚えたからღ30くらいだったと思うが』

『え、俺のレベル50なんだけど…』

それを聞いて皆驚いた。
リミルは知っていたので鑑定されたのに気づかなかったと聞いてから驚きっぱなしだ。

「あれは俺を咎めるためじゃなかったのか…」

異世界人だと知っているのかと聞かれた時リミルは鑑定のことを咎められたのだと思っていた。
思い返してみれば咎めるような口調でもなく本当に気にしていない感じだった。
そう思ったのはリミルに後ろめたい気持ちがあったからだろう。

『とりあえず、今は人が居ないとはいえ道でのステータスに関する会話はタブーだ。中に入れ』

リミルとニーナはハッとして、クロトはそう言えばそう言われたんだった!とルシノの後に続く。
クロトにステータスについて話すなら室内でと教えたのはノフテスのギルドマスター、ハルバーだ。
この世界のルールを教えておくということで罪になる事を中心に教えていた。
元の世界でも犯罪として扱われていたらしく、その辺は問題なさそうだった。

そこで禁忌タブーについてもいくつか話していたのだが、その中の一つがステータスについて街中で話してはいけないというものだった。

念の為ギルドマスターの部屋に入って話すことになりそのままルシノに続いて入室する。

ルスタフのギルドマスター部屋は3人がけのソファが3つルシノの執務机を囲むように配置されていた。
ソファの真ん中には机は置かれておらずクライが1つのソファの前に座る。
話しやすいよう、その他の2つのソファに2人ずつ角に集まるように座った。

『改めて聞くが本当にღ50なのか?』

『はい!ステータスを見る限りは…』

『鑑定してもいいか?』

『はい!大丈夫です』

ルシノは即座に《鑑定アプレイザル》を唱え隠蔽のされていないなステータスを見る。

するとルシノにはこう見えた。

☆☆☆☆☆
*名前 クロト(黒澤 大翔ひろと)
*種族 渡人わたりびと族_ღ50(解放されていません)
*性別 ♂(♂♂)
*契魔 なし
*状態 少し緊張
*職業 戦士ファイター_ф32(条件を満たしていないため使用不能)
    攻撃系魔法詠唱者マジックキャスター_ф30 (条件を満たしていないため使用不能)
    防御系魔法詠唱者マジックキャスター_ф30 (一部使用可能)
    支援系魔法詠唱者マジックキャスター_ф30 (一部使用可能)
    薬師ケミスト_ф50 (条件を満たしていないため使用不能)
    錬金術師アルケミスト_ф50 (条件を満たしていないため使用不能)
    鍛冶師スミス_ф50 (条件を満たしていないため使用不能)
    料理人シェフ_ф50 (一部使用可能)
*称号 異世界から来た者、リミルの被保護者
☆☆☆☆☆


ルシノは黙り込んだ。
絶句とも言えるがクロトのステータスは常軌を逸していた。

リミルから聞いていたので種族や称号については呑み込めたが、レベルのカッコ書きについては見たことがなかった。
まだ使えないとは言えこちらに来てすぐだと聞いているのに初期レベルもおかしい。
だからこそのカッコ書きだろうとは思う。
しかしそれについてもまだ分かっていない。

