22 / 199
第二章 妙縁邂逅
第21話 歯車(狂)
しおりを挟む
京の街、カンナギで依頼を終わらせた糸見は憂鬱な気持ちになっていた。
「ボス、これで全部ですかね」
「あぁ、シーバの方も終わったみたいだ。すぐに合流しよう」
糸見はこのままでいいのか迷っていた。悪をひたすらに葬り続ける日々。終わりのない連鎖。力で悪をねじ伏せるのは果たして正しいのか、自分には完全な正義が無いのではと思いはじめていた。
「ん?霧がでてきたな」
「ボス、気をつけてください」
すると、霧の中から一人の男が現れた。黒い喪服で見るからに悪が放つ雰囲気。男が指を鳴らすとフィは霧の中に消えた。
「フィ!貴様、何をした!?」
「お前はそれでいいのか?」
男は唐突に糸見に問いかける。
「何の話だ?貴様は誰だ!」
糸見はわかっていた。男が何について問いかけたのかを、しかしそれを認めるのは自分の正義に反することだと。
「力が欲しいなら手にすればいい。私の依頼を受ける代わりに力を貸してやろう」
「生憎、悪党に依頼されるほど、我々は落ちぶれてはいない」
「私が悪党に見えると?」
「あぁ、貴様からは悪党の放つ臭いが漂いすぎてるくらいだぜ」
「失礼な奴だな。しかし間違ってはいない。ぶれない様に自身の信念か正義かを持っているのだろう。素晴らしい事だ。だがそれだけでは救えない者もいるだろう」
「悪党に説法される筋合いはないね」
「一つ問おう。ならお前は我々を救えるか?」
「救ってほしいなら、最初から悪さをするなって事だな」
「だめだな。それでも本当に夕凪糸衛の弟子か」
糸見は驚いた。その名はもう聞く事がないであろうと思っていた。
「本当に何者だ貴様。我が師を知っているのか?」
「あぁ、よく知っている。だからこそわかる奴の理想もな」
「師匠の理想だと?」
「奴はな、あろう事か悪すらも救うことができると信じて行動していた男だ。終わりのない悪と善の拮抗を崩して、あまつさえ悪を善に塗り替えようとしていた。私は思うのだよ。果たして本当に悪がなくなって世界は救われるのか?悪と善のバランスが均等になっているからこそ世界は成り立っているとではと。ならそれを壊す事は悪ではないのか。どちらかに天秤が傾けば世界のバランスは崩れて終わるのでは。それを調整するのが正義の仕事なのではと。ならば世界を壊しているのは貴様達正義ではないのかと」
「戯言をペラペラと、世界のバランスだと?悪を葬り世界平和を願うのが正義だろ」
「所詮は綺麗事だ。お前は薄々感じているはずだ。悪を裁き、正義をなす事が本当の正義なのか疑問を抱いている。では、なりたくてなった悪もいないと言い切れるのか?お前は」
「それは、、」
「元々は善だった者も悪に転ずる。悪だった者も善に転ずる。もし悪が善になる手前でそれをお前達の勝手な正義で殺したとしたら?それをお前は正義と言えるか?」
「なら、私たちがやってきた事は間違いだと」
「間違いではない。それも大事なバランスを取るために必要な事だ、しかしそれでは足りない、殺さず生かす事が大事な事だ。ならそれを殺している貴様は悪では?」
「私が悪、、」
「それにお前にはまずやる事があるのでは、忘れてはならない事があるだろ。力を独占してあまつさえ正義という武器で悪に振りかざしている世界を殺す元凶夕凪家を」
男の言葉は不思議と徐々に心に浸透していく。その時糸見の中で何かが外れた。
「お前が真の正義を貫くなら。善悪の区別はもうつくな」
「悪は許さない。ただそれだけだ」
「では夕凪家は悪か?」
「夕凪家、、夕凪志貴」
「奴はお前に何をした?過去にあっただろ、救えた筈の命をも見捨てた悪だ、この世を、脅かす悪だ」
「奴は許さない。薄れかけていた復讐なるものを、そして奴が悪になったのなら殺すには十分な理由だ」
男は糸見にある物を渡す。
「これは?」
「それであの男の力を封じれる。お前の師匠に貰ったものだ。奴が保有している天与核。力を与える神物、それが夕凪家にはある」
「何故貴様がこれを持っているのかは聞かんが、これは貰っておく。我らは夕凪家を頂きその力を解放する」
「忘れるな本物の正義を」
男は霧と共に消えた。
「ボス!大丈夫ですか!?」
「あぁ、フィ。正義とは何かわかるか?」
「え?そうですね。守る心ですかね」
「それも合っているが、もっと言えば。真の世界平和だ」
第二章 妙縁邂逅 閉幕 第三章 幽愁暗恨へ
