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第五章 忘却再生
第114話 修羅落ち
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一
本来ならその刃は避けれるはずだった、しかし殺気がまるで無かった為か、反応に遅れてしまい紅羽は冷たい刃に貫かれてしまった。糸音は自分の手流れてくる血の温もりを感じ我にかえる。
「あ、あ、、、く、紅羽、なんで、、こんな、、」
突如、霧が晴れて辺りが鮮明になる。そこは洞窟などではなくただのだだっ広い草原だった。紅羽は糸音の針剣から離れて横に倒れる。紅羽は心臓を貫かれ即死だった。糸音は自分の手を見る。そこにはまだ温かい紅羽の血がべっとりとついていた。
「に、兄さん、、」
糸音は声のする方を見ると縄に捕えられた椿が横たわっていた。そして糸音と紅羽を見ていた。
「ち、ちが、ちがう、、」
「な、なんで、、なんで!殺した!!」
椿は糸音に向かって激しく問いかける。
「あ、ちがう、、」
糸音の心は、もうどうしようもないぐらい、ぐちゃぐちゃにドロドロになっていた。だから逃げるという選択をしてしまった。糸音はただ逃げた、椿から紅羽から逃げた。そして走り続けて南の海岸に辿り着くと再び辺りが霧に包まれる。
「い、いったい、、なにを、したんだ私が」
「お前は殺しただろ沢山」
糸音は声のする方に目を向ける。そこには喪服の男が立っていた。そして霧の中、何処からともなく小さい無数のナイフが糸音に飛んでくる。もはや糸音は避けることができないほど精神をやられていた。そして糸音は膝をつき項垂れる。
「、、、、、」
「もはや声も出ないか。まぁいいだろう、、カスト!やれ」
「わかりました」
いつの間にか糸音の近くには男がもう一人いた。糸音は男に頭を触れられると記憶を読まれる。しかし、ここで思わぬことが起こった。突如、カストの手が何かに弾かれる。
「な、なんだ!?こいつ!」
「どうした!?カスト!」
カストはもう一度糸音の頭に手をやるが、記憶を読み取ることができなかった。
「だめです。読めません」
「なんだと!?まさか、、糸衛、、あの男、、忌々しい夕凪家が!」
「こいつ、今ので気絶しましたが、どうしますか?」
「とにかく、一度連れて行く」
「わかりました」
カストが倒れた糸音を抱えようとすると、何処からともなく刀が飛んでくる。カストは一旦、距離を置くため後退した。
「!?」
「誰だ」
少し離れた場所に黒のフードを被った仮面の人物が立っていた。仮面の人物は糸音へと近づき地面に突き刺さった刀を抜くと糸音を抱える。
「、、、、、」
「何者かは知らんがその娘を渡してもらおうか」
「、、、、、、」
ブォーーー!
「なんだ?この音は!」
音は徐々に近づいてきて、仮面の人物は海へと走り出す。すると岩の影から無人の水上バイクが現れた。それに仮面の人物は糸音を抱え飛び乗ると颯爽と海の彼方へと去って行った。
「やられたな」
「いいんですか?宗谷さん」
「あぁ、いずれまた会う。生きていれば面白いものが見れるだろう。それにしても、あいつは何者だ」
二
ルクスリアは洞窟のあった場所へ向かっていると、さっきまで無かった広い草原へと出る。
「何だここは」
しばらく歩いていると紅羽を抱えた椿が歩いてきた。
「おい!椿、大丈夫、、、!?」
ルクスリアは冷たくなった紅羽を見る。
「なにがあったんだ!?椿!」
「兄さんは死んだ」
「どういうことだ!?糸音は!」
「糸音が殺した」
「なんだと!?そんな事があるか!」
ルクスリアは椿の肩を持つとそこでようやく目があった。その瞬間、ルクスリアは絶句した。その目はドス黒く恨みに満ちた、復讐と殺意の混じる混沌に曇っていた。
「椿?」
「兄さんは連れて帰る。ねぇ、兄さん帰ろうか、私達二人のうちへ」
ルクスリアは後を追う事はできなかった、いや、それを許されていなかった。椿の目を見た瞬間に思った。お前は来るなと、ついてくれば殺すと。殺気だけでルクスリアを萎縮させてしまうほど今の椿は修羅の眼をしていた。ルクスリアは一人、草原に取り残された。
