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第18章 新しい家族と新しい生命
新しい家族 #2
しおりを挟むセオドアの涙の溜まった瞳が大きく見開かれる。それはセオドアだけでなく、その場にいた全ての者が黙った。
_____時間が、止まった。
まるで某少年漫画でラスボスが使う技のように、誰も何も喋れない。
懐妊…………って?
どういうことだ?
理解出来ない、何を言われたんだ?
戸惑うセオドアと全員の心を見たグランドは『本当に知らなかったのですか、それは悪いことをしたのかもしれませんね』と呑気に言って、続けた。
『____アミィール様の下腹部に、2つも魂が輝いております。
………つまりは、そういう事です』
2つの魂……………?
頭が真っ白だ、何も考えられない。
思考が働かない。なにがどうなっている?
それがもし、本当であれば____それは……………
未だに言葉が出ないセオドアの代わりに、ラフェエルが立ち上がり、いつもの凛々しさを感じさせない足取りで呆然としているアミィールに近づいて、両肩を掴んだ。
「…………アミィ、お前、月のものは来ているか?」
「え、っと…………そういえば、3ヶ月ほど………来ておりませんわ」
「身体がだるいなどの症状は…………?」
「あ、あります…………それと、食事も最近…………」
アミィール様のお言葉を反芻する。
…………確かに、俺は馬車の旅をする前にアミィール様を毎日抱いていた。半年前は月のものが来ると流石に抱けないから、と我慢したが………最近はそれがなかった。
食事も普段から少食であるが、最近は全然食べてないし、食べていても気持ち悪そうにしていた。
バラバラになったピースが嵌っていく。
纏まらなかった思考が鮮明に繋がっていき____ひとつの答えを導き出した。
セオドアは力なく立ち上がり、ラフェエルのようによろよろと近づいた。アミィールはそんなセオドアに困惑の色を見せている。
つまり、それは_____
「セオに、子供が………………!」
「子供が…………!」
「出来た、のか……………?」
「____ッ、アミィ!」
「きゃっ!」
家族も立ち上がる。その答えを聞いた瞬間、セオドアはラフェエルからアミィールを奪って強く抱きしめた。その目にはもうポロポロと涙が零れている。
____アミィール様のお腹に、俺の子供が、出来たんだ。
「アミィ………っぐ、アミィ…………!」
「せ、お様………わたくし、………」
号泣するセオドアと戸惑うアミィールを他所に、ラフェエルは怒鳴るように叫んだ。
「セシル!今すぐ医者を呼べ!今すぐだ!」
「は、はい!」
場が慌ただしくなる中、セオドアはアミィールを抱きしめてずっと泣いていた。
_____俺の子供が愛する人の中に芽吹いたんだ。
そう噛み締めながら、ひたすら泣いていた。
* * *
頭が、働かない。
グランド様は、わたくしの中に『2つの魂がある』と仰った。
_____それは、どういう意味?
お父様は、わたくしに月のものがあったかどうか聞いた。女性にそんなことを聞くなどはしたない。
____それは、どういう意味?
セオドア様が、泣いている。いつもの優しい抱擁ではなく痛いくらい抱き締めてくる。耳元にはセオドア様の泣き声が聞こえている。
_____それは、どういう意味?
わたくしの身体は…………何か異常があるの?何か悪いことでもあるの?どういうこと?
知りたい。
皆様がわたくしを見ている理由が。
「セオ様……………わたくし、なにが、起きているのですか…………?」
呂律が回らない中、愛おしい御方に聞いた。愛おしい御方はゆっくりわたくしから離れ、わたくしを見た。
群青色の髪がぐちゃぐちゃだ。緑色の瞳から涙が溢れている。鼻水も出ている。それなのに。
_____今まで見た事のないくらい幸せな笑顔を浮かべていた。
「アミィ、…………俺達の間に、子供が、子供が出来たんだ!」
「____ッ」
子供?子供が出来た?
セオドア様との、子供?
セオドア様の子種が、わたくしの子袋にあるの?
その種が芽吹いて、ならば、わたくしの身体には……………
身体が震える、喉がカラカラだ、目の前が滲む。全部悲しい時に現れる症状なのに、心はこんなにも温かさと嬉しさに包まれている。
わたくしは______
「わたくしは、セオ様との子供を…………持てたのですか?」
「ッ…………そうだよ、アミィ!ありがとう、ありがとうアミィ………!」
セオドア様はそう言って、わたくしに唇を重ねる。甘くてしょっぱいキス。いつもと違うキスなのに____とても、とても素敵な気持ちが胸の中で弾けた。
_____わたくしとセオドア様の子供がわたくしの中に生まれたんだ………!
それを自覚すると、嬉しくて、嬉しくて。
アミィールとセオドアは場所も人が居ることも忘れて長く深くキスをした。
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