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13番目の苔王子に嫁いだらめっちゃ幸せになりました 【side A】
2 まともな姉弟愛ください
しおりを挟むシャルルは実際のところ…かなり問題アリの男である。
しかしそれを誰も気づいていない。
いや――シャルルの側近らは知っているのかもしれないが。
わたしが知る中で一番美しい人間――実弟シャルルの恋愛対象は完全に男性だ。
つまりあの子はゲイなのである。
もっと細かい性事情までは把握してないけれど。
わたし個人としては別に本人の嗜好と、まあ…お付き合いのお相手はどうこう言うべきではないと考えている。
でも、お父様は違う。
「アリシア、後継者を決めようと思う。お前は優秀だが、一応男子だからシャルルも加える。あの子はあまり乗り気じゃないようだから、間違いなくお前が勝つに違いないが…まあ取り敢えずやり遂げてみてくれ」
齢八歳でお父様に告げられてから十年間、ありとあらゆることに頑張った。
眠る間も惜しみ学校ばかりでなく後継者としての領地経営云々についての勉強も、だ。
『(あら?)意外に苦労せずシャルルがそれにちょこんと付いてきたな』
と思っていたらその後軽々とわたしのすべてを抜き去った。
(え?どういう事?)
そう思うわたしにシャルルは少し申し訳なさそうに
「ふふ…ごめん。僕姉さまの後について行くのちょっと飽きちゃった。…出来ないふりもね」
と天使の微笑みを浮かべながらあっけらかんと言った。
「姉さまはさ…まあまあ優秀って言われているけど、生き残っていくには人が好過ぎるよね。もっとさ、ズルくならないとヘイストン家はこれから生き残れないよ?」
わたしは唖然としてしまった。
確かに世間的に甘ちゃんだったのかもしれない。
そして今良く振り返って考えれば、シャルル本人の性癖の嗜好をとやかく言うのはお下劣かしらと配慮したのも間違いだったのかもしれない。
後継者争いの際、お父様にこのネタをもれなく暴露しておけばよかったと思っても後の祭りだ。
シャルルが実はゲイでしたとお父様が知れば、今度は卒倒どころでは無い。
へイストン家の血筋を守る事に心血注いできたお父様の心の臓が…今度こそ、もたないかもしれない。
(しかし着々と父が真実を知る日Xディは近づいているのよ)
恋人を養子にするだのなんだので、ゆくゆくは後継者問題ーーいやその前に配偶者問題で揉めることは予測がつく。
更にもうひとつ問題がある。
シャルルは超・超・超絶エゴイスティックでナルシストだ。
そして、ヘイストン家を心から誇りに思い、愛し過ぎている。
(そのヘイストンラヴな部分だけはとても敵わない)
とわたしは思っている理由が実はある。
それは『ヘイストン家』を愛するあまり、彼はゲイでありながら唯一子供を孕ませてもいいと思う相手が実の姉――つまりわたしであるという完全に●●ガイの思考だ。
(これはわたしの間者がシャルルを探っている時に、彼が彼の取り巻きの一人に漏らしたという、探った方も真っ青になった情報だ)
あの子は一体正気なのだろうか?
実の姉を愛するというのにも限度がある。
まともで普通の兄弟愛を望むわたしにはとてもついて行けない。
(我が家はチェーザレ家ではないのによ?)
昔から女性でも亡き母は勿論なのだが、やたらわたしを溺愛する傾向があるのはこれか――と鳥肌が立った。
勝てばシャルルに出て行ってもらうだけだが、負けた以上ヘイストン家にはいられない。
(ここに居れば、これから後継者問題に行き詰まったシャルルがいつ夜中に襲いにくるか分からないし)
冗談でなく本気で身の危険を感じる。
(速攻でこの家を出るべきだわ)
ちょうど良いタイミングで、シャルルは明日から領地の視察に出る予定だ。
(お父様に言って、明日か明後日には家を出よう)
と決意したのだった。
+++++
「――王子のお名前はジョシュア様だ」
意識を取り戻したお父様がようやく教えてくれた。
どうやら、ジョシュア=D=ローアンというのがお名前のようだ。
わたしは馬車で山道をガタガタと移動していた。
「ちょっと…こんなに山奥にあるとは聞いていないわ」
父ヘイストン卿がわたしを円満に家から追い出すために見つけた嫁ぎ先は、一応王族だった。
『何と言っても王子様だから』
とは言っても地方のいち貴族の側室の方からお生まれになった末弟の方らしい、十三番目の方だから勿論…継承権など無きに等しいけれど。
(まあ、気楽と言えばそうだけどね…)
邪魔な娘をお金をつけて押し付けるのに、名門ヘイストン家としては外聞的には悪くない相手だ。
けれどほとんど世俗と関わらない為か、その噂を聞かないが故に見た目も分からない謎のお方だ。
お名前もほんの昨日、一昨日知ったばかりである。
歳だけはお聞きしていて、わたしの五歳年上の今年二十三歳だった筈だ。
王族の方はほとんど十代でご結婚されるから、やや晩婚になるだろう。
急に森が開けて大きな邸宅が見えてきた。
『とうとう我が国十三番目の王子様であるジョシュア=ローアン様にお目にかかることになるのだ』と思うと、わたしは身の引き締まる思いだった。
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