上 下
221 / 469
第15章 主人公と兄

『穢れた一族』の良心

しおりを挟む




 アルティア皇妃様が俺の目線に合わせてきた。先程まで居なかったのに、とか、この人もアミィール様を止めなかったんだとか色んな考えや感情が浮かんでは消える。


 そんなセオドアに、アルティアは静かに、でも力強く言った。



 「____アミィールは、私達のせいでそう育った。人を殺すことを『自分の使命だ』と勝手に思い上がって、自分の血を嫌って…………作り物の笑顔しか、作り物の話し方しかしなかった殺戮人形だった。

 けどね。


 ____アミィールは、貴方と出会って変わったの」



 「…………え?」



 予想外の言葉に、セオドアの涙に濡れた緑の瞳が見開かれた。アルティアは優しく群青色の髪を撫でながら言葉を紡ぐ。



 「アミィールが貴方を好きになった、と言った時___あの子の本当の笑顔を見たの。7歳から人を殺して作り物の笑顔しか見せなかったあの子が………貴方の事を語る時だけ心からの笑顔だったわ。

 貴方の綺麗な心が、あの子の冷たくなった心を溶かしたの。貴方の優しい心があの子に『人間の感情』を教えたの。


 これは、貴方が___貴方の手が、私たちと違って真っ白だったからなのよ?その貴方が自ら手を黒く染めることは、……………今まで貴方が教えた全てのことを捨てることと同義なのよ」


 「ッ、そんなこと…………」



 「そんなこと、あるのよ。

 ___私達家族の、従者達の手はとてもどす黒い。何を奪ったのかさえ分からないくらい沢山の命を奪い、沢山の血を浴びてきた。


 心もどす黒くなって………もう綺麗な自分には戻れない、引き返せないほどに。黒すぎて何色にもなれなかった私達家族を少しでも『いい人』にしてくれたのは紛れもなく貴方。


 その貴方が血に染ることは__私もラフェーも…………アミィールも許せない」


 「わっ」


 アルティア皇妃様はそう言って、俺の手を取り引っ張って立たせた。そして、優しく抱き締められる。




 「……………だから、貴方まで穢れると言わないで」


 「…………っ、ぐすっ…………」



 温かい体温は、アミィール様と同じもので。匂いも同じもので………とても、人を殺している、『穢れている』なんて思えなかった。それだけ優しくて、また涙が溢れる。アミィール様に抱かれている錯覚を覚えて、無性に会いたくなった。



 ____俺は無力だ。



 _____アミィール様の御心さえ知らず、沢山の優しさをくれたこの人達に甘えて、綺麗な幸せばかり享受して、この人達の悲しみも使命も何も知らなかった。


 ______自分に、この人達のように人を殺すことなどできない。自分が誰かを殺すなんてことを考えるのも嫌だ。人殺しなんて怖いと思うのは変わらない。




 けれど。


 ____こんなにも温かくて、こんなにも厳しくて、こんなにも優しくて、こんなにも甘い家族を嫌いになることは到底出来そうにない。


 こんなに悲しい道を歩むこの人達を…………嫌いになどなれるはずがないんだ。



 気高き人殺しの一族。
『穢れた血』を持つ一族。
 ……………心までも黒く染ってしまった悲しい一族。


 それでも、俺はこの人達が大好きなんだ_____



 セオドアはラフェエルとリーブ、ガロに見られていることも忘れてアルティアの胸の中で子供のように泣きじゃくった。何時間も何時間も時間を忘れて泣いた。


 アルティアはそれでも胸で泣きじゃくる優しい我が子を、何時間も優しく、大事そうに抱き締めていた。










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

処理中です...