天使ノ探求者

はなり

文字の大きさ
上 下
176 / 199
第七章 天使転輪

第176話 霧と糸(一)

しおりを挟む
「ようやく会えたな、宗谷」
 
糸音は開口早々、針剣を抜き、宗谷へと突き刺した。しかし、宗谷は上体を逸らして避ける。そして掴まれた腕を振り解くと霧となり消えて少し距離をとった場所へ再び現れた。糸音は宗谷を警戒しつつ真宵の方を振り返り、ゆっくりと駆け寄る。
 
「大丈夫か?」
 
「ええ、ありがとうございます」
 
「お前は休んでろ。それで他のみんなは?」
 
「それがややこしい事になりまして。簡単に言うと分断されました。奴の口ぶりからここには誰もいないかもしれません」
 
「そうか。詳しい話は後で聞かせてくれ。今はとりあえずこいつだ」

ゆっくりと立ち上がり宗谷へと向き直る。
 
「夕凪糸音、どうやってここへ来た。ここへは簡単には上陸できないはずだが?」
 
「お前は仲間に裏切られたってことだよ。それとも私の友人が優秀なだけかな」
 
「なるほど。波風詩織、やつも来ているのか?内通者がこちらにもいたということか。全く抜け目のない奴だ」
 
「よくわかったな。まぁそうだな。でも詩織はこの場所にはいない。ここへ着いた時別れた」
 
「まぁいい。奴は誰の味方でもないことは知っている。それを咎めるのもまた違うからな。それで、お前は何をしに来たんだ?」
 
「はっ、何って、お前との決着をつけに来たんだよ」
 
「なるほど、記憶を取り戻したか。お前は思ったよりも厄介なやつだったようだな。だが、私に勝てるとでも」
 
「当たり前だ。勝てなきゃ来ない」
 
「その自信いつまで続くのか」
 
そう言うと宗谷は姿を消した。次の瞬間、糸音の真後ろから宗谷の手が伸びてきて糸音の首を掴みにかかった。しかし、糸音はまるでわかっていたかの様に振り返る。糸音の首に触れた瞬間、目にも止まらない速さの拳による打撃が宗谷の腕に当たった。鈍い音が鳴り、宗谷は再び消えて距離をとった場所へと姿を現す。
 
「まさか、私の異能を見破ったのか?」

宗谷は腕を摩りながら糸音を見る。

(何か違うな。こいつは本当にあの夕凪糸音なのか??)
 
「少し外したか。何回目だと思っている。私はお前の異能を見たのはこれで二回目だ。初回の一回なら無理だっただろう。だから、お前は私と初めて会った時に仕留めるべきだったんだ」
 
その光景を見て真宵は素直に驚いていた。
 
(さっきの動きはなんだ?まるで見えなかった。宗谷の動きを先輩は予測していた。さらにわざと体に触れさせている様にも見えた。まさか、先輩はすでに知っていたのか!?実体化させ、触れた瞬間にそこへ打撃を打ち込んだ。先輩の口ぶりから宗谷と対峙したのは初めてではないと思うが、それでも、さっきの様な動きはできない。事実、目の前の宗谷も見た感じ少し焦っている様にも見える)
 
「小細工は私には効かない。まぁ来るなら来てみなよ。わかるから」
 
「ガキがよく吠えるな。お前など夕凪糸衛にも及ばん」

糸音はその名前を聞いて少し目を見開く。
 
「師匠を知っているのか?」
 
「あぁ、よく知っているさ。私にとって生涯で強敵と呼べるのはやつだけだからな。だからこそわかる、お前はダメだ。奴にも似ても似つかんよ」
 
「ふん、別に似せてるわけじゃないが気に入らない言い方だ」
 
「なら、証明してやろうお前の弱さを」
 
そう言うと宗谷は分身体を無数に作りだして糸音へと襲いかからせた。がしかし、糸音は一歩も動かずに、ただただそれらが来るのを待っていた。次の瞬間、糸音へ宗谷の魔の手が襲いかかろうとしたその時、糸音は針剣を抜刀して一刀で薙ぎ払った。
 
