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第23章 愛する息子と娘よ

ハプニングだらけの朝

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 ______子供を持つ親の朝、それは必ずしも平和で甘いとは限らない。


 「…………ん」


 群青色の短髪、緑色の瞳のセオドア・リヴ・ライド・サクリファイスは鳥の囀りで目が覚める。

 彼はギャルゲー『理想郷の宝石』の主人公に転生したが、攻略対象キャラとは結婚せず、ゲームに出てこなかった世界で1番大きな国の皇女に見初められなんやかんやで結婚したのだ。


 セオドアは寝ぼけた頭で隣を見る。
 隣には妻がいない。妻は子供を産んでから再び朝の鍛錬を始めた。本当はして欲しくない気持ちもあるけれど、彼女はとても強く、自分に厳しく、又"軍事国家"・サクリファイス大帝国の次代の皇帝として強く在らねばならない。


 まあ、『任務』という殺戮は俺と約束したとおり彼女の父親が止めてくれているからそれで_____って。


 セオドアはそこまで考えて、ふと気づく。隣に赤ん坊がいないのだ。生まれた当初こそゆりかごで寝かせていたが、生まれて3ヶ月、子供たちと共に寝るようになった。妻が連れていった可能性はもちろんあるけれど………それでも、嫌な予感がした。


 セオドアは頭を働かせて今の状況を理解する。ピアノの音もない、空中に剣もない、だがしかし。


 「……………」



 自分が寝ているベッドが、浮いている。
 ええそれはもう天蓋の天井が喰い込むほど浮いている。こんな悪戯をするのはこの部屋に一人しかいない。


 セオドアはベッドから飛び降りて着地してからキョロキョロと辺りを見渡して____見つける。



 「きゃー!」



 群青色の情程度に生えた髪、黄金と紅の瞳をキラキラとさせながら声を上げて笑い宙を浮いている___我が息子、アドラオテル・リヴ・レドルド・サクリファイス。


 セオドアははあ、と溜息をついてアドラオテルに声をかけた。




 「アド、………パパの所においで」


 「う?…………げえ」



 セオドアがそう言うととても嫌そうに吐く素振りを見せてふわふわと天井にくっついた。


 …………本当にアドラオテルは…………仕方ない。


 セオドアは両手を広げて、ぽつりと呟いた。


 「____解除魔法・浮遊解除」


 「あぶぅ!」


 セオドアがそう呟くアドラオテルは下へ下へと下降する。最終的にセオドアの胸の中へと収まった。


 …………え?普通に言っているけどどういう状況だって?それは俺が聞きたいよ。子供たちが生まれて3ヶ月、まだ3ヶ月だというのにこういう『悪戯』をするんだ。とても可愛い悪戯だけれど、超常現象は超常現象である。


 ヘタレでビビりな乙女男子の俺のままだったらこの現実を受け入れられないかもしれないけれど____チート能力持ちの愛おしい妻の子供だと考えたら納得せざるを得ないのだ。


 セオドアはそう考えながら、腕の中にいるアドラオテルを見る。


 「アド、だめだろう?ベッドを浮かせて遊ぶのは。前も言ったじゃないか」


 「むぅ」


 アドラオテルはぷくーと頬を膨らませる。………このとおり、親の言うことを聞きたがらない子供だけれど、可愛い子供には違いない。

 セオドアはふ、と笑みを零してぎゅ、と抱きしめた。



 「アード、いい子だからベッドを元の場所に戻して」


 「むーむー!」
   

 「おーねーがーい………ん?」



 じたばたと暴れ素直に言うことを聞かないアドラオテルの相手をしていたら、勝手にベッドが下降した。アドラオテルは魔法を解除していない。つまり。


 「セオ様、アド、おはようございます」


 「アミィ!」


 そこまで考えたところで入口を見ると__俺の自慢の妻で皇女のアミィール・リヴ・レドルド・サクリファイス様が腕に紅銀色の髪を情程度に生やし、黄金と緑の瞳をぱちぱちさせている我が娘、セラフィール・リヴ・レドルド・サクリファイスを抱きながら、もう片手を前に出していた。


 俺はそれを見つけるなりアドラオテルを連れてアミィール様に駆け寄る。アミィール様はほんのり汗をかいている。それを放って、申し訳なさそうに目を伏せた。











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