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星降る夜に☆

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(四大聖神の日常編)


「でさー、そこでヴェスパ神がずっこけてさ…!」

「…それは寒いな…」


今日は休日。
久しぶりにのんびりできるので、アリルはラルバリタ城ジャミルの家に遊びに来ていた。


城門に迎えに出ていたジャミルと共に居間に入れば、中から明るい話し声が聞こえて来た。


「お客さん?」


「…いや、今日は誰か来るとは聞いてないな。

ラケディアが誰かと話してるんだろ」



その言葉の通り、声の主はラケディアとティニアだった。

「あ、お兄ちゃん!いらっしゃい!」


「アリルさまっ、こんにちは」


「やぁ、ティニア、ラケディア」


「おい、ラケディア。
アリルに何か飲み物出してやってくれ。
オレの部屋に行くからさ」


「え~?

今、ティニアさまと読書中だもん。

ジャミルが出してあげてよ」


「…お前の兄貴だろ」



ブツブツ言いながらも、結局は自分でやる辺りどうやらジャミルは奥さまに頭が上がらない様だ。


仕方なしに、オレンジジュースをコップに汲み、アリルに渡す。


「…所で、2人とも何読んでるんだ?」


「秘密ーっ」


「アリルさまにはお話できませんわ」


アリルの言葉に、「ねーっ」と笑顔でスルーする2人。

「別に良いじゃねぇか、教えろよ」


「ジャミルとお兄ちゃんは、お部屋に行くんでしょ?


もぉっ!早く行きなさいよ」


「さっきから生意気なんだよ!お前はっ」


「べぇ~!」


「…ちょっと待て。コレは…!」


ジャミル夫妻が言い合いしている隙に、アリルはテーブルに置かれていた本を一冊手にとる。



「…あっ!」



女性陣が声を上げるも、時は遅し。
パラパラ、と中を流し読みする男性陣は、内容を把握するなり唖然としていた。


「おま…!

何、こんな本を真っ昼間から読んでんだよ!」


「良いじゃないですか、ジャミルどの。

今、貴族の女性の間では流行ってますのよ?

皆様、興味ありますし…。ご存知なくて?」


「いや、しかし…」


婚約者の隠れた趣味を知り、何とも言えない表情のアリル。


「そう言うジャミルやお兄ちゃん達だって、こういう本位読むじゃない。

私、知ってるんだから」


1枚上手とばかりに、ドヤ顔で反論する。
ラケディアのナイスアシストに、ティニアもウンウンと頷く。
どうやら彼女も賛同の様だ。


「バカ。そう言う事をここで言うんじゃない」


「そうだぞ。
ー…そもそも、僕らが読むのはこんな生温く無いぞ?なぁ?」


「…お前もそう言う事を言うなよ…」


ラケディアの発言をたしなめるも、頼りのアリルが明後日の方向のボケをかますので収拾がつかない。


「…まぁ!

アリルさまったら、普段そんなお話されないから存じませんでしたわ。

ぜひ、お話をお聞かせ下さいませ」


意外な暴露話を聞かされても全く動じない婚約者(寧ろ食い付いた)に、アリルも逃げ腰になっている。


「いや、そんな大層な内容じゃ無いし…」


「え~!聞きたーいっ!お兄ちゃんの性癖っ」


「性癖言うなーっ!」



キャッキャと賑やかに猥談混じりの会話が繰り広げられ、愉しげな女性陣を尻目に、男性陣はグッタリしていた。


「ジャミル、女性はやっぱりタフだね…」


「男は所詮、ヘタレなんだよ。アリル…」


***
数日後。


恒例の満月の夜の密会の場に着いたアリル。

いつもはアリルの方が先に到着しているのだが、珍しくセリアが待ち構えていた。


「こんばんは、陛下」


「アリル神、こんばんは」


「珍しいね、陛下の方が早いなんて」


「うふふっ。今日は早く仕事が終わったのよ?たまには私が、待つのも良いじゃない」


楽しそうに笑えば、月の光に濡れた様な黒髪が艶やかに踊る。


その様を、目を細め見つめるアリル。



ふと、先日のティニアの言葉が頭を掠める。



ー…貴族の女性の間では流行ってますのよ?皆様、興味ありますし…ー



(まさか…、な)


一抹の不安を振り払う様に軽く頭を振る。


「…セリア」

「ん?どうしたの?アリル」


…いきなり、こんな事を聞いたら。只の変態か或いはドン引きされるだけか。

躊躇よりも好奇心に近い不安に負け、考えを言葉へと形にする。



「あのさ、ティニアに聞いたんだけど、そらの姫君達の間では…。

…その。


男女の睦み合う様を描いた小説が流行っているらしいんだ。


…やっぱり、セリアも興味あったりするの?」



突然の質問に、思わず大きな瞬きをする。


その後、しどろもどろに返事をするのだが。


「え゛っ…、と。


興味…、はあるけど…。

私にはまだ、早いから。



…その、読んだ事はまだ無いわ」



質問の意図が汲み取れないまでも、モジモジしながら返事を返す。


だが…。



「?どうした?」



予想していた様な、怪訝そうな表情とは真逆な、今にも泣きそうな女王。

逆にアリルが怪訝そうに眉を潜めてしまう。


「…やっぱり、男の人ってそう言う事にある程度、慣れた女性の方が良いの?」



お子ちゃまな自分では嫌なのか。



そう問いかけたセリアの表情が余りにも不安に揺れていて、アリルは思わず吹き出してしまう。


「酷いっ!」


「ゴメン…ゴメン。違う、バカにしたんじゃないよ」


不安げな表情から一転。憤怒した表情のセリアを、なだめる様に頭を撫でてやる。


…最も、コレも取り様によってはお子ちゃま扱いになるのだが。


幸いにも頭を撫でられ、セリアの怒りは収まったようだ。



「ぼく個人からすれば、余りにも明け透けな人より、奥ゆかしい人の方が好き、かな?

…セリアはそのままのセリアでいて欲しいよ」


「…ホント?」



不安な気持ちを払拭された、晴れ晴れとした表情。
まだまだ、男女の色めいた話は不似合いな彼女。


…色に染まっていないのなら。

自身の色に染めてみたいという興味にそそのかされそうになる。


無垢な彼女に申し訳なくなる位、アリルは自分が「男」である事を思い知らされた。


「…今日は、もう帰ろう。送って行くよ」


「…どうして?私、何か怒らせちゃった?」


「…違う。そうじゃない。このままいたら、無邪気な子猫を食べたくなる」


ぼくはオオカミだから。



大真面目に、真顔で言うのは「神の代行者」たるアリル。


その不釣り合いなギャップに、今度はセリアが吹き出した。


「…何だよっ!」


「ちがっ…!だって、アリル、真顔でオオカミさんとか言うんだもんっ」


収まらない笑い声を「もう良いよ」と、やや拗ねた様子で眺めるアリル。

そんな無邪気な彼女の笑顔は、何物にも変えがたい癒しだ。


昼間の女王の尊厳さからは想像もつかないあどけなさ。


護りたい、大切な宝物。



いつからその想いが募り出したのかはわからないが、アリルは時間ときが赦す限りその笑顔を護りたいと、大切に心にしまっていた。

   

(初出:2011.07.26)
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