ルクスリアはその後、ジータを連れてミリオドへと戻ると椿達の家を訪ねた。しかし、ミナモだけがそこには居た。ルクスリアはミナモに事情を話すとミナモは静かに泣いていた。ナギへは手紙で紅羽の訃報を伝えた。ルクスリアはしばらく何も手につかなかった。それから半年が経った頃、詩織がふらっとミンダルにやってきた。二人の事を話すと詩織は静かに俯き一旦、家を出ていった。ルクスリアは心に大きな傷を負ったが詩織の助けもあって、なんとか仕事もできるようにもなった。詩織が去った後、ジータとミナモと三人でたまに呑んでは紅羽の話をしていた。ルクスリアは一つだけ気掛かりな事があった。それは椿の事だった。あれから椿はどこへ行ったのかもわからなかった。ある日、京へ行った時にかつての家を訪ねてみたが家は無くなっていた。代わりに墓が建てられていた。そこには紅羽の名前が彫られていた。糸音もどこへ行ったのかわからない。ヘイオーをくまなく探してみたり、京の街でも捜索したが全く手掛かりはなかった。やがてルクスリアのもとに糸音が死んだという情報が入る。
そして、糸音は仮面の人物に連れ去られた約一年後、ある雨の日の夜、ツグハと再開する。
三
椿は紅羽を連れて京の家に帰っていた。そして紅羽と一日中ゆっくりと過ごした。一緒にご飯を食べたり、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、一緒にお話していた。その夜、紅羽をリビングに横たわらせて家に火を放った。
「兄さん、、今日は楽しかったよ、、久しぶりに家に帰れたしね、、、ああ、、うん、、もうじき誕生日だったよね、、、お祝いしなくちゃね、、、うん、、、、大丈夫、、、あの女は私が殺すから」
椿は燃え盛る家を背に復讐を誓った。
第五章 忘却再生 閉幕 第六章 修羅夢語
本来ならその刃は避けれるはずだった、しかし殺気がまるで無かった為か、反応に遅れてしまい紅羽は冷たい刃に貫かれてしまった。糸音は自分の手流れてくる血の温もりを感じ我にかえる。
「あ、あ、、、く、紅羽、なんで、、こんな、、」
突如、霧が晴れて辺りが鮮明になる。そこは洞窟などではなくただのだだっ広い草原だった。紅羽は糸音の針剣から離れて横に倒れる。紅羽は心臓を貫かれ即死だった。糸音は自分の手を見る。そこにはまだ温かい紅羽の血がべっとりとついていた。
「に、兄さん、、」
糸音は声のする方を見ると縄に捕えられた椿が横たわっていた。そして糸音と紅羽を見ていた。
「ち、ちが、ちがう、、」
「な、なんで、、なんで!殺した!!」
椿は糸音に向かって激しく問いかける。
「あ、ちがう、、」
糸音の心は、もうどうしようもないぐらい、ぐちゃぐちゃにドロドロになっていた。だから逃げるという選択をしてしまった。糸音はただ逃げた、椿から紅羽から逃げた。そして走り続けて南の海岸に辿り着くと再び辺りが霧に包まれる。
「い、いったい、、なにを、したんだ私が」
「お前は殺しただろ沢山」
糸音は声のする方に目を向ける。そこには喪服の男が立っていた。そして霧の中、何処からともなく小さい無数のナイフが糸音に飛んでくる。もはや糸音は避けることができないほど精神をやられていた。そして糸音は膝をつき項垂れる。
「、、、、、」
「もはや声も出ないか。まぁいいだろう、、カスト!やれ」
「わかりました」
いつの間にか糸音の近くには男がもう一人いた。糸音は男に頭を触れられると記憶を読まれる。しかし、ここで思わぬことが起こった。突如、カストの手が何かに弾かれる。
「な、なんだ!?こいつ!」
「どうした!?カスト!」
カストはもう一度糸音の頭に手をやるが、記憶を読み取ることができなかった。
「だめです。読めません」
「なんだと!?まさか、、糸衛、、あの男、、忌々しい夕凪家が!」
「こいつ、今ので気絶しましたが、どうしますか?」
「とにかく、一度連れて行く」
「わかりました」
カストが倒れた糸音を抱えようとすると、何処からともなく刀が飛んでくる。カストは一旦、距離を置くため後退した。
「!?」
「誰だ」
少し離れた場所に黒のフードを被った仮面の人物が立っていた。仮面の人物は糸音へと近づき地面に突き刺さった刀を抜くと糸音を抱える。
「、、、、、」
「何者かは知らんがその娘を渡してもらおうか」
「、、、、、、」
ブォーーー!