ハルバーからこちらに来た経緯については通信で聞いていたのだがハルバーには鑑定はしなかったので任せると言われていた。



何故かは分からないが使用制限がある分には暴走の危険性がないので安心出来る。

『全てに使用制限がかかっている。それと種族レベルも解放されていないとかで恐らくレベルの恩恵は全くないだろう。魔力量は分かるか?』

『えと…どうやって見んの?』

聞かれたリミルは訂正する。

「見るじゃなくて感じ取るんだ」

『え、数値で見れるわけじゃねぇの?』

恐らくゲームではそうなのだろうとあたりを付けリミルはその考えを改めさせる。

「それはゲームだろ?ここは現実だ」

『そうだな…似てるからつい。感じ取るってどうやるんだ?』

リミルは少し考えてルシノに視線を合わせると頷かれたのでクロトの背後に移動した。



魔力は核と呼ばれる部位にあり本来なら子どもの間にそれを把握する。
しかしほとんど大人の身体に近い状態でこちらに来たためそれが出来ないらしい。

核はレベルアップとともに成長して行くのだが元々ღ50の大きさでいきなり使えるようにするのは危険だ。

リミルは複雑な形に成長しているはずの核を、クロトの背中に当てた手を介して魔力を送り探った。
その枝分かれしている1部に魔力で触れクロトに認識させる。

「これが核の1部。触れてるのはわかるか?」

『うーん…ぼんやりとだけど、何かが何かに当たってる気がする』

「俺が魔力で触れてるのが核って言って魔力が貯められる所だ。ここに意識を向ければ魔力量が分かるはずだ」

『核?臓器みたいなもん?』

『臓器というより血管に近い。が、物質として存在するわけではないから魔力でしか触れられないんだ。俺みたいな神格の者は全身に核が蔓延っている』


それから少しの間核を意識させるとその後は話に戻り、神格についてクロトが質問するのでこの世界の種族についての常識を皆で教えた。

あくまで常識の範囲内で。



『ところで二人はギルド登録はどこでするのか決まったのか?』

『俺は生産職でやっていきたいからこの街が良いかな…って思ってる』

『あたしはお世話になるリミル君と同じとこの方が都合が良いかなって…』

3人がリミルを見るので良いんじゃないか?と言いかけて少し考える。

「そう言えば未成人のものの試験は保護者同伴だっけ?」

『『そうなの?』』

『ああ。規則でな』

「ならクロトが成人するまでは同じとこで同時に試験の方が楽だな…俺とは時期もズレるからどっちの街でも良いし、2人で決めてくれ」

話し合うまでもなくルスタフのギルドで登録することに決まった。
ニーナが直ぐに譲った形で。


『なら明日試験して登録だな。今夜も泊まってくだろ?』

「え、良いの?」

<部屋数足りなくないか?>

クロトとニーナは驚いていたがそれが気にならないくらいリミルは喜んでいた。
その様子に呆れつつクライも乗り気なので部屋の心配をした。

『問題ない。家をいじればいい話だからな』

建築屋を呼ぶ事を考えてふと思い至る。

<持ってるのか…>

クライは声に出てしまっていたがリミルと同じ考えに至ったようだ。

『まあな』

どうやら生産職だけでなく建築士アーキテクトも持っていたらしい。
建築士アーキテクト造作者ビルダー職業改変クラスチェンジした上位職でなかなか手に入れにくい職の一つだ。

<なら遠慮なく泊まらせてもらおう>

「ありがとう」

『『あ、ありがとう』』

『ああ』



『クロトは明日の試験まで核を意識し続けろ。魔力量を正確に掴めないなら魔法は暫くは使わせられない。一応ギルドで計測はするが』

『分かりました』

『さっきも言ったが敬語を使ってると他の冒険者には舐められるぞ?使えるのはいい事だ。職の幅も広がる。ただし、ギルド内ではあまり使わないことを勧める。この街の奴らは無頓着だが冒険者には色んなやつがいるからな』

『そう…だね。目上の人には使うべきって育ってきたからつい』

<目上ってなんだ?>



クロトが語ったのはこの世界にはない概念だった。
上司、というか雇い主は存在する。
雇い主が相手を見て雇用するか決めるため責任を負うことになる。
そのため雇い主には被雇用者に対する素行調査が許されている。
その逆で被雇用者、つまり雇われる側が雇用者を知ることも出来る。
店を開いたりなどして人手が欲しくて誰かを雇うには、雇用者として商工会に登録しなければならない。
登録してから定期的に調査がされることになっていて、その情報を基に被雇用者は働く場所を決めたりする。

だが、一番多いのは知り合いなどのつてで雇用されるケースだ。
さらに、見た目で年齢が分からないこともあって目上という概念がない。



『この世界では歳に関わらず大切な人を大切にするのが当たり前だし、歳が上だからって偉ぶったりしないよ?そもそも敬語だって難しいし、別に敬語じゃなくたって敬う気持ちがあれば問題ないでしょ?言葉だけ敬語でも意味無いと思うし…』