「ボス、これで全部ですかね」
「あぁ、シーバの方も終わったみたいだ。すぐに合流しよう」
糸見はこのままでいいのか迷っていた。悪をひたすらに葬り続ける日々。終わりのない連鎖。力で悪をねじ伏せるのは果たして正しいのか、自分には完全な正義が無いのではと思いはじめていた。
「ん?霧がでてきたな」
「ボス、気をつけてください」
すると、霧の中から一人の男が現れた。黒い喪服で見るからに悪が放つ雰囲気。男が指を鳴らすとフィは霧の中に消えた。
「フィ!貴様、何をした!?」
「お前はそれでいいのか?」
男は唐突に糸見に問いかける。
「何の話だ?貴様は誰だ!」
糸見はわかっていた。男が何について問いかけたのかを、しかしそれを認めるのは自分の正義に反することだと。
「力が欲しいなら手にすればいい。私の依頼を受ける代わりに力を貸してやろう」
「生憎、悪党に依頼されるほど、我々は落ちぶれてはいない」
「私が悪党に見えると?」
「あぁ、貴様からは悪党の放つ臭いが漂いすぎてるくらいだぜ」
「失礼な奴だな。しかし間違ってはいない。ぶれない様に自身の信念か正義かを持っているのだろう。素晴らしい事だ。だがそれだけでは救えない者もいるだろう」
「悪党に説法される筋合いはないね」
「一つ問おう。ならお前は我々を救えるか?」
「救ってほしいなら、最初から悪さをするなって事だな」
「だめだな。それでも本当に夕凪糸衛の弟子か」
糸見は驚いた。その名はもう聞く事がないであろうと思っていた。
「本当に何者だ貴様。我が師を知っているのか?」
「あぁ、よく知っている。だからこそわかる奴の理想もな」
「師匠の理想だと?」
「奴はな、あろう事か悪すらも救うことができると信じて行動していた男だ。終わりのない悪と善の拮抗を崩して、あまつさえ悪を善に塗り替えようとしていた。私は思うのだよ。果たして本当に悪がなくなって世界は救われるのか?悪と善のバランスが均等になっているからこそ世界は成り立っているとではと。ならそれを壊す事は悪ではないのか。どちらかに天秤が傾けば世界のバランスは崩れて終わるのでは。それを調整するのが正義の仕事なのではと。ならば世界を壊しているのは貴様達正義ではないのかと」
「戯言をペラペラと、世界のバランスだと?悪を葬り世界平和を願うのが正義だろ」
「所詮は綺麗事だ。お前は薄々感じているはずだ。悪を裁き、正義をなす事が本当の正義なのか疑問を抱いている。では、なりたくてなった悪もいないと言い切れるのか?お前は」
「それは、、」
「元々は善だった者も悪に転ずる。悪だった者も善に転ずる。もし悪が善になる手前でそれをお前達の勝手な正義で殺したとしたら?それをお前は正義と言えるか?」
「なら、私たちがやってきた事は間違いだと」
「間違いではない。それも大事なバランスを取るために必要な事だ、しかしそれでは足りない、殺さず生かす事が大事な事だ。ならそれを殺している貴様は悪では?」
「私が悪、、」
「それにお前にはまずやる事があるのでは、忘れてはならない事があるだろ。力を独占してあまつさえ正義という武器で悪に振りかざしている世界を殺す元凶夕凪家を」
男の言葉は不思議と徐々に心に浸透していく。その時糸見の中で何かが外れた。
「お前が真の正義を貫くなら。善悪の区別はもうつくな」
「悪は許さない。ただそれだけだ」
「では夕凪家は悪か?」
「夕凪家、、夕凪志貴」
「奴はお前に何をした?過去にあっただろ、救えた筈の命をも見捨てた悪だ、この世を、脅かす悪だ」
「奴は許さない。薄れかけていた復讐なるものを、そして奴が悪になったのなら殺すには十分な理由だ」
男は糸見にある物を渡す。
「これは?」
「それであの男の力を封じれる。お前の師匠に貰ったものだ。奴が保有している天与核。力を与える神物、それが夕凪家にはある」
「何故貴様がこれを持っているのかは聞かんが、これは貰っておく。我らは夕凪家を頂きその力を解放する」
「忘れるな本物の正義を」
男は霧と共に消えた。
「ボス!大丈夫ですか!?」
「あぁ、フィ。正義とは何かわかるか?」
「え?そうですね。守る心ですかね」
「それも合っているが、もっと言えば。真の世界平和だ」
第二章 妙縁邂逅 閉幕 第三章 幽愁暗恨へ
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
いつか『幸せ』になる!
