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第31章 『呪い』と戦う主人公
子供たちの暴走看病 #3
しおりを挟むセラフィールは最近覚えたピアノの歌をアカペラする。とても激しい歌で胸に置かれた手をトントトン、とリズムを立てて叩いている。そのうち先程アミィールに怒られ、頭にたんこぶを作ったアドラオテルがまたまた顔を出した。手には年季の入った絵本を持っている。
「じゃー俺は、絵本を読んであげるぞ!
むかーしむかし、あるところに………」
「………………」
セオドアは真顔を作った。
カオスだ、カオスの空間が出来ている…………左耳からはセラフィールの可愛い歌声が聞こえ、右耳にはアドラオテルの軽い調子の音読が聞こえている。
どちらを聞けばいいのか分からない上寝るタイミングを失ったセオドアは黙って2人の『看病』を受けていた。
* * *
子供達は俺を看病してくれた。
とても嬉しいんだ。
嬉しいんだけど……………
「ぐがー!」
「すう…………」
「……………重い」
ぽつりと呟いたセオドアの身体の上には2人の子供達。アドラオテルは絵本を持って、セラフィールは俺の顔の近くにピアノの楽譜を散らかして。その他にも2人の玩具に囲まれている。
『看病』というより『看病ごっこ』を受けている気分だった。子供達は俺の頭にタオルを乗せることまで取り合っていたんだぞ?
____そんなの、嬉しいに決まっているじゃないか。
身体に乗る重みが愛おしい。
考えれば、いや、考えなくても分かるよな。生まれた時はあんなに小さかった命達がこんなにも大きくなったんだぞ?あともう少しすれば4歳だ。もう4年、この子供達といるけど、こんなに大きくなったとは思ってなかった。
たどたどしくとも、俺を看病してくれたんだぞ?…………16歳までの俺だったらこんな未来、描けなかった。ああ、何度でも思うさ。さっきの夢ではないけれど、アミィールと出会ってなかったらこの子供達は生まれなかったんだぞ?
____とても、素敵なことじゃないか。
俺たちの愛の結晶はこんなに愛らしく、優しく、楽しい子達で。
俺はまだまだ未熟だけど、それでもパパ、なんてよんでくれるんだ。嬉しいさ。
そんなことを思いながら子供たちを布団の中に入れる。熱が出てるからダメかもしれないけれど、だいぶよくなってきたし、少しくらい___「だめですよ、セオ様」…………あ。
そんなことを思っていると、アミィールが二人の子供たちを抱き抱えた。そして、優しく微笑む。
「子供たちに熱が移ってしまいます…………なんて、もう手遅れかもしれませんが」
「アミィ」
アミィールは子供達を部屋に未だ備え付けられた大きなゆりかごに寝かせてセオドアに近づく。隣に来ると、セオドアの顔を自分の胸に埋めた。
「………もう、大丈夫ですか?」
「………ああ。熱も下がった、と思う。
アミィとアド、セラのおかげだね」
「ふふ。…………でも、もう熱を出さないでくださいまし。わたくし、セオ様が死んでしまうのは本当に嫌です」
「………ん、今回の件は反省している。
当たり前だけどアミィにも子供達にも、夫で父親は私一人だものな」
「そうです。貴方はただ1人、わたくしの愛おしい夫は貴方一人なのです。
…………その貴方がいなくなってしまっては、わたくしと子供達は………」
小さくなっていく声。微かに震えている。……………その気持ちを理解するのは難しくなかった。
俺だって、逆の立場なら同じことを思うだろう。アミィールと子供達のいない世界など考えられない。考えたくない。
「____アミィ」
「セオさ…………っん」
セオドアは少し離れてから次は自分からアミィールを抱き寄せ、キスをした。熱が移るかもしれない。いや、移ってもいい、なんて自分勝手なことを考えている。
俺と同じ菌さえも受けて欲しいと思うのだから俺は最低なのだろう。けど、…………我慢はできなかった。
「ん、ふぁ…………」
熱を出したというのに、それを感じさせないような猛猛しいキス。頭が朦朧とする、甘い唇に、熱のせいかいつもよりも熱い舌。
でも、愛おしい人からのキスは全部嬉しくて、心地よくて、全ての事柄がどうでも良くなるのです。
セオドアはアミィールを優しくベッドに押し倒した。耳まで赤いセオドアは、息遣いが荒い。甘い吐息を漏らしながらアミィールの甘い蜜を享受する。そして、慣れた手つきでアミィールのドレスに触れた。
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