愛を食べる

三矢由巳

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15 ホームベーカリー

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 我が家にはホームベーカリーがある。
 パン焼き器である。でもケーキも餅もパスタも作れるのでパン以外の用途で使うことが最近は多い。



 手作りパン、なかなかいい響きである。
 実際、自分で作ってみると店の物とは違う味わいがある。添加物も入れないので、健康にはいいかもしれない。
 だが、材料を見ると、おいしいパンを作るには結構いろいろ加えないといけない。
 イースト、これは当然。小麦粉(強力粉)も。
 塩、砂糖、バター、スキムミルクも。水も適量を用意。夏は冷蔵庫で冷やしておく。高温で発酵しすぎないように。
 スキムミルクは以前は大きな袋に入った物しかなくて、パン以外の用途(シチューに入れる等)に利用しても全部使いきる前に湿気ってしまった。最近はホームベーカリー用に小分けにした物がスーパーに置いてある。
 塩分については、高血圧等で制限のある人は塩を入れないで作る人もいるらしい。実際手製のパンを食べ慣れると、市販のパンは結構塩辛いように感じる。
 バター。これがないとおいしくならない。だが、脂肪の摂り過ぎの危険がある。私も実はホームベーカリーを使うようになってから、体脂肪率が増えたので、パン食は少し控えている。
 考えてみれば、米の飯を炊く時にバターなんて入れない。脂肪の摂り過ぎを防ぐにはパンは避けたほうがいいかもしれない。
 これらの材料を使えば4時間(早焼きは2時間)でパンが焼き上がる。
 でも、こういう材料をそろえなくても、ホームベーカリー用の粉(小麦粉はおろかバター、ミルク、砂糖、塩すべて入り)とドライイーストのセットもある。これを使えば、加える水や牛乳の量を間違えない限りおいしいパンが出来上がる。
 粉もソフトパン用、フランスパン用等があり米粉を使ったものもある。ネットで安価なものを探して買えば材料をすべてそろえるより安くつくこともある。



 まるで家電メーカーの回し者のようなことを書いたが、実際ホームベーカリーは便利でよほど迂闊なことをしない限り、ちゃんと食べられる物が出来上がる。
 そう迂闊なことをしない限りは……。



 購入から一ケ月ほどたち、パン作りに少しだけ慣れてきた頃。製品に添付されてる取扱説明書に載ってるレシピに挑戦するようになった。食パンだけでなくレーズン入りのパンやケーキ、蒸しパンが作れるようになったので、ワンランク上の珍しいものに挑戦することに。
 それはライ麦パン。ライ麦粉が近所のスーパーに売っていたのだ。
 食物繊維が豊富そうだし、あまりパン屋には売っていないしということで早速作った。
 強力粉とライ麦粉を同量入れて、バター、砂糖、塩、無糖のプレーンヨーグルト(これだけが他と違う)、冷水(いつもより少ない)をパンケースに入れ、ドライイーストをイースト容器にセットしてメニューでライ麦を選択、スタート。5時間で出来上がり。
 いつもより時間がかかったけれど、おやつに間に合う時間帯に完成した。
 ふたを開けた。
 ん? んんん? なんだか低い。
 ライ麦パンはライ麦粉の割合が多くなるほどパンの高さが低くなると書いてあったけど、低過ぎないか?
 パンケースの半分の高さしかないぞ。
 こういうものなんだろうか。
 不審に思いながら、手を火傷しないようにパンを網の上に裏返した。
 こんなものかと思い、カットするために底から攪拌用の羽根を取り除いた。

 はあああああ?
 なんじゃこりゃあ!!!

 松田○作(古い……)みたいな叫び声が出てしまった。
 金属製の羽根に赤紫っぽい毒々しい色の物が引っかかっていた。
 よく見ればそれは乾燥剤っぽい。
 はっとしてライ麦粉の袋を見た。
 乾燥剤を入れないようにという注意書きがあああああ!
 ぬかったあああああ!
 小麦粉の袋には乾燥剤は入っていない。だからライ麦粉も同じような感じで計量して使ってしまったのだ。
 なんたること!
 なんたる失態!
 恐る恐るかけらを口に入れた。
 まずい!
 食べ物の味じゃない。
 すぐに口から出した。
 攪拌用の羽根で袋が破れて中身が出たらしい。
 だから膨れなかったのか。
 以来、我が家ではライ麦パンは作っていない。



 そんな失敗もあったけれど、今でも重宝している。
 ネット上でレシピを調べて、山芋を入れてかるかんも作った。
 餅も作った。
 前の晩に材料を仕込んでタイマー予約すれば朝に食パンが焼き上がる。
 購入してから8年たつが、パン羽根を交換しただけで、機械に異常はない。新製品が出ているけれど、まだまだ現役で使える。
 炊飯器のように毎日使う物ではないけれど、パンが好きな人にとっては便利な家電だと思う。
 


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