峠 凪
ライト文芸
ある日仲良し4人組の女の子達が異世界に勇者や聖女、賢者として国を守る為に呼ばれた。4人の内3人は勇者といった称号を持っていたが、1人は何もなく、代わりに『魔』属性を含む魔法が使えた。その国、否、世界では『魔』は魔王等の人に害をなすとされる者達のみが使える属性だった。
基本、『魔』属性を持つ女の子視点です。
※過激な表現を入れる予定です。苦手な方は注意して下さい。
暫く更新が不定期になります。
秘密部 〜人々のひみつ〜
ベアりんぐ
ライト文芸
ただひたすらに過ぎてゆく日常の中で、ある出会いが、ある言葉が、いままで見てきた世界を、変えることがある。ある日一つのミスから生まれた出会いから、変な部活動に入ることになり?………ただ漠然と生きていた高校生、相葉真也の「普通」の日常が変わっていく!!非日常系日常物語、開幕です。
01
ユメ/うつつ
hana4
ライト文芸
例えばここからが本編だったとしたら、プロローグにも満たない俺らはきっと短く纏められて、誰かの些細な回想シーンの一部でしかないのかもしれない。
もし俺の人生が誰かの創作物だったなら、この記憶も全部、比喩表現なのだろう。
それかこれが夢であるのならば、いつまでも醒めないままでいたかった。
ボイス~常識外れの三人~
Yamato
ライト文芸
29歳の山咲 伸一と30歳の下田 晴美と同級生の尾美 悦子
会社の社員とアルバイト。
北海道の田舎から上京した伸一。
東京生まれで中小企業の社長の娘 晴美。
同じく東京生まれで美人で、スタイルのよい悦子。
伸一は、甲斐性持ち男気溢れる凡庸な風貌。
晴美は、派手で美しい外見で勝気。
悦子はモデルのような顔とスタイルで、遊んでる男は多数いる。
伸一の勤める会社にアルバイトとして入ってきた二人。
晴美は伸一と東京駅でケンカした相手。
最悪な出会いで嫌悪感しかなかった。
しかし、友人の尾美 悦子は伸一に興味を抱く。
それまで遊んでいた悦子は、伸一によって初めて自分が求めていた男性だと知りのめり込む。
一方で、晴美は遊び人である影山 時弘に引っ掛かり、身体だけでなく心もボロボロにされた。
悦子は、晴美をなんとか救おうと試みるが時弘の巧みな話術で挫折する。
伸一の手助けを借りて、なんとか引き離したが晴美は今度は伸一に心を寄せるようになる。
それを知った悦子は晴美と敵対するようになり、伸一の傍を離れないようになった。
絶対に譲らない二人。しかし、どこかで悲しむ心もあった。
どちらかに決めてほしい二人の問い詰めに、伸一は人を愛せない過去の事情により答えられないと話す。
それを知った悦子は驚きの提案を二人にする。
三人の想いはどうなるのか?
雪町フォトグラフ
涼雨 零音(すずさめ れいん)
ライト文芸
北海道上川郡東川町で暮らす高校生の深雪(みゆき)が写真甲子園の本戦出場を目指して奮闘する物語。
メンバーを集めるのに奔走し、写真の腕を磨くのに精進し、数々の問題に直面し、そのたびに沸き上がる名前のわからない感情に翻弄されながら成長していく姿を瑞々しく描いた青春小説。
※表紙の絵は画家の勅使河原 優さん(@M4Teshigawara)に描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる