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しおりを挟む個室に移ってから、楓の病状は安定していた。
相変わらず、自分を男だと思い込む事で身を護っている。
医師らもそれは良い状態でないと判断して居たが、下手に女と認識させるとまた楓の精神は崩壊する。
ひとまず、安定している日を増やそう。
そう、楓の母親と決めた。
2019年5月19日
医師らはこのままでは変わらない、1度、真実を伝えてみようと楓に自分が女である事を伝えた。
今まで、入浴時は鏡のない場所だった。
ナースも監視していた。
それは他の患者も同じ事。
自殺行為をされたら困るから。
鏡の前で楓の服を脱がせて、女である事を認識させようとしたが、楓は壊れた。
違う、違う、違う。
これは、俺じゃない。俺は俺だ、男だ。
楓は鏡に頭を打ち付け、自分が映らないほど鏡を破壊した。
医者やナースが止めに入るのも虚しく、何度も、何度も、楓は鏡に頭を打ち付ける。
翌日、彼女は閉鎖病棟へと隔離された。
年が明けても彼女の病状は改善されなかった。
気分を変えようと、2020年1月28日 一般病棟の個室へと移された。
楓は何がトリガーで壊れるのか、まだ、誰もわからない。
しばらく、個室で楓は穏やかに過ごした。
再び、自分は男だと言い張り、事件の事は忘れている。
何故、ここにいるか分かるかと問えば、
分からないが、何処かおかしいんでしょ?
と、逆に聞かれる。
そんな日々を繰り返していたある日、
楓はふらふらと病室を抜け出した。
安定しているので、医師もナースも皆、油断していた。
丁度、隣の部屋の患者が騒ぎを起こしていた。
ナースが自分を叩いたとか、蹴ったとか、被害妄想の症状が出ていた。
楓はふらふらと窓を開けてそこから飛び降りた。
普通、窓は開かない。
その日は窓の故障か、医師かナースの不手際か、窓が開いてしまった。
暗く、寂しい、廊下の窓だった。
コンクリートに打ち付けられた楓。
目の前が真っ赤に染まる。
次第にその赤は白へ黒へと変わり、楓の意識は無くなった。
遠くで、誰かの悲鳴が聞こえだが、楓の表情は穏やかだった。
痛みも感じない。
ようやく、楽になれる。
楓はそう思った。
お母さん、お父さん、こんな娘でごめんね。
最期を感じたのか、何があったのか、楓は自身を女と認識していた。
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