『確かにとりあえず敬語使ってるだけで敬ってない相手もいたなあ…先輩って言って先に職場で働いてた人なんだけど偉ぶってるだけで仕事出来ない人で、しかも暴言が酷かったんだ。尊敬できる所が一切なくてさ。上司の手前一応敬語使ってたんだ…そう考えると気持ちの方が大事だな』

『敬語を使うのは接客の時くらいでいいだろうな』



大体の話が終わったこともありギルドの裏手にあるルシノの家に向かう。
クロトもニーナも敷地の広さと家の大きさに驚いている。

そこにルシノが《増築エクステンション》を使用して、左手の空き地というか広い庭に新たな建物を建てた。
2階の1部が繋がっている。



『クロトとニーナは新しく作った客室に泊まれ。リミルとクライは俺の部屋の向かいな。1つの部屋にしたから二人で広々使え』

「客室だったのに変えちゃって良かったの?」

<もしや俺たち専用の部屋か?>

『まあな』

リミルがクライの言葉に驚愕しているとそれを肯定するルシノの言葉が続いた。
驚きと喜びと戸惑いで固まってしまったリミルを放置してクライ、ルシノ、ニーナの3人で話は進む。
そしてふとクライが2人の部屋を用意してくれた理由を聞くとルシノはリミルの方へ目をやって言った。


『ギルレイからホームポイントが2つあるという話を聞いてな。いつでも来ていいからな』

ルシノはそう言うとリミルの頭に手をのせ、大人の色気を漂わせてふわりと笑いかけた。
するとぶわっと何かが込み上げ、耳まで真っ赤にしつつリミルは「ありがとう」となんとか返事をしたのだった。


ニーナは『ご馳走様』とニコニコしながら小さく呟いた。
クライは何となく色々察した。


それらを気にしないようにしていたクロトは生産職を極めたというルシノの実力を目の当たりにして只々関心していた。

ゲームと似ているが全く違うこの世界のことわりを、クロトはまだ把握していない。
しかし、凄いことを簡単そうにやってのけたのだと、体内の核らしき場所が教えてくれる。

ジクジクとした嫉妬のような恐怖のような憧れのような競争心のような、全てが混ざった尊敬の念が核で生まれ渦巻いていた。やがてその気持ちはクロトの中で目標モデルという形になっていった。
クロトの目指すところは決まった。


そしてすぐ行動に移す──。


『ルシノ、俺を弟子にしてくれ』

『今はまだ無理だ』

『いつならいい?』

ルシノは予想していたのか戸惑いなく答えた。
クロトも恐らく断られると思っていたのだろう。
冷静に返している。
ルシノは暫く考えたあと言った。

『本格的に弟子になるなら成人してからだ。それまではリミルのついでに簡単な指導はしてやる。それ以外は却下だ』

『わかった』

クロトは成人までの2年間はレベルの解放と職業クラスをできる限り使えるように頑張ろうと決意した。
クロトは元の世界では成人だったがこちらでは未成人であることがわかり最初は戸惑ったが歳が近いニーナとリミルがいたため直ぐに受け入れた。



新たに作られた客用家屋ゲストハウスは、1階に風呂トイレリビングダイニングキッチン全て揃っており、客室が2つあり、2階には6部屋客室があった。
そんなに必要かとクライが尋ねると、分からないが面倒だから一度に作ってしまえと考えたらしい。

『家具も揃ってるから好きなとこ使え。リミル達も自分達の部屋見に行くか?廊下で繋いだからそこから行けるぞ』



リミルはクライとともにルシノについて本邸に行くと螺旋階段と客室の間に繋がっていた。
ルシノの部屋の真向かいに廊下を挟んで2つあった客室はルシノの言う通り1つになっていて家具も2人仕様になっていた。


「ベッドでか!クライと余裕で寝れる。これもルシノが作ったの?」

『ああ。2人で寝るなら必要だろ?』

<これなら3人でも寝れそうだな>


そのクライの言葉に顔を見合わせ3人で寝転んでみるがまだ余裕があった。

「ハハハッ。3人でも余裕じゃん」

『大は小を兼ねるからな。デザインはシンプルにしておいた。ここに来る度に1つずつ好きなように加工すれば良い。その都度教えてやるから』


いつでも来ていい。
そういうルシノの言葉にリミルは嬉しくなった。

「じゃあホームポイントを…」

そう言ってからリミルは考え込んだ。
森の中心にある現在のホームポイントが使い勝手が良いため、ここでホームポイントをルシノの家に切り替えると1度イレアに戻った時に転移ポイントとして登録し直すことになる。
ならばルシノの家を転移ポイントとして記憶するほうが楽なのでは、と。
ただ、何となくにしたいという気持ちが勝ったため面倒を承知でホームポイントの登録をし直した。
ルシノ家本邸の玄関に。



その後3人は客用家屋ゲストハウスへ移動し2人を呼ぶとルシノが料理を作り、美味しい料理を食べながら話す。
話題は自然とリミルの新しい職業クラスと新たな魔法《チャット》について。

『魔力は使うがそれほど消費しないし魔力が高いやつには便利だな。受け取るだけなら消費もない。通信の魔道具の普及率が低いから助かる』

通信の魔道具は親和性の高い魔石同士を使って作る物でその数は非常に少なく希少だ。
だからこそ管理者もしくはギルドマスター、実力のある冒険者プレイヤーチームのリーダーにしか渡されない。


それが《チャット》が出回ることで魔力さえあれば連絡を送ることができるようになり緊急時などにも役立つはずだ。
リミルは誰でも使えるようにと生活魔法に分類して作成した。
これは《清潔クリーン》や《温風ドライアー》などの生活に使う、職業クラス関係なく誰しもが使える魔法だ。
ダメージを与えることが出来ない、等の制約がある。
これは誰かが決めたのではなくこの世界の理で制約を侵すことは不可能である。


寝る前、リミル達の部屋に来たルシノが会合と呼ばれるギルドマスター及び管理者の話し合いが行われることについて話した。
恐らくギルドから《チャット》については広められることになるだろうが職業クラスについては伏せることになるだろうから念の為言わないようにと。
リミルは元々話すのが得意ではないためキッカケになったクロトとたまたまそこにいたニーナ、信頼しているギルレイとルシノ、ほとんどいつも一緒にいるクライ以外には話していない。
ルシノも懸念しているのはニーナとクロトだ。

『2人が心配だな』

<最悪、俺の特殊技能スキルを使うから大丈夫だ>

クライは自分のステータスについて話すのを嫌う。
そのため特殊技能スキル名だけ言った。
ルシノもそれを聞いて探るでもなく納得して『もしもの時は頼む』と言って、そのまま話しているうちに3人で寝てしまった。


翌朝
早速2人に口止めするが二人とも不安そうだった。

『もし聞かれてるの気付かずにその話をしたらって思うと怖いかも』

『俺は隠し事が苦手なタイプで…』

『そうか…クライ、頼む』

不思議そうに首を傾げている2人を見ながら、クライはどれを使うか考えたあと2人に向かって特殊技能スキルを使う。

<《操作オペレーション:催眠ヒプノシス》リミルの所有職業クラス呪文探求者スペルシーカーについて、及び《チャット》の制作経緯などについて思い出せない。また、それらのことについて詳しく聞いてくる者がいた場合は、この場にいる、リミルかルシノ、もしくはクライに報告する。理解したか?>

『思い出せない。報告する。承知』

『分からない。知らない。言うね』

<よし、確認した。普通にしろ>

2人は首を傾げている。
リミルが確認のために質問する。

「なあ、《チャット》について何か知ってるか?」

『俺の世界ではよく使ってた通信方法だけどこの世界にもあんの?』

『えー、あたし知らない!どんなの?』

2人が普通に会話し始めたのでルシノは驚くがクライに目線で賞賛を送る。

「そっか、ありがと。ちょっと俺トイレ言ってくる」

『はーい』

『いってらー』

そう言ってリミルは席を立つが隠蔽系の特殊技能スキルを使いながら様子を伺う。
その間もずっと2人は今日やる試験について話していたが実際にリミルが離れるとそれを察知したかのようにクライとルシノに小声で報告する。

『『リミルに《チャット》について聞かれたー。プラチナの髪に赤と薄紅色のオッドアイの人』』

それを言うと直ぐに元の話に戻った。
暫くしてリミルが戻って来てそれぞれが同じ手順で質問して離れてを繰り返したが結果は全て一緒で本人に聞かれないように3人の誰かには報告した。

