315 / 469
第22章 父親 にレベルアップした!▽
春の月の18
しおりを挟む『普通』の子供は臨月になったら生まれる。何を持って『普通』というのかは分からないし、俺が前世で生きていた日本では確実とは行かなくても日にちの調整は出来た。
親というのはその日を心待ちにしている。生まれてくる子供を迎え入れる準備をし、そして生まれた時に盛大に喜ぶ。
他の人はわからないけど俺はそう思っているし、子供を持つなら盛大に祝うと決めていた。
だが、俺達夫婦………いや、俺の愛おしい妻は『普通』ではない。
『第1皇太子は必ず決まった日に生まれる』
そう、文献には記してあった。
最初は信じられなかったし、その後も信じていなかった。
けれど。
それは____どうやら、本当らしい。
* * *
春の月の18日。
「っ、あぁ…………ッ!」
「アミィ………っ!」
群青色の短髪、緑色の瞳のセオドア・リヴ・ライド・サクリファイスは涙目で紅銀の長髪、黄金色の瞳を持つアミィール・リヴ・レドルド・サクリファイスの手を握っていた。
じんわりと手汗が滲んでいる小さな白い手が俺の手を折ろうとするように固く繋がれる。息遣いも荒く、玉のような汗を流している。
これがどういう状況か分からない人間は居ないだろう。
これは_____
「ほら~!気張れ~!アミィール~!赤ちゃん出てこないよ~!」
「アルティア皇妃様!気が散るんで黙ってください!出産は命懸けなのです!」
セオドアは黒髪の長髪、黄金色の瞳を持つ目の前で苦しむ妻によく似た義母でありサクリファイス大帝国皇妃のアルティア=ワールド=サクリファイスに怒鳴った。
____そう、アミィール様の陣痛が始まったのだ。
セオドアは未だにギャーギャー騒ぐアルティアを放ってアミィールの手を両手で包み込む。
春の18日早朝、まるで決まっている運命だと言わんばかりに、陣痛が始まったのだ。朝起きたらアミィール様がお腹を押さえて苦しんでいた。俺はすぐさま魔剣・ダーインスレイヴを呼び、アルティア皇妃様、別室にいるラフェエル皇帝様、先日来た俺の両親2人、そして産婆に伝えてもらった。
全員、この日に生まれると確信していたから集まるのにそう時間はかからなかった。………本当は俺もアルティア皇妃様も別室に行くように言われたけれど、そんなの嫌だった。
立ち会いたかったのだ。我が子達にすぐ会いたかった、ということもあるが………よくドラマやアニメなどで子供を産み落として死ぬという展開がある。そうなったら嫌だった。祈るような気持ちで懇願して同席を許してもらった。
アルティア皇妃様は、アミィール様が龍で暴れたり、『代償』が起こった時などの有事に備えてスタンバっているんだ。
それはともかく____
セオドアはそこまで考えて、愛おしい妻に目を向ける。
「はぁ……ッ、くう…………」
「アミィ…………!」
アミィール様は美しい顔を歪めて、こうして痛がっている。子供を産む痛みというのは鼻からスイカが出るくらいだと前世で聞いたことがある。それだけ痛いのだ。流石に強いアミィール様もこれは痛いらしく、涙が滲んでいる。
見ているだけで俺まで涙が出てきた。
「アミィ、アミィ………!」
「ッ、せ、オ様………泣かないで、っあ、ください、まし…………わたくし、かなら、ず………セオ様の赤ちゃん、っ産み落とします、から………」
アミィール様はそう言って痛そうにしつつも俺に笑みを向けている。俺を心配させないように、という気遣いが伝わって………涙は更に溢れる。
頑張って、頑張ってくれ、アミィール様…………!
俺も、俺も居るから………!
神にも祈る気持ちで、俺はアミィール様の御手を額につけた。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
【完結】わたしはお飾りの妻らしい。 〜16歳で継母になりました〜
たろ
恋愛
結婚して半年。
わたしはこの家には必要がない。
政略結婚。
愛は何処にもない。
要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。
お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。
とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。
そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。
旦那様には愛する人がいる。
わたしはお飾りの妻。
せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。
転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです
狼蝶
恋愛
転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?
学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。
真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。
そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが…
7万文字くらいのお話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
女性が少ない世界へ異世界転生してしまった件
りん
恋愛
水野理沙15歳は鬱だった。何で生きているのかわからないし、将来なりたいものもない。親は馬鹿で話が通じない。生きても意味がないと思い自殺してしまった。でも、死んだと思ったら異世界に転生していてなんとそこは男女500:1の200年後の未来に転生してしまった。
異世界転移した心細さで買ったワンコインの奴隷が信じられない程好みドストライクって、恵まれすぎじゃないですか?
sorato
恋愛
休日出勤に向かう途中であった筈の高橋 菫は、気付けば草原のど真ん中に放置されていた。
わけも分からないまま、偶々出会った奴隷商人から一人の男を購入する。
※タイトル通りのお話。ご都合主義で細かいことはあまり考えていません。
あっさり日本人顔が最も美しいとされる美醜逆転っぽい世界観です。
ストーリー上、人を安値で売り買いする場面等がありますのでご不快に感じる方は読まないことをお勧めします。
小説家になろうさんでも投稿しています。ゆっくり更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる