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最終章 We are Free !

元次期龍神の本音は

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 アルティアは黒い海に潜って膝を抱えた。これ以上神々の幻影に惑わされたくなかったから。


 けどそれは、意味がなかったようで。

 潜って膝を抱えて目を閉じているのに風の精霊・ウェイトがねっとりとした声で言う。




『それは当たり前じゃない!あなたの事を真剣に考えているんだから!


 貴方は同じことをされて怒らないの!?』



 …………………多分、いや、絶対怒る。

 なんで?って泣き喚く自信すらある。


 ラフェエルが私の事を愛してくれているのをちゃんと私はわかっている。


 私もラフェエルを愛している。



 傍に居たい、触れたい、唇を交わしたい、他愛のないお喋りをするだけでもいい。罰を落とされてもきっと嬉しい。





『……………………そこまで思っている。のに、貴方は離れようとしている』



 闇の精霊・ケルベロスが静かにそう言う。



 ……………………そりゃあ、一緒に居たかった。

 何度も夢見たわよ、ラフェエルとのこれからを。


 ワールドエンドでまやかしに唾を吐いた時、『これで一緒に生きられる』と浮かれたわ。



 けど、初代龍神を完全に抹殺するために最大限の魔力をぶつける必要があった。だから全部の魔力を込めた自爆を選んだの。



 私が、ラフェエルを幸せにしたいと思ったから。私が死ねばそれが叶うと思ったから。




『………………本当に、そうなのか?』




 死神・ハデスが問いかけてくる。




 ………………本当にそうだよ。

 ラフェエルが私の為に死のうとしてたように、私もラフェエルの未来の為に死のうとした。



 世の中というのは上手いことできていて、何かを得るには何かを捨てなきゃいけないのだから。




『嫌だ、欲張ると言ったのは誰ですか?』




 _____!




 青い光を放つクリスティドに言われて、ハッとする。その隣に現れた緑の光を放つエリアスが手を前で組んで言った。



『アルティア様は確かに言いました。どれも諦めないと、言いました』



『そうよっ!あの時、ドラマのワンシーンみたいでかっこよかったのに、今の有様は何!?ヒロインなんでしょう!?』


 白い光に包まれたフランがギャン、と騒ぐ。茶の光を纏うリーブも現れて、前に出た。



『ラフェエル様は貴方のことを考えています』




『………………お前も思っているのだろう?アルティア』


『……………アルさま』


 紫の光を放つダーインスレイヴが私に諭すように言ってから、銀の光を放つガロが、私を呼んだ。金と赤の瞳に光が篭っている。



『アルさま、起きて、ガロ、アルさまと一緒に居たい』





 ……………………みんな…………………



 でも、私……………………




『………………アル』



 不意に、呼ばれた。
 振り返ると____ガーランドが暗闇の中、立っていた。




 「……………ガーラン、ド?」



『さっきみたいにお父さん、って呼べよ』



 「なんで……………………?」




『今はそんなの、どうでもいいだろ?
  なあ、アル。アルは死ぬ事を望んでいたのか?』


 「だって、それしかなかったから………それに、ガーラン………お父さんだって、そうだったんでしょう?」




『…………十分、役目は果たした、って?』



 「事実、初代龍神は死んだでしょう?………私がここにいる前に、消し炭になって消えたもん。私の役目は終わったと思うし、だからもういいかな、って…………」




『嘘つけ、我は父親だぞ?…………本当は、そう思っていないんだろう?』




 「そんなこと言ったって…………」



『願えばいけるって。我の娘ながらこんなに強いんだから』



 そう言ってガーランドは茶化してきた。いつもの笑顔を見せて、笑ってて。



 だからかな?



 「ねえ、………お父さん」



『なあに?』



『私、私、さ………………………

 お父さんが、いないと…………寂しいよ』




 アルティアはそう言って、黄金色の目から涙を零し、無理に笑いながらそう言った。









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