「!?」
 
「すごい、、たった一回の抜刀で、、」
 
宗谷の霧で作られた無数の分身体はたったの一回の抜刀で霧散した。そして、糸音の抜刀に驚いていた宗谷は目の前に迫ってきていた糸音に気づかなかった。
 
「しまっ、、」
 
「遅い」
 
糸音は上方から針剣を一刀、振り下ろしたがこれもやはり分身体であった。
 
「もらったぞ」
 
宗谷は再び消えて同じ場所に現れると糸音の心臓目掛けて懐に隠していた短剣で突き刺す。
 
「!?」
 
しかし、それは糸音には届かず。糸音は宗谷が突き刺してきた短剣を脇腹と腕に挟んで動きを止めた。そして、糸音のもう片方の拳が宗谷の顔面に炸裂した。そのまま宗谷は後方へと吹っ飛んでいった。
 
「だから、小細工はやめろと言っただろ」
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

隔ての空

宮塚恵一
ライト文芸
突如として空に現れた謎の円。 それは世界中のどこからでも見ることのできる不思議な円で、この世界にはあの円を見える人間とそうでない人間がいて、見える人間はひどく少ない。 僕もまたあの円が見える数少ない一人だった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

秘密部 〜人々のひみつ〜

ベアりんぐ
ライト文芸
ただひたすらに過ぎてゆく日常の中で、ある出会いが、ある言葉が、いままで見てきた世界を、変えることがある。ある日一つのミスから生まれた出会いから、変な部活動に入ることになり?………ただ漠然と生きていた高校生、相葉真也の「普通」の日常が変わっていく!!非日常系日常物語、開幕です。 01

いつか『幸せ』になる!

峠 凪
ライト文芸
ある日仲良し4人組の女の子達が異世界に勇者や聖女、賢者として国を守る為に呼ばれた。4人の内3人は勇者といった称号を持っていたが、1人は何もなく、代わりに『魔』属性を含む魔法が使えた。その国、否、世界では『魔』は魔王等の人に害をなすとされる者達のみが使える属性だった。 基本、『魔』属性を持つ女の子視点です。 ※過激な表現を入れる予定です。苦手な方は注意して下さい。 暫く更新が不定期になります。

ユメ/うつつ

hana4
ライト文芸
例えばここからが本編だったとしたら、プロローグにも満たない俺らはきっと短く纏められて、誰かの些細な回想シーンの一部でしかないのかもしれない。 もし俺の人生が誰かの創作物だったなら、この記憶も全部、比喩表現なのだろう。 それかこれが夢であるのならば、いつまでも醒めないままでいたかった。

ボイス~常識外れの三人~

Yamato
ライト文芸
29歳の山咲 伸一と30歳の下田 晴美と同級生の尾美 悦子 会社の社員とアルバイト。 北海道の田舎から上京した伸一。 東京生まれで中小企業の社長の娘 晴美。 同じく東京生まれで美人で、スタイルのよい悦子。 伸一は、甲斐性持ち男気溢れる凡庸な風貌。 晴美は、派手で美しい外見で勝気。 悦子はモデルのような顔とスタイルで、遊んでる男は多数いる。 伸一の勤める会社にアルバイトとして入ってきた二人。 晴美は伸一と東京駅でケンカした相手。 最悪な出会いで嫌悪感しかなかった。 しかし、友人の尾美 悦子は伸一に興味を抱く。 それまで遊んでいた悦子は、伸一によって初めて自分が求めていた男性だと知りのめり込む。 一方で、晴美は遊び人である影山 時弘に引っ掛かり、身体だけでなく心もボロボロにされた。 悦子は、晴美をなんとか救おうと試みるが時弘の巧みな話術で挫折する。 伸一の手助けを借りて、なんとか引き離したが晴美は今度は伸一に心を寄せるようになる。 それを知った悦子は晴美と敵対するようになり、伸一の傍を離れないようになった。 絶対に譲らない二人。しかし、どこかで悲しむ心もあった。 どちらかに決めてほしい二人の問い詰めに、伸一は人を愛せない過去の事情により答えられないと話す。 それを知った悦子は驚きの提案を二人にする。 三人の想いはどうなるのか?

処理中です...