名前と外見的特徴、何について聞かれたのか、を簡潔に且つ周りに怪しまれないように会話の間の一瞬で伝える。
普段の2人ならありえないが違和感なく会話が続いている。

『クライよくやった。これで懸念事項はないし、怪しい奴がいたら知ることができる』


2人のステータスに乗らない催眠状態以外は通常どおりに過ごした。
この催眠はルシノたちギルドマスターが使える鑑定士アプレイザーの鑑定を受けるとバレる。
が、今は問題ない。

2人の試験のために朝食を食べてすぐギルドに来ていた。
午後にはイレアに帰るため午前のうちに試験を受けるためだ。




ギルドに着くと早速受け付けに行き申請用紙に記入していくがクロトは躊躇していた。

『俺この世界の字、知らない…』

「言葉と一緒で訳されるんじゃないか?」

ルシノが白紙の紙を出してくれたのでクロトはそこに名前を書いてみる。
それは確かに訳されたが皆微妙な顔をしているので不安になった。

『ダメ?』

「古代語と現代語が綯い交ぜだ。それにこれは本名だったか?こちらの名前で書き直してみろ」

『あ、つい癖で…』

クロトは黒澤大翔と書いていたのでクロトと書いてみると皆に頷かれた。
ついでにひらがなでも書いてみるとこちらも大丈夫だった。
漢字だと古代語が混じるらしい。

使わない文字は古代語と呼ばれると言われたのでクロトは気になってどれが古代語なのか聞くと澤だった。
翔は魔法で使うし、黒や大は店で使うことが多いらしい。
澤も使ってくれると嬉しいというと使えないわけじゃないけど使う人は少ないと教えられた。

『初めての試験は時間がかかるが?良いのか?』

「連絡出来るようになったから1日伸ばしてもらうことは可能だけど、そもそも俺たち依頼で来てるからな…満足度が下がるのは良くない」

『あたしはもう書けてるよ!』

『俺も書けた!』



ルシノが他に試験を受けるやつが居ないか確認すると1人成人して暫く経つという男がいた。

『お前、名は?俺はギルドマスターのルシノ』

『アキリム』

『お!同期か?おれクロト!よろしくな』

『あたしニーナ。よろしくね』

「俺はリミル。こっちが相棒のクライで、俺は2人の保護者だ」

『僕より若いのに大変だな。皆よろしく』

自己紹介が終わったところでルシノが試験の説明を始める。




全員で受け付け裏にある、冒険者が唯一自由に入れる扉に入ると何も無いがらんとした部屋だった。
全員が入るとルシノが《転移テレポート》を唱える。
すると淡く黄色みを帯びた白い光で魔法陣が浮かびか上がり、瞬く間に闘技場エントランスにいた。


3人は驚き、感嘆の声を漏らしている。
リミルは冒険者になってからイレアで何度も行っているしクライもそれについて行くので慣れたものだ。

闘技場と呼ばれるこの場所には訓練所、鍛錬所、試験場、休憩室、フィールドなど様々な施設がある。
試験で使うのは主に試験場とフィールドだが登録のとき、つまり初めての時は訓練所も使用する。

『まずは魔力量の検査からだ』

試験場に向かい、中に入ると1人、魔法陣の中に立って淡い光に包まれている人がいた。
すぐに光は消えその人はため息をついた。

『ふぅ、こんなもんか』

こちらに気づいたようで『試験か!ごめんね』そう言って置いていた荷物を拾って近づいてきた。

『ジャックまたか。調子はどうだ?』

『うーん、まだまだかなぁ…個人差って言ってもだよなー。俺才能無いのかも』

それを聞いただけでリミルは察した。
魔力を量る魔法陣の前ではよくある話だ。
試験を受ける前の3人はイマイチ呑み込めていないがクライはジャックと呼ばれた人をガン見していた。

「なに?クライ知り合い?」

<いや…何でもない>

リミルはクライが気にしている理由が分からなかった。
嫌な感じもしない。

『見てて良いかな?』

『当事者の3人に聞け』

こちらをみてもう一度問われた。
リミルは目が合ったが当事者の3人が返事をしたので口を噤む。

『僕は正直遠慮して欲しい』

『俺はよくわからんからニーナと同じ意見ってことで』

『あたしも正直魔力量知られるのは嫌かも…』

ニーナの言葉でクロトは見られる意味を理解したようだった。


『そうだよね…不快な思いさせてごめん。君もごめん。君は既に冒険者だよね』

3人に謝ったあと、リミルの方に向き直し見た目で判断してしまったことをそうとは言わずに詫びた。
全員が許したところでクロトが何故見たいのか聞いた。

ジャックはクロトの容姿に驚きつつも話した。
魔力量に不安があり、同世代の魔力量を知りたかったらしい。

『そっか…俺のは見せたとしても参考にならないと思う。外から来たし…』

『ここにいる奴らのは誰のも参考にならないだろうな』

ルシノがそう言うのでアキリムにも何かあるのだろうとリミルは考えていた。
鑑定はしない。
相手を疑うことと同義であり、失礼な行為だからだ。
アキリムに怪しい所もないのでやらないのが吉。

『そうなの?なんで俺魔力弱えんだよ~。鍛えてるはずなのになー』

するとクライがたんっと一足で近づき前足を背中に乗せようとして失敗し、リミルを呼んだ。

<こいつの核を探ってみてくれ>

「探っても?」

『え?えと…』

<原因が分かるかもしれないぞ?>

『え!じゃあやってくれ!』

訳が分からないままにジャックの核を探るために魔力を送る。
すると魔力の流れを邪魔するものがあった。
魔力だ。

「これは厄介だな…」

『何かわかったのか?』

リミルは気づいたクライと知識のありそうなルシノの3人でまずは話すのが良いだろうと考えクライに目で合図を送りルシノの方へ近寄ると特殊技能スキル密談レット》を使った。

「あいつの核にあいつの魔力で魔封じがしてあった。小さい頃に何かあったのか魔力暴走があったのか無意識に制御してるのか魔力反射を受けたのか…考えられる理由が多くて。それにもし魔力暴走を防ぐためとかだとゆっくり解いていかないといけない。失敗するとまた暴走するから…」

<やっぱりな…>

『解くのは理由を本人に聞いてからだな』

そういうとルシノはジャックを呼んだ。
個人的な話になるので《密談レット》を解除してクライとその場を離れる。


「もしできるならクライが解除してあげるのが一番いいよな?慣れてるし」

<さっき背中に触れるのに失敗したからな…あいつまだレベルが低いみたいで俺の前足すら受け止められないんじゃ解除どころじゃないだろ?>

「さっきの動きは反応出来なくて当たり前だろ?俺とルシノしか見えてなかったよ」

そう話しているうちにルシノが聞き終えたらしくリミル達が呼ばれた。
理由はどうやら小さい頃の魔力暴走だったらしい。
リミルとクライは顔を見合わせ、クライがしゃーないなと言う顔をするので了承を取れたということでルシノ達に提案した。

「魔封じを解除するならクライに任せると上手いし速いんだけどどうする?3人の試験場での試験の間に終わると思うけど…」

リミルがやると早くて半日かかるのがクライがやると1~2時間で済む。
その後訓練所やフィールドに行く時に使えるようにしておいて3人と共に慣れさせてはどうかという考えもあって提案していた。

『なるほどな。それだと直ぐに慣れさせられるな』

『俺としても有難い!』



リミルは早速休憩室の個室を1つ借り、ジャックとクライを入らせて声をかけ、試験場に戻った。
すると既にアキリムが魔力量を量る魔法陣の中にいて淡い光に包まれていた。

一緒に試験を受ける者達やそこに付き添いできた保護者に魔力量は知られてしまうが保護者は守秘義務が生じるし、受ける者達はお互い様なので問題になったことは無い。

アキリムの魔力量を見る限りだいたいニーナと同じくらいではないかと思った。


次はニーナが魔法陣の中に立つ。
呪文を唱えると淡く黄色みを帯びて光り出す。
やはりアキリムと同じくらいの魔力量だった。


次は問題のクロトだ。
彼のステータスは現在、一部に規制がかかっている、というより規制のせいで1部しか使えない状態だ。
レベルの恩恵がない状態でどの程度の魔力があるのかリミルには甚だ疑問だった。
リミルが核に触れてみた限りではほとんど無いと言っていい程僅かだった。
解放されていないと言っていたので仕方なかったとは思うが。
核を意識することで少しは変わっているといいなと思いつつ結果を待つ。

クロトが魔法陣を起動すると、少し、魔力量が上がっているのがわかった。
1部だけでもレベルの恩恵が出たようだった。
ルシノはすかさず鑑定を行う。
すると、種族の箇所が少し変わっていた。

*種族 渡人わたりびと族_ღ50(解放されていません)

↓↓

*種族 渡人わたりびと族_ღ1/50(1部解放されています)

そのことをルシノがクロトに告げると喜んでいた。
アキリムは不思議そうにしていたがあまり突っ込んではこなかった。
気を利かせてくれたようだった。


魔力量がわかったので次は筆記試験だ。
適性試験のようなもので冒険者としてのマナーや言動の適性行動を答えるという物。
実際にそのように行動できるかは別として冒険者として正しい行動を記述する。

それほど難しいものではなく、3人ともクリアした。


次に得意武器の確認が始まった。
これは次に行く訓練所とフィールドで実戦として使う。
もしこの時点で職業クラスを取得していなくても訓練所で得意武器を使用する職業クラスのいずれかの取得を手伝ってくれる。

それぞれ確認用に用意された案山子かかしに向かって様々な武器を振るう。
3人ともオーソドックスに剣から使ってみるが扱い方が雑というかおかしい。
それぞれの剣の扱い方を見てルシノは何となくの方向性を理解するが可能性を潰さないために全ての武器を使うまで見守る。
一通り試したところでそれぞれも自分の得意な武器を理解してきたらしい。


『僕は振り回して殴る系の武器が得意みたいだ。斧とか』

『そうだな。アキリムは盾持ちの戦士が向いてるだろう。あとで取得だな』

戦士ファイター職業クラスは武器の種類が比較的多い。
初心者には扱いやすくそこから派生して違う職業クラスを取る人もいる。
そのため、剣、斧、槍等が得意な者は最初に戦士を薦められる。


『あたしはやっぱり弓が使いやすい』

野伏レンジャーを持ってるようだから取得は無しでニーナはそれのレベル上げだな』

ルシノが手元の紙を見てニーナの職業クラスを確認している。
これはリミルがいない間に行われたことだが、試験の前にステータス情報を提出する事になっている。
初めての試験の登録の時だけだが、自身の得意武器を調べたあと、今回のように新たな職業クラスの取得が必要かどうかを判断するためだ。
2回目以降はステータスの開示はしない。


『俺は投げるのが得意みたい。投擲とうてきに向いた職業クラスって何になるんだ?』

投擲士アンカーだ。まんまだな。クロトには丁度いいかも知れないな』

投擲士アンカーは意外と便利だったりする。
レベルも比較的上げやすく、レベルの上昇とともに投げられる物が増え、命中率も上がる。
レベルが後半に差し掛かれば動いていない物に対しては対象の大きさにかかわらず百発百中になる。

それを聞いてクロトも喜んでいた。
攻撃に使える職業クラスだが、生産職にとっては支援にも使えるからだ。



武器と職業クラスが決まったところで訓練所に移動するのだが、その前にリミルは休憩室に2人を迎えに寄る。

「どう?」

<途中やばかったが何とかなった>

「え。今度こういうことがあった時は一緒にいることにする」

<いや、まあ…そうだな>

どうもクライの歯切れが悪いが気にせずジャックの背中に手を当て核を探る。
魔力の循環が上手くいっているのを確認してから起こすために身体を揺すった。

「ジャック!起きれるか?」

『ん…あぁ。なんか身体が軽い。いつもより調子もいいかも知れない』

「魔力の循環が上手くいってるからな。皆訓練所に向かったから俺らも行こう」


ジャックが立とうとして少しふらついたのでもう暫く休ませることにした。
クライが着いていてくれると言うのでリミルは訓練所に向かった。

『ジャックの様子はどうだ?』

「核の方はもう大丈夫だけどふらついたから少し休んでから来るように言っといた。クライも着いてくれてる」

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