「なんだ?この音は!」
音は徐々に近づいてきて、仮面の人物は海へと走り出す。すると岩の影から無人の水上バイクが現れた。それに仮面の人物は糸音を抱え飛び乗ると颯爽と海の彼方へと去って行った。
「やられたな」
「いいんですか?宗谷さん」
「あぁ、いずれまた会う。生きていれば面白いものが見れるだろう。それにしても、あいつは何者だ」
二
ルクスリアは洞窟のあった場所へ向かっていると、さっきまで無かった広い草原へと出る。
「何だここは」
しばらく歩いていると紅羽を抱えた椿が歩いてきた。
「おい!椿、大丈夫、、、!?」
ルクスリアは冷たくなった紅羽を見る。
「なにがあったんだ!?椿!」
「兄さんは死んだ」
「どういうことだ!?糸音は!」
「糸音が殺した」
「なんだと!?そんな事があるか!」
ルクスリアは椿の肩を持つとそこでようやく目があった。その瞬間、ルクスリアは絶句した。その目はドス黒く恨みに満ちた、復讐と殺意の混じる混沌に曇っていた。
「椿?」
「兄さんは連れて帰る。ねぇ、兄さん帰ろうか、私達二人のうちへ」
ルクスリアは後を追う事はできなかった、いや、それを許されていなかった。椿の目を見た瞬間に思った。お前は来るなと、ついてくれば殺すと。殺気だけでルクスリアを萎縮させてしまうほど今の椿は修羅の眼をしていた。ルクスリアは一人、草原に取り残された。
ルクスリアはその後、ジータを連れてミリオドへと戻ると椿達の家を訪ねた。しかし、ミナモだけがそこには居た。ルクスリアはミナモに事情を話すとミナモは静かに泣いていた。ナギへは手紙で紅羽の訃報を伝えた。ルクスリアはしばらく何も手につかなかった。それから半年が経った頃、詩織がふらっとミンダルにやってきた。二人の事を話すと詩織は静かに俯き一旦、家を出ていった。ルクスリアは心に大きな傷を負ったが詩織の助けもあって、なんとか仕事もできるようにもなった。詩織が去った後、ジータとミナモと三人でたまに呑んでは紅羽の話をしていた。ルクスリアは一つだけ気掛かりな事があった。それは椿の事だった。あれから椿はどこへ行ったのかもわからなかった。ある日、京へ行った時にかつての家を訪ねてみたが家は無くなっていた。代わりに墓が建てられていた。そこには紅羽の名前が彫られていた。糸音もどこへ行ったのかわからない。ヘイオーをくまなく探してみたり、京の街でも捜索したが全く手掛かりはなかった。やがてルクスリアのもとに糸音が死んだという情報が入る。
そして、糸音は仮面の人物に連れ去られた約一年後、ある雨の日の夜、ツグハと再開する。
三
椿は紅羽を連れて京の家に帰っていた。そして紅羽と一日中ゆっくりと過ごした。一緒にご飯を食べたり、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、一緒にお話していた。その夜、紅羽をリビングに横たわらせて家に火を放った。
「兄さん、、今日は楽しかったよ、、久しぶりに家に帰れたしね、、、ああ、、うん、、もうじき誕生日だったよね、、、お祝いしなくちゃね、、、うん、、、、大丈夫、、、あの女は私が殺すから」
椿は燃え盛る家を背に復讐を誓った。
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