愛を食べる

三矢由巳

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12 無人販売所についてのあれこれ

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 無人販売所。
 田舎の道路沿いによく設置されている。屋根付きで、お金を入れる鍵付きの箱が置かれている。野菜や果物が一つまたは一袋100円で販売されている。いちごやみかん、すいか等は100円とは限らない。
 その日の朝採ったもので味は問題ないが、市場に出荷できないものなどが並んでいる。
 我が家ではよく利用する。野菜が高騰している折は本当にありがたい。
 特に夫は果物の無人販売に目がない。いちご、みかん、すいか等、とにかく目に入るとチェックしている。
 ある年の冬、しばらくの間、車で三十分以上かかる場所に仕事で行かなければならなくなったことがあった。仕事場所へ通う道路脇にみかんの無人販売所があり、一度そこで一袋買ったところ、ものすごくうまかったらしく、みかんがある日は必ず買って仕事の行き帰りや昼食後に食べていた。一袋全部である。
 結果、体重が二キロほど増えたことがある。みかんは1個あたり約34キロカロリーあるという。袋には中ぐらいのサイズが十個ほど入っていたので340キロカロリー。ご飯は茶碗一杯で269キロカロリーというからご飯一杯以上、いつもより余分に食べていた計算になる。
 いくらおいしくても、ものには限度があると思うのだが。



 ただ、無人販売所の商品にはたまに外れがある。特にすいか。
 売り物にならないけれど、中身は甘い物が多いはずだが、ちょっとこれはどうだろうというものもある。実際、そういうすいかを500円で買ってしまったことがある。食べるたびに失敗したと思った。
 夫は皮を漬物にすればいいと言って、食べ終わった後、歯型の残る内側と外側の堅い皮を切り捨ててビニール袋に粗塩と一緒に入れ冷蔵庫へ。翌朝にはすいかの塩漬けが出来上がって、朝食のおともになった。



 この無人販売所、場所によってはまったくない地域もある。
 連休に県外に車で泊りがけで旅行した時、全然見当たらないことがあった。
 その地域の名産の果物の時期なので、あるかと期待していた夫はがっくりしていた。
 やはり無人ということで、金を払わずに野菜だけ持っていく不心得者がいるのだろう。残念なことである。
 無人販売所がある田舎は不心得者が少ない地域ということかもしれない。




 まだ舅が健在の頃、夫の実家へ行く途中に無人販売所が一か所あった。
 立ち寄る人が多く、見かけた時に買わないと後で通ったら何もなかったと言うことがよくあった。
 そこへ寄って野菜を買って夫の実家に持って行くことがあった。何を買ったかも忘れてしまったけれど。
 焼酎のお湯割りのコップを前にしてたばこをくゆらせる舅は嬉しそうだった。
 姑もお茶とお菓子を出してくれた。
 わずか数百円の野菜を持って嫁が一人で来て数時間したら帰ってしまうのに、二人は楽し気だった。
 時には昔話をすることもあった。舅がつい口を滑らせて若い頃に盛り場で遊んだ話をした時には、姑が舅を叱っていたこともあった。
 墓参りのためにあの販売所の前を通る時、そんなちょっとしたことが思い出される。


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